ギミック
俺は待ち合わせ場所の前で、みんなの到着を待っていた。今日はダンジョン攻略のクエストを受ける日で、朝早くから魔法学園の門の前に集まり、この後は馬車と徒歩で半日は移動しなければならない。
最初にやってきたのはサヤだった。俺を見つけると、こちらに駆け寄ってきて「おはよう」と言ってあくびをした。
後はネルとジル、それからレオだな。
サヤは俺の座っていた石段の横に座り、また大きなあくびをした。
「眠そうだな?」
「楽しみで眠れなかったんだよ。逆にクロードは早起きだね?」
「まぁな」
すると、そこに眠そうなジルが現れた。
「おはようクロードと……サヤか。なんだか久しぶりだな」
そういえば、ジルとサヤは知り合いだったな。彼女が情報屋であることもジルから教えてもらった。
やがて、ネルがやってきた。
「おはようみんな」
ネルはちゃんと目が冴えた様子だった。そして、その直後にレオがやってきて言った。
「よーし、今日も張り切っていくぞ」
すると、サヤがレオに挨拶する。
「レオ、久しぶりだね? シオの決闘を盗み聞きして以来かな」
「あぁ、そうだったな」
「ちなみに私、情報屋なんだけど……レオは金持ちなんだよね? 知りたい情報があったら相応の金貨と交換してあげるよ。好きな人の下着の色とかも教えれるかもね」
「はぁ?」
出た……これ、サヤの定番の発言だったりするのか?
「例えばレオの下着の色は……黒だね」
「なんでわかるんだよ! 怖いぞお前!」
「合ってたんだ……適当に言ってみただけなのに」
「……」
レオは嫌そうな顔をして、俺を見た。
「なぁクロード、俺コイツ嫌いかもしれない……」
「まぁ、気持ちは分かる。何せ変人だからな」
「……」
気を取り直して、俺たちは既に受注済みのクエストに出発するのだった。
まずは、魔法学園から直接、ダンジョンの近くにある村に馬車で移動する。そこから、徒歩でダンジョンに向かうのだ。
すっかり馬車の長時間移動にも慣れて、道中はみんなで雑談しながら時間を潰した。やがて、最寄りの村に差し掛かり、俺たちは馬車を降りた。
その村は非常に小規模で、のどかな場所だった。この近くにダンジョンがあるとは思えないくらいだ。
そこで、改めて今日のクエストの内容について確認することにした。メンバーを代表して、サヤが今日の目標を説明する。
「みんな、おさらいをしよう。今日のクエストは、一風変わったものだ。かつて、優秀であり変わり者と言われた魔法使いが、自分の魔道具や遺産を隠すために作ったとされるダンジョンを攻略する」
ダンジョンとは、自然発生するものが多い中、今回は人工的に作られたものらしい。
「回収した魔道具や財宝の一部は、私たちがもらうことができるらしい。ただし、人工的とはいえダンジョンは危険だ。罠なども沢山あるだろう。心して挑むように」
俺たちは大きく返事をすると、地図を見ながらダンジョンのある方角へと歩き出した。
徐々に霧が濃くなり、歩けば歩くほど先ほどまでののどかな雰囲気は消えていった。やがて、暗い森に差し掛かると重く冷たい空気に皆、少し緊張していた。
確かに、俺が財宝を隠す立場だったらここを選ぶだろうな……。
そんな森の中をひたすら歩いて、俺たちはようやくダンジョンの入り口らしきものにたどり着いた。石でできた、老朽化した門があり、木の扉が地面についていた。ここから地下に行けるみたいだ。
俺は代表してその扉を開けると、みんなに言った。
「フォーメーションを確認する。俺とジルが前、その後ろにレオとネル、最後尾にサヤだ」
全員が返事をしたのを確認すると、俺は火魔法で周囲を照らしながら、地下に向かう階段を降りた。
暗く深い、ダンジョンの攻略が始まろうとしていた。
◇
ダンジョンの中には、魔物が住み着いていた。もう何度も接敵し、そのたびに俺が魔法で倒している。
しかし、ダンジョンといえど、ここは迷宮のような場所ではなく、単純な一本道が続いていた。これなら迷う心配もないし、ちょうどいいかもしれない。
出てくる魔獣も皆、そこまで強くはないものばかりだ。しかし、油断してはならない。俺たちは慎重に進んだ。
ふと、ジルが言う。
「ダンジョンというよりは坑道だな」
確かにそうだな。人の手で掘られた洞窟といった感じか。今のところ罠も何もないが……。
すると、サヤがこの場所についての説明を始めた。
「このダンジョンが姿を現したのはつい最近のことなんだ。最近起きた大雨で地表が露出して、さっき通ったあの扉が現れたらしい。近くの村人が発見した後、クエストとして冒険者協会に攻略を依頼したんだとか」
俺はサヤに聞いた。
「で、このダンジョンを作った魔法使いってのはどんな人物なんだ?」
「いい質問だね、クロード。その魔法使いは、私たちと同じ魔法学園出身で、魔道具開発部の創設者らしい」
「ほう? ならサヤの大先輩じゃないか」
「そうなるね。魔法学園を卒業した後、自分の作った魔道具やクエストで稼いだ金貨、後は大量の書物を隠すための場所を作ったとされている」
「それがここ、ということか」
「噂では、罠だらけって聞いてたけど……今のところ何もないね」
慎重に進んでいるから時間がかかっているが、普通に歩けばすぐに奥までたどり着けそうな一本道である。本当に遺産が眠っているのかすら怪しくなってきた。普通に炭鉱を作ろうとしていた場所を、ダンジョンと勘違いしているとかではないだろうか。
すると、レオがサヤに言った。
「今まで受けてきたクエストの中で一番簡単だぞ、今のところ」
「まぁまぁ、まだ何が潜んでいるか分からないから油断しちゃダメだよ……って、これは?」
俺たちの目の前には、突如として頑丈な扉が現れた。俺はそれに、恐る恐る手をかけるも鍵がかかっているのか、びくともしなかった。
「ダメだ、開かないぞ」
ジルが「壊しちまうか?」と提案するが、それは危険だと判断した。すると、サヤが俺に向かい提案する。
「クロード、試しにこの扉に魔力を流してくれない? もしかすると、これも魔道具かも」
「ほう? わかった。やってみよう」
俺が扉に手を当て、そっと魔力を流すと、扉の装飾が発光し、その表面に文字が浮かび上がった。よく目を凝らして、何が書かれているのかを確認する。
『この扉を開けるものに、試練あり』
それを読み上げると同時に、扉の方からガタンと音がする。俺はもう一度扉に手をかけてみる……すると、今度はそれがギギギという音を立てて奥に開いた。
どうやら、この扉は魔力を込めることによって解除され、先ほどの文字が見えるようになっている仕組みだったらしい。
すると、ネルが不安そうに言った。
「試練かぁ……大丈夫かな? 例の魔法使いが仕掛けた罠とかがあるんじゃないの?」
「それはそうだな。だが、ここで引き返すわけにもいかない」
「うぅ……慎重に行こうね」
俺たちは火魔法で周囲を照らしながら、ゆっくりと足を進めた。しかし、その景色は先ほどまでとさほど変わらなかった。
しばらく歩いていると、奥で何か光っているのが見えた。見ると、先ほどと同じく大きな扉がそこにはあり、装飾が魔力によって発光していた。俺は代表して、それに触れ、魔力を込めてみる。
「開けてみるぞ」
俺は扉を押したが、びくともしなかった。解除されたような音もしなかった。魔力を流すだけでは駄目なのだろうか……。
すると、サヤが言った。
「クロード、逆にこの扉から魔力を吸い取ってみてはくれないか?」
「魔力を? わかった」
俺は扉に手を当てると、魔力を手に溜めた。すると、先ほどまでの扉の光は消え、ガチャリと大きな音がした。
サヤの予想通り、扉が空いて先に進むことができた。
「ありがとう、サヤ。おかげで進むことができるぞ」
「うん……しかし、試練の割には少しばかり変じゃないか?」
「変?」
「罠も凶悪な魔物もいまのところ見ていない。あるのは謎解きのような扉のギミックだけ。これって変だとは思わないか?」
「……それだけ厳重ってことなんじゃないか? 何にせよ、進んでみればわかる」
「それもそうだね」
俺たちはまた、一本道を前に進んだ。
すると今度は、目の前の空間が少し広くなり、三つの扉が現れた。俺は、それら一つ一つに魔力を込めていくも、魔力を込めている間だけ発光して、光はすぐに消えてしまう。
「サヤ、どう思う?」
「うーん……さっぱりだね」
「だよな……」
すると、ジルが言った。
「なぁ、クロード。この扉の模様、何かに似ていないかってずっと考えてたんだが……これ、あのボードゲームの駒じゃないか?」
「本当か?」
俺が扉に近づいて火魔法で照らすと、確かにその扉一つ一つにはボードゲームの駒が描かれていた。
「確かにあの駒と同じ模様をしているが……どうすれば開くと思う?」
「うーん。順番通りに魔力を込めるとか?」
「駒の強さ順番とかってことか? この中だと王が一番強いが」
「やってみる価値はあるが……多分違うだろうな」
俺は試しに、順番に魔力を込めていくが、結果は変わらなかった。すると、レオが言った。
「クロード、足元を照らしてくれないか?」
「足元? わかった」
俺が火魔法を強めると、床にマス目のようなものが浮かび上がった。そして、先ほどの扉と同様、一部のマス目の上には駒のようなものが描かれていた。
「これは……ここがボードゲームの盤面の上ということか?」
「そうみたいだな……」
俺が試しに、床に描かれた駒に魔力を込めると、同じように魔力によって模様が発光した。なるほど、巨大なボードゲームの盤面と扉に描かれた三つの駒……。
すると、ジルが俺に言った。
「多分だけど、王の扉に魔力を込める事ができたら扉が開くんだよな?」
「いまのところそう考えているが」
「ならまず、俺の足元にあるこの駒に魔力を込めてくれないか?」
俺は、言われた通りジルの足元にある駒の模様に魔力を込めた。すると、先ほどよりも強く発光し、魔力を込めるのをやめても光ったままだった。
「ジル、当たりだ……で、どうすればいい?」
「多分、相手のターンだ」
すると、扉の手前にあった駒の模様が勝手に光り始めた。しかも、俺たちの駒とは違う赤い色の光である。これがジルの言う、相手のターンということか。
ジルはしばらく考えると、今度は部屋の中央にある駒を指さした。
「クロード、ここに一手を」
「わかった」
俺が魔力を込めると、やはりそこが強く発光した。また、相手の赤い光が見え、ターンが回ってくる。
俺はジルに言われるがままに、床に魔力を込め続けた。やがて、王の描かれた扉の目の前にある床の模様までたどり着いた。そして、ジルが言う。
「クロード、最後決めてくれ」
「わかった」
俺がそこに魔力を込めると、王の扉が強く発光して、ガチャリと音を立てた。どうやら解錠できたらしい。
すると、サヤが興奮気味に言った。
「すごい! 魔道具でここまでのギミックを作り出すなんて……!」
「やはり、これはすごい技術だったりするのか?」
「すごいどころの騒ぎじゃないね……いやぁ、いいものを見た」
俺は扉に手をかけて、奥へぐっと力を込めた。扉は音を立てながら開き、俺たちはその奥へと足を踏み入れた。




