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霧のメサイア  作者: 川端矢次郎
第一章 聖女の手のひら
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1-5. レジ袋の中身は

 夕飯までに、有為子と二人で買い出しに出ようということになった。

 ヨシヤとしては義父から逃げるみたいな気持ちがあったことを否定できない。


 ヨシヤは、無神経で子供みたいにヒステリックな母親を苦手に思っていた。

 なのに、あの気まずい義父と一緒にされるくらいなら母がいてくれた方がずっと気が楽だと思っている自分が不思議だった。




「で、なんで別れたわけ?」


 溶けかけの雪が路肩に残る道を、有為子は半歩後ろからついてきた。

 

「掘り下げるじゃん」


「面白そうだし」


「色んなことの積み重ねと言うほかないんだけどなぁ……」


 などと言いつつ、ヨシヤの頭には極めて具体的な口にしたくもないようなエピソードが無数に浮かんでは消えなかった。


「……強いて言うなら、金欠でデートに金かけられないって言いながら4万8000円のコート買ってたのがトドメだったかな。今着てるコレ」


「最悪」


「そのコート初めて見るけどどうしたの?って聞かれた時点で不穏だったけど、昨日買ったって答えた瞬間もうブチギレよ。お洒落はデート代のうちに入るものと認識してたんだがな……」


「ほんと最悪」


 有為子は布地の質感を確かめるみたいに後ろからコートの袖をつまんできた。


「これ5万円したんだ」


「でもよ、4万8000円ってコートにしちゃ安い方だぜ?」


「ほんと兄さん嫌い、もう帰ってこないで」


「おいちょっと勘弁してくれって……」




「あれ、穂積(ほづみ)じゃね?」


 近所のショッピングモールで買い物を済ませると、一階エスカレーター前でそんな声が聞こえた。


 穂積はヨシヤの苗字だった。

 しかし、先に反応したのは有為子だった。


 制服を着た男女グループがみんなでこちらの様子を窺っていた。


「ちょっと! 有為子じゃん!」


「え、ミサキ?」


 ミサキ。

 有為子が名前を呼んだ少女は真っ先にその一団から抜け出して、抱き着かんばかりの勢いで有為子に駆け寄ってきた。


「ええ〜うそうそ!! 用事って……彼氏とデートだったわけ!? え、かっこよくない? てかずいぶん年上だね……」


「ちょ、ちょっと違うってばぁ!」

 

 クラスの友達らしかった。

 どうやら今日遊びに誘われていて、断ったらしいことが伺えた。


 こんな田舎だと学生たちの遊ぶ場所といえばショッピングモールぐらいしかないもんだから、休みの日になるとクラスの奴らがモールに全員集合するというのはありがちな話だった。

 有為子の声は家の中で話すときより1オクターブくらい高いんじゃないかというふうに聞こえた。




「お兄ちゃん。春休みで帰ってきたの」


 有為子が弁明すると、さっきからミサキの後ろで絶望を顔に滲ませ立ち尽くしていた男子たちが露骨に頬を緩ませたのが可愛らしかった。

 

「な、なんだぁ……びっくりしたぁ……」


「やめてよねホント!」


 キャイキャイ話し始めた若者たちのそばに居座っていては邪魔かなと思い、ヨシヤは近くの雑貨店にふらりと立ち寄った。

 何か当てがあったわけでもなかった。

 店内をぶらついていると、パーティーグッズのコーナーに置かれたクラッカーが目に止まった。


 ──そういえば、明後日は母さんの誕生日だっけ。

 

 別に大々的に祝ってやるつもりもなかった。

 ただ、ちょっと驚かしてやってもいいかもな、と思ってそれを手に取った。

 本当に、取り止めもない気紛れだった。




「ちょ、ちょっとちょっと兄さんってば。どこ行ってたの?」


「ん? ド〇キで買い物」


「もー、一言ぐらい言ってよ……じゃあねみんな、バイバイ!」


 クラスメイトたちに手を振って、二人はショッピングモールを後にした。

 

「……何買ったの?」


「え? クラッカーでしょ、髭付きメガネでしょ、先っちょが引っ込むナイフでしょ」


 ヨシヤはレジ袋の中身をガサガサと漁った。


「何やってんの……?」


「お、俺も分かんねえ……」

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