心拍数
俺は、魔道具開発部を後にし、ネルを探した。確か、用事で教室に残っていたはずだ。彼女なら、校長がディアンタと呼ばれていた理由が分かるかもしれない。
俺がネルの教室周辺でウロウロしていると、丁度教室から出てきたネルとばったり出会った。
「あ! クロード、どうしたの?」
「あぁ、実はネルを探してたんだ。聞きたいことがあってな」
「私に? いいよ、聞くね」
「しかし、立ち話ってのもな……図書館の自習室とかどうだ?」
「うん、いいよ。じゃあ、行こっか」
俺たちは、図書館の自習質に行き、机に座った。ここは、すっかり「勉強会組が使う」というイメージが定着してしまったらしく、他の生徒はめったに来なくなってしまった。
「で、ネル……その、この前クエストに行ったときに持ち帰った魔道具を使って、過去の記憶を覗いてみたんだ」
「過去の記憶を? どうだったの?」
「シーナ先生と校長が、俺に呪いをかけていた……そのせいで俺の記憶が消えたみたいなんだ」
「えっ、あの二人が……? なんでかな……」
「さぁ」
そしてもう一つ、ネルに訊きたいことがあった。
「シーナ先生は、校長のことをディアンタと呼んでいた。もしかして、ネルが故郷でお世話になっているのって校長なのか?」
「うん、言ってなかったけど、実はそうなんだよね。校長だけど、私の故郷の村長でもあるんだって」
「村長? そういえば、俺の学費を支援している人物がどこかの村の村長だったな」
「もしかしてランジャー村の?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はまた、強烈な頭痛と吐き気に襲われた。その様子を見たネルは、慌てて俺のほうに駆け寄ってくる。
「大丈夫!? どうしたの?」
「……過去の記憶がトリガーになって起こる頭痛だ。これこそが、シーナ先生がかけた呪いによるものだ」
「記憶がトリガーになる頭痛……?」
「恐らく、俺の過去とネルの故郷は密接な関係にある」
「そ、そうだったの?」
「多分な」
ネルは何か考え込んでいる様子だった。
「……私ね、故郷のある場所に行くと頭痛がするんだ。怖くて近寄るのもやめちゃったけど、もしかしてそれも呪い……?」
「恐らく、そういうことになるな。俺と同じものだと思う」
「そうだったんだ」
「なぁネル、その頭痛がする場所に、今度行かないか? 時間がかかりそうなら学校をサボってもいい」
「え、でも……今年も学イチがあるし、サボるのはマズいんじゃ? それならさ、シーナ先生に直接訊けばいいんじゃない?」
「あの人は隠し事が多すぎる。もう彼女を信頼できない」
ネルは少し寂しそうにしていた。気持ちは分かる。俺だって、ずっとシーナ先生を慕っていたから。
「ねぇ、クロード。私たちさ、一度会ったことあるのかな?」
「え? ……確かに、俺もそう思っていた」
「過去に同じ故郷にいたことがあった時点で、ちょっとそう思うよね」
「あぁ。もし会っていたとしたら、その記憶すらも消えているのか」
「それはやっぱり寂しいね……」
俺は窓の外を見て言った。
「夕飯、食べに行くか」
「そうだね。その……今からでも遅くないよね?」
「何が?」
「いや、ほら……思い出作り! 消えてしまったかもしれないなら、その倍くらい色々しようねって……いうか。あはは……」
ネルは恥ずかしそうに笑っていたが、丁度俺もそう思っていたところだ。
「ネル、これからも色々なことを教えてくれよ。まだまだ、人間には知らないことが沢山あるから」
「そうだね! 人間のことも、私のことも……全部教えてあげるから……って、その。やっぱなんでもない」
「え? 教えてくれないのか?」
「お、教えない……!」
ネルは急ぎ足で自習室から出てしまった。俺はそれについていく。
そしてふと、心拍数が上がっているのを感じた。これも呪いの症状なのか? ……だとしたら厄介だな。ネルと会うたびにこんな風になっていたら身が持たないんだが……。




