1-2. 霧の向こう
「イヤー惜しかったな……」
「もう喋んなって!!」
双子に連れられて森を抜けると、小高い山の裾野にある村へたどり着いた。
小さな崖に挟まれた道が斜面を上の方へと伸びており、登っていった先には木造らしき家屋の陰がいくつか見える。
しかし、のどかな村などと呼ぶにはやけに不穏だった。
「なにこれ……」
村の入り口を、深い堀と木柵が細く狭めていた。
村というより、兵隊の陣地みたいに見えた。
その防衛線の真ん中に人一人通れるくらいの橋が通っている。
恐る恐る中へ入っていくと、その先もまた中々のものだった。
無数の木が横倒しにされ、道の右側と左側を交互に塞いでいた。
どれも枝の先がスパイク状になるよう削られていて、上を乗り越えるには危なっかしい。
先の尖った枝が突き出した丸太。
そう形容するほかない障害物が、道の端から端へと何度も迂回しながら進むことを強要してくるという有り様だ。
「なんか……ずいぶん迫力ある村だな。戦争でもしてんの?」
「……盗賊が来るからね」
「これ、導師様が全部作ってくれたんだ」
「ふうん……」
導師様、というのが何なのかこのときのヨシヤには分かりかねた。
「ジナ! ラッカ!」
道を抜けると、何人かの村人が駆け寄ってきた。
「ゴランさん!」
「一体どこ行ってたんだ!? 君らの身にまで何かあったら……」
「ごめんなさい……向こうにヌシが見えたって、ラッカが言うから……」
ヨシヤはここで初めて双子の名前を知った。
どちらがジナでどちらがラッカだか、顔で見分けるのはとても無理がありそうだった。
ヨシヤは猫耳の先に小さな斑点がある方をジナ、そうでない方をラッカと覚えることにした。
「……こっちの兄ちゃんは? なんだ、ずいぶん良い身なりをしてるが」
ゴランと呼ばれた中年男性がヨシヤの方に水を向けた。
「えあ? ああー俺っすか? ハハハ……なんだろ。ちょっと余所からやってきたもんでしてェ……」
ヨシヤはとたんに挙動不審になった。
異世界からやってきました。
そんな話をどう丸めて説明するか、考えてもみなかった。
「余所から、って……霧で道も塞がってるのに、一体どうやって」
ゴランは恐ろしく怪訝そうに顔をしかめた。
たかが「霧」という言葉にはあまりに大袈裟と言っていい深刻さだった。
「霧……?」
ゴランは無言でヨシヤの肩越しに坂道の方へ視線を向け、軽く顎を上げて示した。
振り向くと──
「え、なにこれ」
──丘陵の上から眺めて初めてヨシヤは、このあたり一帯がどういう状況にあるのかを理解した。
坂道を下りきった森のちょっと奥まった方。
そこからずっと先まで、何もかもが濃い霧に覆われていた。
ヨシヤは最初、この村が雲の上にでもあるのかと思った。
この村を除いて、世界の全てが霧に包まれてしまったとでもいうかのような光景。
目を細めると、霧の向こうの遥か遠くにかろうじて台地とその上の街らしきものが、小さく見えていた。
「街道も何もかも霧で塞がってんだ。よそ者が来られるわけがねえんだよ。……お前たち、盗賊どもの仲間を連れてきちまったんじゃねえのか」
双子たち……ジナとラッカは、不安げにこちらを見上げた。
尻尾の先が強張ったように丸くなる。
村人の言い草にはどこか殺意すら込もった気迫を感じられて、ヨシヤは唐突に鳥肌が立った。
「と、盗賊!? ア、アッハハハハ、嫌だなぁ!! 俺そんなふうに見えますかねえ!?」
「……ま、確かに盗賊って感じじゃあねえが」
村人はヨシヤの足元から頭まで見渡してそう言った。
ヨシヤは、潔白を認められたと安堵した。
その次に、ひょっとして少し馬鹿にされたんじゃないかと思った。
このナヨナヨしたモヤシ野郎が盗賊なんてね……。
そういった含意が、彼の目から感じられないでもなかった。
「……ていうか、霧がかかってたら余所から来られないもんすかね。そりゃあ不便でしょうけど」
ヨシヤのこの言葉に、その場にいた全ての村人たちの顔つきが一変した。
信じられない言葉を聞いたというような顔で、ヨシヤはまたうろたえた。
「あんた……本当に一体どこから来たんだい?」
ヨシヤの頬は引き攣った。




