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鍵の開く音

 魔法で周囲を照らすと、そこは行き止まりで、一つの部屋があった。いくつも棚や箱が並べられており、薬品のような瓶や本などが敷き詰められていた。



 そして、レオが言う。



「ここって、財宝がある部屋じゃないのか?」



 サヤがそれに同意する。



「そうみたいだね。みんな、手分けして財宝を回収するよ。魔道具を見つけたら私に教えて」



 俺たちは、木箱を片っ端から開けて、金貨などを探した。しかし、箱の中身は本や魔道具の失敗作のようなものばかりで、財宝といえるものは一つもなかった。



 すると、サヤが金属でできた釜のようなものをレオに渡して言う。



「荷物持ち担当、これを頼んだ」


「俺を荷物持ち扱いするな! ……まぁ、正直今回はあまり活躍できなかったがな。で、この釜はなんだ?」


「これは恐らくだけど……クロードが探し求めていたものなんじゃないかな?」


「クロードが?」



 俺は首を縦に振ったが、その魔道具の詳細については話さなかった。前回のこともあるから、俺が無理に記憶を蘇らせようとしているなんて知ったら……心配されるだろう。



 次に、サヤがネルに布切れを渡した。



「これは、ネルさんが持っておいて。クロードには触らせないでね?」


「えっ? これは何? クロードが触るとだめなの?」


「まぁね。これもただの布に見えるけど魔道具なんだ……多分」


「多分?」


「多分」



 そして、サヤは一つの金属の棒を取り出した。そして、辺りを見渡すと「もう充分かな」と言った。



「サヤ、いいのか? 他の魔道具は」


「この三つ以外は必要ないかもね。むしろ、私の持っているこれが、財宝並みの価値があるとも言える」


「ほう? で、なんだその棒は」


「試しに使ってみる?」



 サヤは壁の方に近づくと、適当な場所めがけて棒を叩きつけた。すると、キーンという高い音がしばらくの間鳴って、止まった。


 次に、彼女は先ほど俺たちが通った扉を叩いた。すると、今度は低い音が鳴った。



「これは、空間を把握するための魔道具だ。この棒で叩いた数メートル先に空間があるかないかを教えてくれる。隠された財宝を探すのに用いることができる」


「ほう? 随分と間接的だな。俺たちは、大量の金貨が手に入るつもりで来ていたんだが」


「私もそのつもりだった。けど、この三つの魔道具は相当な価値があるよ」



 そう言って、サヤは帰り道の方角を指さした。



「一応魔物が潜んでいるかもしれないから、先行組のクロードとジルには魔道具を持たせなかった。さぁ、後は帰るだけ」


「わかった。じゃあ俺についてきてくれ」



 宝物庫を後にした俺たちは、一応のため警戒しながらゆっくりと進んだ。



 そしてふと、サヤが言っていた言葉を思い出した。この、平坦な一本道とギミックの正体についてだ。



「なぁ、サヤ。ここまでの道のりが変だと言っていたよな?」


「あぁ。何故か謎解きをやらされたからな」


「これって、ここを作った魔法使いが、魔道具の使い方を教えてくれたんじゃないかって思ったんだ」


「魔道具の使い方を? あぁ、確かに魔力を込めたり吸い取ったりするのは魔道具を扱う上でとても大切な技能だな」


「それに、あのボードゲームも魔道具の一種だろ?」


「確かに……ここまでが壮大な魔道具の使い方講座だったって考えたわけか。噂程度だが、ここを作った魔法使いは『自分の作った魔道具が、然るべき人間の手に渡ることを望む』といつも言っていたらしい」



 なるほど……俺たちは、その然るべき人間になれたのだろうか────その瞬間、足元から轟音が鳴り響いた。そして、何かの爆発により床に大きな穴が出現したかと思えば……俺の身体がふわりと浮いて、その数秒後地面に叩きつけられた。



 俺は爆発によってできた穴に落とされたらしい……頭上から砂や石が降ってきて、俺は思わず目を瞑る。



 しばらくして、静かになった。俺は目を開けて、周囲を火魔法で照らした。



「おーい! みんな! 無事か?」



 俺のいる場所は、小さな部屋のような空間になっていた。見上げても、天井は土で塞がれてしまっている。俺以外はみんなは、まだこの上にいるのか……?



 すると、目の前の床で倒れているジルの姿があった。腕からは血を流している。



「ジル! 大丈夫か?」


「あぁ……多分な」


「ヒールするから待ってろ」


「助かるよ」



 俺は彼の腕をヒールする。傷口は浅く、すぐに塞がったが……どうやら俺とジルは、この狭い空間に取り残されてしまったらしい。



 ジルが、頭上に向かって大きな声を上げる。



「おーい! みんな! 聞こえるか?」



 しかし、かなりの高さを落ちてきたらしく、声は届かなかった。証拠に、返事が返ってこない。



「ジル、どうする? これもいわゆる、魔法使いの罠ってことなのか?」


「うーん……だとすれば、普通は謎解き要素を残しておくんじゃないか? やっぱり、普通に俺たちは閉じ込められたんじゃ……」



 ジルが不安そうな顔をするので、俺まで不安になってしまった。閉じ込められたときに、そこから脱出するための魔法なんてない。


 例えば、火魔法で壁や床を爆発させたとしても、その先に空間がなければ、俺たちは生き埋めにされてしまうだろう。



 どうしたものか……。



 すると、ジルはその場に座り込んで言った。



「前に、俺が回復魔法に惹かれてて魔法学園に来たって言ったよな?」


「あぁ、そうだったな」



 俺はジルの前に座り、話を聞いた。



「俺は故郷の村で、豪雨の日にリリーと出会ったんだ。その日、俺は大量の薪を運んでいたんだが……」



 まだ子供だったジルは、ぬかるんだ道で足を滑らせて、崖から落ちてしまったらしい。家まであと少しだというのに、足を骨折して動けなくなった彼は、ひたすら助けを待つしかなかった。本当に怖かったという。



 すると、どこからともなく姿を現した少女が、自分の足を魔法を使って元通りにしたのだ。その少女、リリーは、ジルの持っていた薪を半分抱えると、一緒に家まで運んでくれたという。



「あの日、俺の目に映った魔法というものは、キラキラと輝いていたんだ。俺は勉強なんて嫌いだし、不器用だけど……リリーと二人で魔法学園を卒業したかった」


「ほう……しかし、それは間違っているな」


「え?」


「お前は今〝したかった〟と言ったな? 安心しろ、今から俺たちは無事にみんなのところへ帰るから」


「でも、どうやって……?」



 俺はずっと考えていた。魔道具の使い方を、謎解きとしてギミックに落とし込んだような魔法使いが、ただの落とし穴を作るわけがない。



 恐らくこれは、最後の試練だ。


 先ほどサヤが使っていた棒のような魔道具を用いて、俺たちのすぐ近くにある空間を見つけ出す……そして、そこから脱出するという試練なのだろう。



 しかし、肝心の魔道具が手元にはない。



「ジル、約束してくれ。俺がいいと言うまで絶対に目を開けるな」


「え? わかった……目を瞑ればいいんだな?」


「あぁ、頼むぞ」



 ジルが目を瞑ったのを確認すると、俺は魔獣の姿に変身した。その途端、周囲の土の匂いが顕著になり、音が増える。今なら、壁の奥にある空間を聞き分けることができるはずだ。



 俺は壁に耳を当て、音が違う場所を探した。すると、予想通り、明らかに別の音がする壁があった。見た目は同じだが、確かにこの先に空間がある。



 俺は魔獣の姿から人間の姿に戻ると、ジルに言った。



「ジル、目を開けてもいいぞ」


「おう……で、何かわかったのか?」


「あぁ、この壁の奥に空間がある。俺が火魔法で壁を爆破させるから、その瞬間全力で走れ。できるな?」


「あぁ、やってやるよ! リリーに会いに行こうぜ」



 俺は壁から少し離れると、手に強く魔力を込めた。そして、火魔法を放つ────爆音とともに目の前が強い光を放つ。俺とジルは、それに向かい一直線に走った。


 瓦礫をかき分け、砂ぼこりを払い、信じて走り抜けると……そこには予想通り空間があった。細い坑道のような場所で、横に向かい真っすぐに伸びていた。



「ジル、成功したぞ」


「そうみたいだな……助かった、クロード」



 俺はその道を真っすぐに進み、やがて突き当たりに階段を見つけた。


 その急な階段を登り切ると、見覚えのある扉な現れた。



「これは、あの三つの駒が描かれた扉のうちの一つか。ここに繋がっていたんだな」



 俺が扉に魔力を込めると、鍵の開く音がした。



 扉を開けると、そこには三人の姿があった。大剣で地面を掘り起こそうとしているレオ、棒のような魔道具で必死に俺たちを探そうとするサヤ、そして泣きながら二人を見守るネル……三人が俺たちの存在に気づいた瞬間、少し申し訳ない気持ちになった。



「あの、なんとか戻ってこれたぞ────」


「クロードっ!」



 すると、ネルが俺のもとに駆け寄ってきた。そして、抱きつこうとして……やめた。やはり、俺のことを一番心配してくれていたみたいだな。



「ネル、すまなかった。俺もジルも無事だ」


「よかった……! 本当によかった!」


「地面の下で、閉じ込められていたが、サヤの持っている魔道具の力を応用すれば出られるようになっていたらしい」


「はぁ……怖かった」



 すると、サヤが言った。



「よし、なら早急にこの場を離れよう。一応、この場所も先ほどの爆発で崩れないという確証はないからね」



 そして、レオが言う。



「じゃあ、同じくクロードとジルが先行してくれ」



 俺たちは再度、来たときとフォーメーションで、ダンジョンを無事に脱出することができた。外の空気を吸い込んで、俺たちは生きていることを実感する。


 結局、財宝は手に入らなかったが、クエストはこれにて完了である。



 俺たちは来た道を引き返し、村へと向かったのであった。




 ……帰り道の途中、サヤが言っていた。



「ネルさんもそうだけどさ、レオも二人のことが心配すぎて泣きそうになってたよ」



 レオはその後、しばらく俺たちと口を利いてくれなくなった。俺としては、心配してくれて嬉しかったんだがな?

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