ペア
馬車を降りて、新鮮な空気を吸った。久々にやってきたこの村は、当時と少しだけ見え方が違っていた。今回はクエストではなく旅行で来たのだ。楽しもう。
すると、隣の馬車から言い合いをしているレオとシアが降りてきた。
「とか言って怖いだけだろ? 俺とシオが一緒にいてやるから素直に喜べよ!」
「だから、私はその時間、肝試しじゃなくて別の用事が本当にあるんだってば。何度も言ってるでしょ」
「じゃあその用事ってなんだよ」
「それはまぁ、言わないけどさ」
「は? やっぱ怖いんじゃねぇか」
「だから……」
俺はそんな二人に声をかけた。
「良かった、そっちも楽しそうで」
すると、レオが頷いて、シアが首を横に振った。次に降りてきたシオが、澄ました顔で言う。
「賑やかで楽しかったよ。そっちはどう?」
「あぁ、楽しかった」
すると、アランとユアも馬車から出てきた。これで全員揃ったな。
その後、俺たちは村長を探した。そして、例の小屋を借りる許可をもらい、鍵や釣具をレンタルした。村長は、久々に会えて嬉しいと言ってくれた。また、以前クエストで村を救ってもらったお礼にと、小屋のレンタル代は取らないと言ってくれた。
やはり、この村を旅行先に選んで正解だったな。
そして、俺たちは湖の方へと向かった。
湖に着き、小屋に荷物を置くと、俺たちはまず部屋を割り当てることにした。しかし、それにあたって一つ問題がある事に気がついた。
なんと、勉強会組が全員で九人なのに対し、小屋の中にある部屋は七部屋しかないのだ。これは一大事である。
よって、必然的に二人一部屋の組が二つできるわけだが……誰がその役を担うのか。それを決めるために、俺たちは一度デッキに集まった。
そして、すぐさまリリーが挙手する。
「あの……これ話し合う必要ないんじゃない? アランとユアのペア、それからクロードとネルのペアを二人一部屋にすれば解決じゃない?」
すると、シオが言った。
「同感だね。というかそれ以外はあるの?」
すると、アランが言う。
「リリーとジルでもいいんじゃないか?」
ジルが首を横に振る。
「流石になそれはちょっとな……さっき挙がった二組が安定だろ」
いや、待て……勝手に話が進んでいるな? アランとユアのチームはまだ、言いたいことはわかる。二人の仲を深めるための旅行でもあるからな。
でも、俺とネルはなんだ? みんな当然のような顔をしているが……確かに、ネルと同じ部屋だと嬉しくないわけじゃないが。
そして、アランが言う。
「ま、まぁ。みんながそれがいいっていうならそれでも。ユアはどうだ?」
「えっ! ……私も、アランくんと一緒ならむしろ安心できるかも?」
この二人はまぁいいだろう。しかしだな……。
「なぁみんな、なんで俺とネルなんだ? レオとシオとかでいいんじゃないか?」
それを聞いたジルが、ため息混じりに言った。
「それ結構失礼だぞ? というか、お前はネルさんと同じ部屋で嬉しいと思っているんじゃないのか?」
「え……」
ネルを含む、全員の視線が俺に集まる。
「まぁ……嬉しいよ」
「だろ? だから今回は譲ってやったんだよ」
「そうなのか? なら、ありがとう……?」
「クロードも随分と成長したな」
みんなが頷いて、当然のように荷物を持って部屋の方へ向かった。ネルは俺の隣に立ち、小さな声で言う。
「クロード、本当によかったの?」
「何が?」
「私と一緒で」
「ネルが嫌じゃないならな」
「そっか……!」
「というか、俺はさっきも言ったけど嬉しい。だってその分、ネルと長く一緒にいることができるんだろ?」
俺は荷物を持ち上げて、みんなについて行った。二階建てのこの小屋には、一階に三部屋、二階に四部屋ある。
レオは一階にある一番広い部屋を指さして言った。
「この部屋は俺のものだ。文句があるやつは俺と決闘しろ」
すると、アランが言った。
「そんなやつはいない。そもそも部屋のサイズなんか気にするようなガキはお前くらいだからな」
「なんだと? 普通に決闘するか?」
すると、シオがレオの隣の部屋を指さした。
「僕は朝、レオさんを叩き起こさきなきゃいけないからここにするね」
そして、シアが言った。
「じゃあ一階にある最後の部屋は私が。せめて仲のいいジルとリリーが二階で隣同士の部屋になるよう配慮してあげる」
すると、シオが首を傾げた。
「レオ・ファミリーの近くの部屋がいいからではなくて?」
「違うってば! 普通に気遣いだって」
「ふーん?」
「……」
こうして、一階の部屋の割り当てが決まった。
その後、二階の割り当てはスムーズに決まった。俺とネルは荷物を置いて、ベッドに腰掛けて一息ついた。この後はみんなで釣りをする予定だ。
ネルは俺の隣で、ずっとソワソワしていた。
「同じ部屋だと嫌だったか?」
「え? どうして?」
「ずっと落ち着かない様子だから」
「それはその……察してよ」
察する……か。俺にとって一番苦手な行為かもしれない。よく鈍感だと言われるし、そもそも人間じゃないし……。
「なぁ、ネル。俺は多分、人の気持ちに気づくのが下手だ」
「え?」
「だからさ……」
俺はネルの顔を見て言った。
「何かあるなら正直に言ってくれ」
「えっ……! で、でも……」
「察してほしいということは、つまり何かあるってことだろ?」
「そうだけど、その……」
ネルは下を向いて、キュッと目を瞑った。そして、小さく言う。
「その────」
扉がノックされて、奥からレオの声が聞こえた。
「釣りするぞ、お前ら」
俺は「今行く」と返事をして、またネルのほうを見た。
「で、さっきの話なんだが」
「ごめん、なんでもないから……釣り行こ?」
「いいのか?」
「うん……本当になんでもないから」
その時俺は、少しだけ残念に思った。なぜそう思ったのかはわからないが、少しだけ……。




