コダマ
俺は魔道具開発部で行われた会議で、とある作戦を決行することとなった。その作戦のため、俺は男子寮のシオの部屋の前にやってきた。場所はレオに教えてもらった。
不在じゃないといいんだが……。
俺が恐る恐るノックすると、中からシオの声が聞こえた。
「誰?」
「……」
しかし、ここで「俺はクロードだ」とは言えなかった。言えない事情があるのだ。中から、シオがこちらに近づいてくる音が聞こえる……そして「何か用事?」という声も聞こえる。普通はここで返事をするが、今はこれでいい。
なんと俺は、覆面をしているのだ。そう、例の作戦とは、覆面の不良集団の残りの勢力(役の俺)がシオの部屋を訪れるところから始まる。
ひとまず、絶対にバレないようにしないとだな……。
ガチャリ、と扉が開いてシオが出てきた。そして、俺の顔を見て一言。
「あ、クロードか」
「……」
「どうしたの? 覆面なんかして」
「……クロードではない。俺は覆面の不良だ」
「声がクロードでしょ。無理があるよそれは」
「……」
どうしよう。普通にバレた。信じられないくらい普通に。
しかし、このまま作戦を終えてはみんなに顔向けできない(覆面しているが)。こうなったら、仕方ない……作戦を続行させてもらう。
「シオ、よく聞け。俺はお前の大切な薬剤師であるコダマを攫った」
「クロードが?」
「クロードじゃない。覆面の不良だ」
「それで?」
「その……なんだっけ。そうそう、コダマを救いたければ、俺と決闘しろ!」
「ふーん……また明日でいい?」
……全然駄目だ。何もかも駄目になっている。でも、どうにかしてシオを次のポイントに連れて行かなければならない。
「今決闘しろ! コダマがどうなってもいいのか」
「……決闘してほしい?」
「あぁ。じゃないとすごく困る」
「ほう。じゃあクロードが困らないように、この話にノッてあげることにしよう」
もうクロードでいいから、とにかく来てくれ。
「えっと。今から俺についてきてくれ。その後、ある場所で決闘をしてお前が勝ったらコダマは返してやるよ」
「わーい。頑張っちゃおうかな」
「おう。気合い入れてくれよ」
「ま、あのクロードが本気で決闘を挑んできたら勝てる気はしないけどね」
「……クロードじゃない」
シオは「はいはい」と言って俺についてきてくれた。とりあえず、バレはしたが作戦は次のステップへ進む。
俺たちは、男子寮を後にするとそのまま森の方へと向かった。俺がいつも食事をしている場所のさらに奥、そこにある小高い丘までシオを案内した。
「ねぇ、クロード……じゃなくて不良さん。決闘なら広場でやればいいんじゃない? というか、夜中に学園を抜け出すのもあんまりよくないし」
「それはまぁ……あんまりよくないな、確かに。けど、とりあえずここで決闘したいんだよ」
「わかったよ。で、もうやるの?」
「あ、ちょっと待ってくれ……えっと。よし! 今から決闘をするが、お前の敗北する様をコダマにも見せてやろう!」
俺は大きな声でそう言って二回、手を叩いた。すると、茂みの奥から覆面の不良二人に囚われたコダマが現れた。
……ちなみに、その二人はネルとニアである。
「な、何!? コダマを返せ!」
シオは観念したのか、ノリ始めた。よかった、これでなんとかなりそうだ。
「残念だったな、シオ。お前はここで俺に負けて〝コダマに近づけなくなる〟んだ!」
「なんて最低な! 覆面の不良め、ここで俺が倒してやる!」
「やれるものならやってみろ! 決闘スタートだ!」
俺がシオに向かい飛びかかると、彼の目を見て「軽く本当に決闘してみよう」という遊び心を感じ取った。確かに、シオとはずっと手合わせしてみたかったんだ。
俺はすぐさま後に引き、手に魔力を込める。俺の得意分野はこっちだからな。しかし、ここで火魔法を使うのは、森が明るくなって他の生徒や先生にバレる危険性がある。
俺は慣れないながらも、水魔法をシオの方へ放った。それをいとも簡単に回避したシオは、こちらに駆け寄ってくる。
俺は連続で水魔法を放ち……やがて、それがシオの右足に着弾した。まずい、やってしまった……と思ったのだが、倒れそうになったシオはすぐさま体制を立て直した。
そして、俺の顔面めがけて殴りかかってくる。
俺の頬に直撃したパンチは、速く、重かった。俺は世界がぐわんと揺れるのを感じつつ、すぐさまヒールをかける。
シオの二発目の攻撃は蹴りだった。それが、俺の脇腹に直撃すると同時に自分をヒールしつつ、俺はその足を掴んでそのまま後ろに引っ張る。
シオはそのままバランスを崩すが、俺の手を振り払うと、綺麗に着地した。
「やるな、シオ」
「クロ……不良さんも中々やるね」
「今から大きめの魔法を使うからな。怪我したら治療してやる」
「お気遣いどうも」
俺は右手に水魔法を込めつつ、左手に闇魔法を込めてシオを拘束した。彼は必死に抵抗するが、身体はなんとか保持できている。
そこで、ふと作戦を思い出した。俺、負けないといけないんだった……あぁ、シオとの決闘、楽しかったのにな。
俺が闇魔法を解除すると、シオは俺に向かって走ってきた。俺はそのまま水魔法を貯め続けるが、それを放とうとした瞬間、シオのパンチを食らった(ように演出した)……。
シオの渾身の一撃を食らった俺は、勢いで真上に水魔法を放ち、水の球が空中で炸裂して雨のように降り注いだ。
シオは俺に言う。
「観念したか、不良め」
「こ、降参だ。コダマは返すよ」
シオがコダマと、その両脇にいた不良の方を見ると、二人は「降参します!」「お許しを!」と言いながらその場を去った。
俺も、隙を見て立ち上がると、シオに言った。
「えっと……もうこんなことしないから許してくれー!」
確かこうだったよな、台本。
俺はそのまま、さっきのニアとネルが向かった方向へと走り出した。後は二人と合流して、サヤと待ち合わせ場所に行き、コダマの告白の結果を待つだけだ。
シオは後半ノッてくれていたし、まぁほとんど成功ということでいいだろう。そうさせてくれ。
そして、ニアとネルの元へ合流して覆面を外した。俺を見たニアは、少し嫌そうな顔をしながら言う。
「さっき、本気で決闘してなかった?」
「まぁ、その方がリアルかなって」
「いいけどさ、怪我しないでって心の中で思ってたよ」
ネルが心配そうに言う。
「大丈夫かな、コダマさん……うまく言ってるといいけど」
「まぁ、なんとかなるんじゃないか? それに、この作戦もほとんどコダマが考えたものだし」
「そうだけど……成功しててほしいな」
すると、そこへサヤがやってきた。
「おう、三人とも。一旦、作戦は成功ということでいいか?」
「まぁ、一旦な。後はコダマがどう動くかだ」
「そうか。本当は盗み聞きしたいけど、彼女の報告を待つことが一番だよな」
「そうだな。ひとまず、待ち合わせ場所でコダマを待とう」
こうして、俺たちは森を後にし、コダマとの待ち合わせ場所へと向かった。




