負けず嫌い
次の日、授業中も放課後も、終始ジルの機嫌が良かった気がする。放っておいてもよかったのだが、なんとなくその理由を聞いてみることにした。
「なぁ、ジル。お前なんでそんな機嫌いいんだ?」
「え、そう見えるか?」
「お前顔に出るタイプだからな」
「そうか……実は、近々ボードゲームの大会が開催されるんだよ」
「ボドイチのことか?」
なんだ、ジルもそのことを知っていたのか。
「そうだ。実は俺……そのゲームが得意なんだ! それも、想像を絶するくらいな!」
「ほう?」
「あまりの得意さに、クロードも驚くはずだ」
「なんでそんなに自信があるんだ?」
「得意だからだよ」
「その理由を聞いているんだがな……」
しかし、これはチャンスかもしれない。
「なら、ジル。俺にそのゲームのルールを教えてくれないか? 俺もネルと組んで参加する予定なんだ」
「おお! お前らもか! なら、いいぜ。俺が教えてやるよ」
「助かる……ちなみに、お前は誰と参加するんだ?」
「俺はリリーと参加することになっている。実は、俺の故郷ではボードゲームが流行っていて、俺とリリーはいつも一緒に組んで村の子供達と対戦していたんだ」
ジルとリリーは昔から仲が良いというのは知っていたが、ボードゲーム友達だったとはな。
その後、俺はジルの部屋からボードを取ってきて、図書館の自習室でルールを教えてもらうことになった。ネルとリリーも誘い、四人でボードを囲む。
ジルがマス目のある四角いボードを机の真ん中に置くと、駒を取り出した。
「このゲームはこの駒を使い、二対二で行われる。まず、四つの角に駒を配置するとこからスタートだな」
ジルが、俺達に駒を渡し、各々が初期配置に並べていく。ルールを知らないのはどうやら俺だけのようだ……。
「で、この並べた駒は、その種類によって一定の方向に移動することができる。順番にターンが周ってくるから、相手のチームの王の駒を取ったら勝ちってルールだ」
すると、ジルが駒に魔力を込めた。彼の目の前に並べられていた複数の駒のうち、一本が宙に浮く。
「駒を動かす時は魔法を使わなきゃいけない。駒は特殊な素材で作られているから、魔力が干渉しやすい。だから、繊細な魔力コントロールが求められるってわけだ」
魔法は苦手なのにゲームはできるんだな……。
その後も、ルールを入念に教わって、ついに実践してみることにした。俺とネルチーム、ジルとリリーチームに分かれて対局する。
見たところ、このゲームの重要度は戦略七割、魔力コントロール三割といったところだろうか。作戦を決めることはできるが、対局中は喋ってはいけない。チームメンバーとの連携も、勝利の鍵なのだろう。
俺は人生初のボードゲームの対局を始めた。
まず、あらかじめ決めておいた順番に沿って、一ターンにつき一手を順番に打っていく。俺はまず何をすればいいか分からないので、とりあえずジルのほうに駒を進めておいた。
流石の俺でも、王の駒を守らなきゃいけないことぐらいは分かる。
皆、黙々と駒を進めていき……やがてジルが俺の最初に配置した駒を取ってしまった。
俺は自分のターンになり駒を移動させようとするが、魔力のコントロールがぶれて、駒が倒れてしまった。
俺の持ち駒はどんどん減り、やがて一つ残らずなくなってしまった。ネルはジルとリリーに追い込まれて、王の駒を明け渡すことになっていた。
「ジル、リリー。お前ら強いな? ……いや、俺が弱いだけなのか」
すると、リリーが言った。
「まぁ、故郷では一番強い二人だったからね。簡単に勝たれても困るよ」
「そうか。それにしても呆気なかった気がするがな」
「まぁクロードくんは今回が初めてだからね」
「そうだが……もう一回やらないか?」
「お、いいね。やろうやろう」
俺たちは次の対局をスタートさせた……しかし、結果は同じだった。圧倒的な差をつけられて負けてしまった。
「なぁジル、コツを教えてくれないか」
「そうだな。まず、全ての駒の特性を把握することだな。クロードが最初に使っている駒は、防衛の方が向いてるんだ」
「ほう? なら、それを知った上で再戦だ」
「おう、やってやる」
次の対局も……やはり俺たちが負けた。
「もう一回やろう」
そして負ける。
「もう一回やれば何か分かるかも」
しかし、また負ける。
「もう一回────」
「ちょ、ちょっと待って!」
リリーが俺の話を遮った。
「クロードくん、もう何試合やったか覚えてないよ……そろそろ終わっておかない? 外も暗いし」
「え、まだやりたかったんだがな……」
すると、ネルが笑いながら言った。
「クロードは負けず嫌いだからね」
「そ、そうなのか? 自分では分からない」
「また今度やろうよ。ボドイチまでまだ何日かあるから」
「そうか。まぁ、ネルがそう言うなら」
こうして、俺の初ボードゲームは終了した。寮に帰るまでの間も、帰った後も、俺はずっと敗因を考えていた。ジルに駒を借りたので、それを動かす練習なんかもした。
なぜ負けたのか、相手の作戦はなんだったのか、どんな作戦なら勝てるのか……考えれば考えるほど、あのゲームの奥深さに気がついた。
しかし……ネルが言っていた負けず嫌いとは、こういうとこだったのか。少し自覚できた気がする。




