10.結ばれて(10/42)
一週間後――
村の教会に人々が集まって、結婚式が行われた。新郎側の家族親戚一同は都合により不参加である。
まあ、ノーティス家からは勘当済みだしな。
白いドレス姿のマリエルは美しかった。
聖堂内に詰めかけ、入りきれなくなって外にまで村人達が集まっている。
二冊の本――光の書と影の書が安置された台座の前に、俺とマリエルは並んで立った。
司祭の代わりを務めたのはソンチョ村長だ。
ソンチョがじっと俺を見据える。
「本当に良いのじゃな。お前さんが望むなら、もとの姓のままでも構わんのじゃが」
「話した通り、ノーティスの姓を俺は捨てましたから」
隣で白いベールを冠のように戴いたマリエルが、眉尻を下げて呟いた。
「本当はわたしがマリエル・ノーティスになる方がいいのかなって……」
「いいんだ。今日から俺は……」
光の書に向かう。ログ・ノーティスと自分の姓名を記してあるが、俺はペンで名字に打ち消し線を引いた。
改めて記す。ログ・ルミナス。
今日からそれが俺の名だ。
ソンチョが静かに頷いた。
「では、指輪の交換じゃの」
俺からマリエルの手を取ると、結婚指輪を彼女の左の薬指に通す。
途端にマリエルの瞳から大粒の真珠のような涙がこぼれ落ちた。
「えへへ……嬉しい。最近、泣いてばっかだね」
彼女の頬を伝う涙を拭う。
「もう悲しい思いで泣かせたりしない。俺がずっとそばにいて、マリエルを守る」
「うん! ずっとずっと、一緒だよ」
彼女が俺の薬指に結婚指輪をそっとはめた。
ソンチョが言う。
「では誓いの言葉を」
「「死が二人を別っても、想いは永遠に一つとなって愛し続けると誓います」」
この文言を考えたのはマリエルだった。彼女は常に命が尽きることを心配しているように思えてならない。
命ある限りいつか終わりはくるのだが、それはきっと、もっとずっと先の話だ。
俺達の子供が産まれて、育っていって、その子が誰かに恋をして、結ばれて……俺とマリエルがおじいちゃんとおばあちゃんになった頃。
どちらかが先に逝くかもしれないけれど、残された方は残された家族とともに、ずっと相手を想いながら終わりの日まで生き続ける。
それが家族の営みだろう。
できれば、マリエルに長く生きていて欲しいな。
俺の母は俺を産んですぐに亡くなった。自分の子供にはあんな寂しい想いをさせたくない。
ふと視線を上げると――
村人達の熱い視線が注がれていた。
マリエルがはにかんだように、頬を赤らめる。
「あ、あのね……式の最後にはね……」
「ああ、そうだな。鈍感な俺でもさすがにわかってる」
彼女の身体を包むように抱き寄せて、今度は俺の方から誓いのキスをした。
小さな鐘楼の鐘の音が山間の村に響き渡る。
村の人達。魔法を教えているガキんちょども。マリエルを俺に託した若い男連中代表のガミルまで、みんな涙ぐんで拍手する。
「「「「「おめでとう! マリエル! ログ!」」」」」
マリエルだけでなく、ちゃんと俺もその温かい環の中に入れてもらえた気がした。
産まれてくる新しい命のためにも、目一杯働こう。
腕の中で、彼女が小さく呟いた。
「わたしを選んでくれて、ありがとうね」
「俺なんかで良かったのか?」
「んもう、自信もってよ。わたしだけの王子様」
俺の人生は今、この場所でようやく始まったのかもしれない。
――幕間――
『魔王復活の兆候を感知しました』
「よりにもよって、マリエルの代でこうなってしまうとはのぉ」
『管理者に通告します。これより十七年以内に勇者の育成を完了してください』
「わしから婿殿に伝えろというのかね?」
『それが光の書と影の書を管理する村長の務めです』
「わかったよ。ライブラ……せめてその時が来るまでは、二人に幸せな時間を過ごさせたいものじゃが……どうしても婿殿は旅立たねばならぬのか?」
『それが最適解ですから』
「わしは……婿殿に村に残っていてほしい……」
『管理者の務めを果たしてください』
「ううむ……」




