途中
その日の夜、俺はネルと二人きりで食堂にいた。今日の日替わり定食は当たりだと話していると、ふとジルの言葉を思い出した。
ネルがかわいそう……か。
「なぁネル……」
「どうしたの?」
「ネルって、今どんな気分なんだ? 幸せか?」
「えっ! どういう質問なの?」
「俺といて楽しいのか? 俺といて、どんな気持ちになる?」
「えっと……急だね?」
ネルは食事の手を止め、俺から目を逸らした。彼女がそういう仕草をするたびに、俺の胸がキュッと締め付けられる。
「私は、その……クロードと一緒にいる時は、それだけで幸せだよ?」
「……」
彼女の言葉一つ一つが、何故か心に刻まれていくのがわかる。前からそうだった。多分俺は、ネルに嫌われたくないのだろう。
だからこそ、ネルがかわいそうなんて言われたら……。
「俺はもっとネルに幸せになってほしい!」
俺は立ち上がり、身を乗り出して言った。彼女はその瞬間、俺の目を見て……その後、赤面しながら向こうを向いてしまった。
「く、クロード、ストップ! ……ちょっと、ほら、食堂だし……一回座ろ?」
「わ、わかった。すまない」
ネルはふぅとため息をつくと、小さな声で言った。
「クロード、その……なんで急に私に幸せになってほしいって思ったの?」
「急にじゃない、前から思っていた」
「……あの、一回お水飲んでいい?」
「あぁ」
ネルは水を飲み干すと、小さな声で言った。
「私が今より幸せになるとするなら、その。く、クロードが……」
「俺が?」
「あの……えっと、うん」
「?」
「まぁ……クロードが元気でいてくれたら、私は幸せだよ?」
そんなことでいいのか? 本当は他に何か言おうとしていたんじゃないか? 訊きたいことが山ほどあるのに、彼女はまた食事を再開してしまった。
でも、たしかに彼女の表情は嬉しそうに見えた。こんな表情をしているのだから、かわいそうなわけがない。
すると、食事の扉がガチャリと開いて、白衣を着たシーナ先生がやってきた。流れるようにカウンターに行き、日替わり定食を注文していた。しばらくその様子を見ていると、彼女は辺りを見渡して……そして俺と目が合う。
彼女はこちらに近づいてくると、俺のネルの隣にある席にトレーを置いた。
「こんばんは、二人とも。元気にしてましたか?」
ネルが、それを見て顔を上げる。
「あ、シーナ先生! こんばん────」
「ネル、行こう」
俺は立ち上がり、トレーを持った。ネルは困惑した表情で俺に言う。
「え? クロードはまだ食べてる途中でしょ?」
「いや、もう満腹だ。行こう」
「行こうって、その……えぇ?」
俺がトレーをカウンターに返却しにいくと、ネルもそれについてきた。ネルは何度も振り返り、シーナ先生の方を見ていた。
俺は食堂から出る直前、振り返ってシーナ先生のいる席を見た。一人で座っている彼女の背中は、少し寂しそうに見えた。
でも、俺は決めたんだ。彼女にはもう頼らないし、できるだけ関わらない。
俺の記憶を奪った張本人なのだから。




