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肝試し

 夕食を終えた頃、外は真っ暗になり、涼しげな湖畔の風が小屋の隙間を吹き抜けた。

 部屋で休んでいたみんなをレオが招集し、とうとう夜の肝試しが始まろうとしていた。


 レオが、いつもよりも静かな声色で言う。


「みんなには言ってなかったが、今からお前たちにはあることをしてもらう……」


 正直、ユア以外の全員は今から肝試しをすることを知っていたので、平気だったのだが……ユア自身は怯えている様子だった。レオも、雰囲気を作るために張り切っているようだ。


「知ってるか? お前ら。この湖には、とある言い伝えがあるということを……」


 すると、ユアが聞き返す。


「い、言い伝え?」

「そうだ。古くから、多くの人々を恐怖させた言い伝えだ……それを今からシオに説明してもらう」


 シオが「僕なんだ……」みたいな顔を見せつつ、一つ咳払いをして説明を始めた。ちなみに、内容は彼が即興で考えなければならない。


「この湖には、その昔、冒険者ギルドがあったんだよね。湖なんてなかったんだ。けど、ある日大雨によって地面が削れて、ギルドもろとも土砂に流されてしまったんだ」


 ユアがアランの後ろに隠れる。


「で、冒険者たちの怨念が形となって、この湖に現れるんだってさ……俺の金貨を返せ! ってね」


 その瞬間、ユアは地面に座り込んで、アランの足にすがりついたまま泣き出してしまった……これは、シオがやりすぎたな。

 シオが慌てて「というのはあくまで噂話であって……」と言うが、ユアはその場から動かなくなってしまった。


 シオがレオに「なんで僕に頼んだの?」と視線を送り、レオが「お前、やりすぎな」と視線を送り返す。これでは肝試しどころではない。すると、リリーが挙手した。


「肝試しは私たちでやっとくから、ユアさんは部屋で休んどきなよ! ほら、アランくんが付き添ってくれるらしいから」


 アランも「おう」と返事をする。

 なるほど、二人きりの空間を作るという作戦を続行させるために、二人には部屋に戻ってもらうと。やるな、リリー。


 弱っているユアを、アランが部屋に連れて行くのを見送ると、俺たちは反省会を始めた。

 まず、シオが口を開く。


「僕、やりすぎたかな?」


 レオが強く頷くも、シアはそれを指摘する。


「レオが責任をシオに押し付けたのがダメなんでしょ」

「なんだと!? 俺はな、即興で作り話とかできねぇんだよ」

「だから、そういうのは事前に考えとくものなの」


 しばらくの間、その口論を眺めていて、俺は思った。


「なぁ、結局二人を肝試しに連れて行くのは失敗したが、せっかく集まったんだし本当にやらないか?」


 その言葉に、ジルが同意する。


「まぁ、せっかくやるって決めたしさ。というか、今部屋に戻ったらあの二人に怪しまれるだろ?」


 こうして、当初予定していた肝試しが開催されることになった。昼間、シアがルートを確認しつつ、目標である旗を森の奥に立ててくれたらしい。それを一チームにつき一つ、回収して持ち帰るのが肝試しのゴールである。


 まず最初に、レオとシオのチームが出発しようとしていたのだが、レオはずっとシアに文句を言っていた。


「昼間も言ったが、なんでお前は参加しないんだよ」

「私は用事があるからって言ったでしょ。そんなに私といたいの?」

「そう言って、本当は怖いんだろ。ビビって歩けなくなったら背負ってやるから」

「……お前は本当にバカだよな」


 そう言って、シアは森の方へと行ってしまった。どうやら用事というのは、森の中にあるらしい。


「なんだよ……仕方ないな、シオ! 行くぞ」

「レオさん大丈夫なの? 一番手で怖くない?」

「バカにしてんのか? 俺に怖いという感情はない」

「歩けなくなったら僕が背負ってあげるね」


 そんな会話を交わしながら、二人は肝試しのルートへ向かう。


 次に、リリーとジルのチームが出発することになった。ジルはもちろん平気そうな顔をしていたが、リリーは少し躊躇っている様子だった。


「どうした? リリー」

「逆に、ジルは平気なんだ……?」

「何だよ。さっきのシオの話はあくまで即興で考えたものだろ?」

「いや、そうじゃなくてさ……二人きりで森を歩くんだよ?」

「それが肝試しだからな」

「はぁ……」


 リリーは大きなため息をつくと、スタスタと歩き始めた。


「ジルもクロードくんには文句言えないね」

「なんで?」


 そして、俺とネルが二人きりになった。残された俺たちは、時間をあけて出発するために、しばらくの間待機していた。


「なぁ、ネル」

「どうしたの?」

「ネルはこういうの平気だよな。だって、初めて会ったのも夜の森だったし」

「まぁね……」


 ネルはしばらくの間、何かを考えている様子だった。そして、小さな声で言う。


「怖くはないけど、ほら……暗いし危ないから、もう少し近くにいていい?」

「あぁ、もちろんだ」


 ネルがぐっと身体を寄せると、彼女の手が俺の指先に触れた。


「ご、ごめん……」


 彼女は慌てて手を引くが、俺は少しだけ幸せな気持ちになった。この、変な気持ちの正体はなんだろう。人間ならではの感情……とかだったりするのか?


 やがて、俺たちも出発することにした。昼間、シアが肝試しのルートに目印をつけてくれているので俺たちはそれに沿ってゆっくりと森の中を歩く。


「ネルは昔から、暗いのが得意なのか?」

「まぁね……むしろ明るすぎる場所よりは落ち着くかも」

「気持ちは分かる。俺も魔獣としては夜行性だからな」

「そうだよね。そういえば、ジルくんにも正体がバレたんだっけ?」

「そうだ。でも、アイツは引き続き友達でいてくれた」

「そっか……」


 ネルは俯いた。


「どうした?」

「いや、その。すっかり二人だけの秘密じゃなくなったねって……そう思っただけ」

「それは、確かにな」


 そしてふと、あの日の約束を思い出した。卒業までの間、あとどれくらい彼女と一緒に過ごすことができるのだろうか。

 いや、俺はむしろ……ネルのことを……。


「ネル」

「うん?」

「その、俺はさ────」


 その瞬間、目の前の草むらに青白い火の玉が現れ、目の前をすぅーっと横切った。


 その瞬間、ネルが俺の腕に飛びついて言った。


「く、クロード! 何かな、今の!?」

「ネル、落ち着け、多分その……見間違いとかだろ」

「そ、そうなのかな……? 大丈夫……?」


 ネルは俺にピッタリとくっついて、しばらくの間辺りを見渡していた。ネルでも驚くことがあるんだな。


 しばらくすると、ネルはハッとして、俺から勢いよく離れる。そして、小さく「ごめん」とつぶやいた。しかし、俺は残念な気持ちになった。


「ネル、離れないでくれ」

「えっ?」


 俺は彼女の肩に手を回すと、ぐっと俺の方に抱き寄せる。そして、彼女の目を見た。


「今だけ……ダメか?」

「だ、ダメじゃないよ……?」


 彼女は目を逸らすと、ゆっくりと歩き始めた。暗い森の中を、二人きりで……鼓動が速くなる。俺は、肝試しや先ほどの火の玉ではなく、確かにネルのせいでこうなっている。


 彼女は温かく、そして優しかった。こんなにも幸せなことがあるのか……変だ。俺はきっと、変になっている。


「ネル、その……嫌じゃないか?」

「嫌じゃないよ」


「ネル、俺のこと、嫌いになってないか?」

「ならないよ、絶対」


 しばらく目印に沿って進んでいると、やがて一つの旗が地面に刺さっているのが見えた。表面には、雑に「クロネルチーム」と書かれている。

 俺はその旗を手に取ると、また次の目印に沿って歩いた。


 しかし、何故だろう。いつもよりもゆっくりと歩いた。自分でもわかる、もう少しこうしていたいんだと……心がそう言っている。


 ふと、ネルのほうを見ると、彼女の顔は赤かった。俺の前でするその表情には、どういう感情が隠れているんだ……?

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