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38/42

38.遺跡(38/42)

 遺跡の入り口からすでに不穏だった。


 入り口は本来、岩戸のように閉じられていた。それがバラバラに斬り刻まれて、周囲にばらまかれている。


 隠された遺跡は、最近になって何者かの手で曝かれたらしい。


 厚さ一メートル以上の岩盤が、まるでゼリーか何かをナイフで切ったように、崩れ、斬り裂かれ、穿たれていた。


 だけではない。


 監視のため派遣されたであろう、ガゼット家の諜報員が倒れている。胸を一付き。恐ろしく鋭利な刃物によるものだ。


 まだ諜報員に体温が残っている。


 どういうことだ?

 俺は……消却する記憶を探る。


 ぽっかりと口を開けた遺跡の奥に、得体の知れない何者かがいるのは間違い無い。

 しかもそいつは相当に、狂暴だ。


「ごめん……ベアトリス」


 俺はフォレストエッジで再会したベアトリスとの記憶を消却した。再会の喜びも、懐かしい部屋の記憶も、彼女の酒場の手伝いをしたことも。


 こうやって、何度も忘れて、それでも俺は前に進み続けなければいけないんだ。

 準備を整え闇の中に俺は分け入る。


 魔力灯のランタンのかすかな光を頼りに、俺は遺跡の最深部へと降りていった。

 途中、遺跡に眠るゴーレム系の魔物……の、バラバラにされた残骸を無数に発見する。


 相当な切れ味……というか、並の剣士ではゴーレムを分断することは不可能だ。


 冒険者に換算すれば、王妃級が国宝レベルの聖剣だの魔剣だのを振るっているとみていい。

 もしくは――


『これだけの切れ味を発揮できる可能性は……』

「わかってる。それ以上は言わなくて良い」


 勇者の才能。

 光の魔法力を凝縮した光刃であれば、同じ事が可能だった。

 となれば……この王国で俺を除いてたった一人。


 あの男しか考えつかない。

 ヴィンセント・ガゼット。


 いったい何が目的なんだ?

 最奥で再会しないことを願いつつも、叶わないという予感だけが心に残った。




 進む、進む。降りる、降りる。

 途中で適度な小部屋を見つけると、俺はそこに聖域の結界を施す。


 消却する記憶は……ノーティス家の執事長バーナードとの思い出を選んだ。

 残して置きたかったが仕方ない。


 これでもうノーティス家とは、完全に「切れて」しまった気がした。 

 

 そして――

 最奥とおぼしきフロアに出る。


 今まで探ってきたどの遺跡にも無い、広いドーム状の空間だ。


 遺跡の機能が生きているのか、薄ぼんやりと明るい。


 中心に水晶の柱が立っている。直径十メートル以上のその中に……灰色の影が胎児のようにうずくまっていた。


 人間のシルエットをしている。全身灰色だ。彫像のようにも見えた。


 耳は長く尖り、目を閉じ眠ったように静かに佇む。青年……だろうか。


 まるで琥珀の中に閉じ込められた古代の生き物を彷彿とさせた。


 そして、柱の前には黒いフードと仮面の一団。教団の残党だ。


 二十人ほどだろう。跪くようにして水晶柱の前に並ぶ。


 連中はうめき涙しながら、柱の中の存在に一心に祈りを捧げている。


 気配を消す魔法は使っていないのだが、一向にこちらに気付かない。


 ドーム内に祈りの声が響いた。


「お目覚め下さい! 魔王様!」

「どうか我らの願いをお聞き届けください!」

「復活して世界を変えてほしいんです!」


 口々に願望をぶつけるも、水晶柱に封じられた存在は微動だにしない。


 俺は遠くから柱を見上げる。


 瞬間――


 灰色の影が目を開いた。俺と視線が交錯した……気がした。


「おお! ついにお目覚めになられたぞ!」

「我らの祈りが通じたのだ!」

「さあ、どうぞ復活なさいまし! 魔王様!」


 目を開いたように感じたのは、どうやら俺の見間違いではなかったようだ。


 が、柱の中のそれは再び目を閉じた。


 狂信者達が悲鳴を上げる。


「なぜです! ここまで全てを捧げたというのに!」

「大司教様の仰せのままに! 我らの記憶を……思いを献上したではありませんか!」

「全部をやり直せるって……そう信じて今日までがんばってきたんですよ!」


 再び眠りについたそれにすがるように、口々にわめき散らす。


 こいつらにもこいつらの人生があって、この瞬間のために生きてきたんだろう。


 だが、こちらとて同じだ。まさか魔王の痕跡ではなく、魔王そのものを見つけられるとは思っていなかったが。


 いや、連中が言っているだけで、これが魔王とも限らない。


 今、注意を払うべきは狂信者どもでも、水晶柱に封じられた魔族でもない。


 大司教……か。記憶を献上……か。


 この遺跡の封印を解いたであろう存在の気配を探る。


「いるんだろうっ!? 出てこい!」


 俺が声を上げた瞬間、狂信者達が一斉に俺に振り返る。


「し、侵入者だ!」

「殺せ! 魔王様をお守りするんだ!」


 立ち上がり、フード付きのローブの下から剣を抜く。

 二十人が俺を囲もうとしたその刹那――


「やはりゴミどもでは足りなかったか」


 低く淡々とした男の声とともに、俺の目の前で光が爆ぜた。危険を感じ、短杖を素早く抜くと、俺は自身の前面に光の魔法力による防壁を展開する。


 光刃波が水面に広がる波紋のように押し寄せて、狂信者達の胴体を水平に真っ二つにした。


 一瞬の出来事だった。虐殺だ。魔族を相手に同じようなことをしてきた俺が言うのもはばかられるが、これが人間のやる事なら、相当いかれてやがる。


 俺にまで達した光刃波は光の防壁に接触すると、激しく火花を散らして……相殺された。


 同じ属性同士のぶつかり合いによる消滅で、衝撃波が発生し俺は吹き飛ばされた。


 壁に背中がめり込む。辛うじて顎を引き後頭部の強打を免れたが、壁に押しつけられたまま前を向く。


 水晶柱の背後から、黒衣の男がゆったりとした足取りで姿を現した。


 男は教団のフードを脱ぎ去り仮面を外す。


「やはり私の教え子だな。早かったじゃないか。A判定をやろう」


 ヴィンセント・ガゼットだった。


配信予定はこんな感じです。


◆1日目:8月15日(土)

07:00:第1話・第2話・第3話

12:00:第4話

15:00:第5話

18:00:第6話

21:00:第7話


◆ 2日目:8月16日(日)

07:30 / 11:30 / 15:00 / 17:30 / 20:00 / 22:00


◆ 3日目〜6日目:8月17日(月)〜 20日(木)

06:40 / 12:10 / 16:30 / 18:10 / 20:40 / 23:00


◆ 7日目:8月21日(金)

06:40:第38話

12:10:第39話

17:30:第40話

19:30:第41話

21:00:第42話(最終話)

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