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記憶の釜

 俺はサヤに言われ、魔道具開発部の部室にやってきた。どうやら、前回入手した魔道具を試してみたくなったらしい。



 部室に入ると、丁度サヤが釜のような魔道具を部屋の真ん中に運んでいた。



「あ、クロード。やっと来た」


「すまない、例のものを選ぶのに苦戦していた」


「なるほど、そういうことねぇ。ちなみに、今日はニアとコダマには魔道具開発部は休みだと言ってあるから思う存分魔道具を試せるよ」


「それはありがたいな……前回のようなことにならないといいんだが」



 サヤは獣耳をピンと立てて自慢げに言った。



「今回は、あの偉大な魔法使いが作った魔道具だ! 私たちのオリジナル魔道具とは理由が違うから大丈夫」


「なんで誇らしげなんだ」


「誇らしげだったか? 私」



 そういえば、今回使用する魔道具は、持ち帰ったもののうちの一つ、釜の形をしたものだったな。



「なぁ、サヤ。棒状の魔道具の他に、布みたいな魔道具があったよな? あれは何のために使うんだ?」


「あれは特殊なマントのようなもので、羽織ると使用者魔法の力を活性化させるものらしい。魔法の杖とかみたいなものだろう……けど、実際に使ってみると、色々欠陥があって、魔法のコントロールがうまくいかないんだ」


「なるほど、試作品なのだろうか」


「多分ね……後はこういう効果もある────」



 そう言って、サヤはマントを取り出すと、俺に被せた。その瞬間、俺の姿は人間の状態から魔獣へと変化した。何が起こったんだ……?



「おお、魔獣のクロードは初めて見たよ。思ったよりその……犬っぽい?」


「……何をした?」


「使用者の魔力を活性化……つまり、クロードの内なる魔獣としての力が強まって、姿を現すことになった」


「それは分かったが、実際に試すことはないだろ」


「やってみたかったんだ」



 サヤがマントを回収すると、俺はまた人間の姿に戻った。



「まぁ、このマントはいわゆるハズレだな。本命はこれ」



 そう言ってサヤが指さしたのは、先ほどの釜のような魔道具だ。中には濁った液体が入っている。



「これはどういう魔道具なんだ?」


「これは記憶の釜と呼ばれる魔道具で、モノが持つ記憶を断片的に呼び覚ますことができる。中に依り代を入れると、この水面にそれが映されるという仕組みだ」


「本当に使えるのか?」


「さぁ?」


「……」



 すると、サヤが首を傾げた。



「で、依り代はちゃんと持ってきたのか?」


「あぁ、これを」


「これは……ペンダントか何かか?」


「これは何故か俺の部屋にずっと置いてあったペンダントだ。一度、ネルが部屋に来た時にこれを見て『見たことがある』と言って、すぐに呪いによって記憶が消えていた」


「ネルさんが?」


「そう。彼女も俺と同じ呪いにかかっているからな」



 サヤはペンダントを受け取ると、言った。



「でも、もしこれを依り代として使った場合、代償として消えてしまうけどいいのか? 思い出の品なんだろ?」


「それが、丁度ネルがお土産として俺に同じものをくれたんだ。そっちがあるから、これは消えてしまってもいい。そもそも、なんで俺の部屋にあるのかすら分からないからな」


「いつも首から下げてるのってもしかしてネルさんからもらったもの?」


「そうだ」



 俺は制服の隙間から、彼女にもらったペンダントを見せた。



「ネルさんにプレゼントをもらうなんて幸せ者だな」


「羨ましいか?」


「もちろん。何せ、変人だからな」



 そして、サヤは腕まくりをして言った。



「じゃあ、実験を開始しようか」



 その後、俺は言われるがままに実験の手順を進めていった。


 まず、釜の中に先ほどのペンダントを入れる。次に、俺の髪の毛を一本、同じく釜に入れる。そして、最後に魔法陣の書かれた紙に魔力を込め、それを火魔法で燃やしながら釜に入れる……すると、釜の中が青白く光り始めた。



「光ったぞ……?」


「クロード、すぐに水面をのぞいて! 一瞬だけ、何か見えるはず!」



 俺は慌てて釜を覗く────すると、そこには見覚えのある二人の姿があった。


 俺を覗き込むような形で、シーナ先生と校長が立っており、何かを話していた。何故ここにこの二人が……? 俺は耳を傾ける。



『では、今からこの子に呪いをかけます。ディアンタ、できますか?』


『はい……ですが、代償として記憶が消えてしまうことをお忘れなく。恐らく、今この瞬間に起きたことすらも忘れてしまうでしょう』


『それは……もちろんわかっています。君もそうですよね?』



 シーナ先生が俺を見る。俺はコクリと頷いて、そのことを了承していた。



『では、呪いの準備が整いました。ディアンタも大丈夫ですか?』


『はい、やってみせましょう────』



 その瞬間、記憶の映像が途切れ、釜の中はまた濁った水に戻った。



「サヤ……今の見ていたか?」


「何も? 私には見えなかった」


「そうか……」


「何か嫌なものが映ってたのか?」


「いや、うーん……不思議だった」



 シーナ先生が俺に呪いをかけていた。しかも校長と一緒に。二人はずっとそれを隠していたのか? しかも、校長はディアンタと呼ばれていた……確か、ネルが故郷でお世話になっていると言っていた人物の名前だ。


 それに、俺はその呪いについて了承していた。何故だ?



 俺の抜け落ちた記憶は、想像とは全く違うものだった。



「サヤ、別の依り代を用意するから、もっと記憶が見たい!」



 すると、サヤが首を横に振り、魔道具を指さす。見ると、釜の中の横にはヒビが入っており、そこから中の液体が溢れ出していた。



「クロード、残念だけどこの魔道具は一度しか使えない」


「……なら、もう一つ同じものを作ったりは?」


「私の技術では無理だ。すまない」


「……」



 先ほどの記憶の正体……俺はそれを知る権利があるはずだ。なのに、シーナ先生は何も教えてくれない。


 それって、おかしいんじゃないか? 俺の記憶は俺のものだろ。そもそも、何故俺に呪いをかけた?



 俺は心の中で、彼女を恨んでいた。きっと、この後医務室に駆け込んだところで、また『秘密だ』とか『知る必要はない』と言われてしまうだろう。



 俺は、先ほどまで記憶を見なかったことにすると決めた。



 そしてもう、シーナ先生を頼るのはやめよう。

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