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ある団体

 ボドイチ当日。広場にいくつもの机が並べられて、トーナメント形式で大会が行われることになった。会場にはかなりの生徒が集まり、皆二人一組になって開催のときを待っていた。



 見ると、ジルとリリーチームの他に、レオとシアの姿が見えた。俺とネルは二人に話しかけに行くことにした。



「レオとシアがチームとはな……随分と珍しい」



 すると、シアが嫌そうな顔をして言った。



「レオがさ、シオを誘ったらしいんだけど……どうやら断られたらしくて。代わりに私が出ることになったってわけ」


「なるほどな。もし対戦することになったらよろしく」


「せめて君らには勝ちたいなぁ」



 すると、校長が台の上に立ち、大きな声で言った。



「みなさん、こんにちは。校長です」



 気の抜けた挨拶に、耳を傾ける一同。



「本日は魔法学園ボードゲーム大会、通称:ボドイチを開催します! なんと、優勝者は学イチと同じ権利が手に入りますよ!」



 その言葉に、会場が一気に湧き上がる。やはり、みんなこれが目的だったのか……。



 そして、校長に代わってシーナ先生が台に上がった。流石は校長先生の友人……こういった役もやらされるんだろうなぁ、とシーナ先生に同情した。



「今から私の指示に従って行動してください。事前に配られた数日のカードが各席に書いてありますので、そこに座ってください。目の前に座ったチームが対戦相手になります」



 俺とネルも、自分の番号を探しながら席に着いた。目の前には、気合の入った男子二人組が座っていた。彼らが俺たちの最初の敵だな……まずはコイツらに一勝してやる!



 シーナ先生の合図で、ゲームがスタートする。その瞬間、会場は一気に静かになった。そう、このゲームはルール上、チームメイトと相談したりすることができない。



 俺は駒を、ジルのアドバイスを元に動かし、ネルと連携しつつ着々と相手をリードしていった。


 しかし、それは相手チームの罠だった。そう察した頃には手遅れで、誘い込まれた俺たちの駒は次々と奪われていった。



 ……結果、普通に負けた。


 恐らく、相手は経験者だ。レベルが違う。ジルとリリーほどではなかったが、戦っていて強すぎるなと感じるほどだった。



 全チームの試合が終わり、喋ることができるようになった。俺たちは相手の二人に礼を言うと、観戦者の席にいそいそと退散した。



「なぁ、ネル」


「どうしたの?」


「レベル……高すぎないか?」


「そうだね……! 未経験者のクロードと、初心者の私が敵う相手ではなかったよ」



 ネルは少し落ち込んでいたが、観戦者席にいたレオとシアを見つけると少し安心した様子だった。



「あの二人も負けちゃったみたい。やっぱりレベル高いよね」


「そうだな。茶化しに行こう」


「そうだね……まぁ、私たちも負けたけど」



 俺はレオに向かって言った。



「負けたのか?」


「……見ての通りな。というか、みんな強すぎないか?」


「みんな本気なんだよ」



 すると、隣にいたシアが首を横に振った。



「相手はお遊びで来た弱そうなカップルだったよ。ただ、レオが下手すぎて……」


「なんだと!? お前だって最初にミスってただろ!」


「あれは罠だってば……味方のお前が騙されてどうする」



 二人が仲良しでなによりだ。


 ひとまず、観戦者席にジルとリリーがいないことを確認して、俺はホッとした。あいつらは相当強いからな。かなりのところまで上り詰めるだろう。



 次の試合が始まり、観戦者席のみんなも小声になった。試合中の人たちの邪魔にならないようにするためだ。


 俺とネルは反省会として、敗因などを考えたりしながら過ごした。



 試合が終わり、観戦者席に人が増えたり、帰りだす生徒も現れる中……やはりジルとリリーはまだ試合をしているみたいだ。減った生徒の分だけ机が片付けられ、どんどん会場が質素になっていく。



 次の試合も、また次の試合もジルとリリーは帰ってこなかった。よく目を凝らすと、少なくなった対戦台の端に二人を見つけた。



「なぁ、ネル。あの一番右端の台、ジルとリリーじゃないか?」


「本当だ! じゃあ今まで一度も負けてないってことだよね。やっぱりあの二人は強かったんだ」


「そういうことになるな。どうせなら優勝までいってほしいものだ」


「そうだね、心のなかで応援しなきゃ」



 二人を見守っていると、暇になったのか、レオが「今日は帰る」と言い出した。俺はジルとリリーの対戦を見届けないのかと問うが、彼は首を横に振った。



「もしあの二人が勝ったら教えてくれ」



 そう言って、シアと一緒に寮の方へと消えていった。ネルは引き続き、試合を観るつもりらしい。


 しかし、ジルには意外な才能があったんだな。少なからず、ボードゲームにも頭を使うはずだが……ジルはバカだそ? よくやってるよ、本当に。



 二人は順調に勝ち続け、やがて決勝にまで上り詰めた。隣で観戦していた生徒の話を盗み聞きしたところ、どうやら相手はボードゲーム部の部長と副部長らしい。


 ジルとリリーが太刀打ちできるような相手なのか……? そう思いつつも、俺は心のなかで精一杯応援した。ここまで来たらもう、勝ってもらいたい。



 最後の試合開始の合図で、会場がしんと静まり……緊張感が高まる中、四人が駒を打つ音だけが小さく聞こえていた。



 しばらくそのままの状態が続き……俺は静かに試合が終わるのを待った。あいにく、ここからではどんな局面なのかも把握できない。



 その後、突然ジルが立ち上がった。それは、喜びのあまり……というわけではなさそうだ。ジルの悔しそうな姿を見て、俺たちは勝敗を悟った。



「ボードゲーム部チームの勝利!」



 シーナ先生の声で、ジルが膝から崩れ落ちる。それを慰めるリリー……そうか、負けてしまったか。


 しかし、きっといい勝負ができたのだろう。あの悔しがり方から察するに、接戦だったことは間違いない。



 観戦者席にとぼとぼと歩いてきたジルとリリー。そして、俺たちを見て小さく言った。



「俺たち負けちまったよ……」


「らしいな。しかし、よく頑張ったな」


「あぁ。頑張ったぜ、俺……」



 そして、リリーが残念そうに言う。



「今でも、どうして負けたか分からないよ。まるで魔力の動きが読まれてるみたいだった」



 すると、ネルが言った。



「さっき噂で聞いたんだけどさ、ボードゲーム部の部長って魔眼持ちらしいよ? それを使って二人の動きを読んだ可能性はあるよね」


「えっ! それってずるくない?」


「……うん、ずるいね」


「はぁ……学園になんでもお願いできる権利、欲しかったな」



 俺たちはひとまず、二人の勝利を称えることにした。例え優勝できなかったとしても、二位は十分すごい。



 その後、四人で食堂へいき、今日の大会についての反省会や雑談などをしながら過ごした。


 そしてふと、ジルが言う。



「なぁ、そろそろ行きたい人を集めてクエストを受けたいんだよな」


「ほう? 確かに、試験が忙しくなるまでにはやっておきたいな」


「なるべく報酬が高いやつがいいな」


「そうだな、その分精鋭を集めないと」


「どうせレオあたりは参加するだろうよ」



 俺がネルの方を見ると、彼女は照れくさそうに笑った。



「クロードが行くなら私も行こうかな」


「そう言ってくれると思ってたよ」



 ジルがリリーの方を見ると、彼女は首を横に振った。



「私はパスかなぁ……大して役に立てない気がする」



 後は……やはりアランやシアは誘っておくか。強いし。それに、レオが来るならシオも来るか……?


 そんなことを考えながら、俺たちは食事の進めた。



 その後、ひとまず俺たちは解散し、ネルと二人で寮まで帰った。



 彼女と別れ、寮の二階に上がり、俺の部屋に戻ってベッドに座ると……ふと、机の上にある本を見て思った。そうだ、これシーナ先生に借りたままずっと返していないな。今から返しに行こう。



 俺は本を持って、また寮を出た。そして、一人暗い道を火魔法で照らしながら医務室を目指す。



 すると、珍しく、道の真ん中に人影が見えた。この時間に出歩く理由なんてあまりないはずなのに……そこにいたのは背の高い女子生徒だった。


 そして、俺の方を見ると小さく言う。



「クロード……あなたがクロードね」


「え? そうだが、なんだ?」


「特に用事はないのだけれど……ただ、あなたは少し興味深い魔力を持っているね」


「魔眼持ちか?」


「ええ。今日のボードゲーム大会で優勝した、マーシャよ。ボードゲーム部の部長といえばわかるかしら」


「なるほど、半ばズルをして優勝したという説もあるが」



 すると、マーシャは首を横に振った。



「魔眼持ちだからといって、ボードゲームが有利になることなんてないわ。あなたのお友達は負けず嫌いなようね」


「……そこまで言わなくてもいいだろ。あくまでその説があったと言っただけだ」



 部長は意味深に微笑むと、言った。



「私、ボドイチの権利を使ってある団体を作ろうとしているの。今の魔法学園に必要だと思うから」


「ある団体?」


「ええ。内容は伏せておきますが……あなたの存在はちょうどいいかもしれませんね」


「何がちょうどいいんだ?」


「いえ、何でも……ではまた」



 そう言って彼女は翻ると、暗闇の方に消えてしまった。変わったヤツだったな。結局何が言いたかったのかも分からないし……ひとまず、彼女の存在は無視しておこう。



 俺は気を取り直して、医務室へと向かった。

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