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かわいそう

 俺は森にいた。



 食事ではなく、授業だ。今日は、実際に森に出て魔獣を討伐するという実践形式の内容になっている。昼とはいえ危険なので、二人一組のペアになることになった。相手はジルだ。



「なぁ、ジル。討伐目標の三体は達成したからそろそろ帰ってもいいはずだよな」


「そうだな。帰るか……いやでも、その前にさ」


「なんだ?」


「お前に話したいことがある」



 ジルは立ち止まると、俺のほうを見た。



「なんだ、急に」


「いや、それがさ……言いにくいんだけど。この間、お前とダンジョンの地下に閉じ込められただろ? その時にさ、クロードは目を瞑れって言ってたよな」


「まさか……」



 あの日、俺は……。



「俺、ちょっとさ、バレないように目を開けてたんだよな」


「……っ!」


「お前、魔獣だろ」


「それは、その────」



 ……。



「かっけぇよな! 魔獣であり、魔法学園のトップでもあるなんてさ! 小説の世界じゃないか? そんなの」


「え?」



 ジルは目を輝かせながら言った。



「やっぱり魔獣だから魔力量が多いのか! 普段は人間の食事だけで大丈夫なのか? というか魔獣の姿にはいつでもなれる? 魔獣ってのは────」


「お、落ち着けジル……! とにかく、その。みんなには秘密にしておいてくれよ」


「わかってるよ。当然だろ」


「はぁ……ヒヤッとしたぞ」


「魔獣でもヒヤッとするんだな」



 流石にするだろ。それに、俺は魔獣としての力が弱まっているという自覚がある。それはつまり、人間に近づいていると、俺は勝手にそう捉えている。その方が夢があるから。


 しかし、これで、俺の正体を知っている人間は六人になったな。ネル、シーナ先生、校長、サヤ、シア、そしてジルか……コイツにだけは隠し通せると思ってたのに。



「ジル、流石に引いたよな……? 正体が魔獣なんて知ったらさ」


「は? さっきも言ったが、かっけぇと思ったよ。それだけだ」


「本当か?」


「まぁ、驚きはしたが」



 逆に驚くだけで済んだのか。相変わらず不思議なヤツだな。



「なぁ、ジル。俺さ、魔獣だけど人間に憧れているんだよな」


「そうなのか? 魔獣もかっこいいのに」


「で、ある日森で狩りをしていたときにネルに正体がバレたんだ。初めてクラスメイトに魔獣であることがバレて焦ったよ」


「ネルさんとはそうやって知り合ったのか」


「そうだ。で、人間のことを色々と教えてもらうって約束したんだ」


「なるほどなぁ。人間のこと……か」



 するとジルがふと、空を見上げた。



「お前はまず、ネルさんに対して自分がどう思っているのかを理解したほうがいいな。今やっとわかったよ、お前が彼女に対して心の壁を作っている理由が」


「え? 俺がネルに対して心の壁を?」


「そうだ。魔獣と人間として彼女と接してるだろ、お前?」


「そりゃあだって、俺は魔獣だから」


「はぁ……ま、そのうち気付くだろうからよ。俺がごちゃごちゃ言っても仕方ないんだけどさ」



 ジルはこちらを真っすぐに見て言った。



「ネルさん、ちょっとかわいそうだぜ?」


「え……?」



 俺はその言葉の意味を理解しようと努力したが、わからなかった。



 何故ネルがかわいそうなのか。俺のせいで? 俺が魔獣だから? それとも彼女が人間だから? 分からない……ジルの言いたいことが。



 その後、森から出るまで何度もジルにそのことについて質問したが、何も教えてくれなかった。それどころか、自分で考えろと言わんばかりの態度だった。



 もし俺のせいで、ネルが何かかわいそうなことになっているとしたら……俺はどうすればいいんだ?

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