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オルゴール

 俺たちは馬車に乗って、アランの故郷を後にした。短い旅だったが、色々なことがあった。長期休みの前半が終わろうとしているが、かなり充実していたと思う。



 あれから、アランの口数が減った。恐らく申し訳なく思っているのだろう。他のみんなは相変わらずで、またあの村に行きたいと話していた。



 リリーが恋バナを始めるのを阻止しつつ、俺たちは馬車に揺られた。




 魔法学園に到着して、石畳の上を歩くと、たった数日ぶりなのに懐かしい気持ちになった。この数日間で一つの村を救いましたと言ったら、みんなどんな反応をするだろうか。


 ネルは……驚くだろうか。



 俺が寮へ向かいながら歩いていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。



「クロード! 帰ってきたんだね」


「ネルか」



 振り返ると、そこにはネルの姿があった。久々だからだろうか。その声を聞いただけで少しだけ、高揚するのがわかった。不思議な感覚だ。



「私の方が先に帰ってきちゃったみたいだね」


「あぁ。少し急用があってアランの故郷へ行っていた」


「へぇ。また何かお土産話があれば聞かせてよ」


「あぁ。逆に、ネルの故郷の話もな」


「うん。緊張したけど、まぁ、楽しかったよ」



 俺はオルゴールのことを思い出した。ここで渡すのもいいが、ゆっくりできるところがいいな。話したいことも山ほどあるし。



「なぁ、ネル。また俺の部屋に来ないか?」


「えっ! いいなら……いいけど?」



 彼女は少し緊張しているようだった。前にも料理のために来てくれたことがあったし、別に身構える必要はないんだがな。



「ネルはその、他人の部屋に行くのが好きじゃないのか?」


「いや! そんなことはないよ、私としてはクロードの部屋ってほら……夢があるというか」


「夢が?」


「いやその、なんでもない……! とにかく、ほら。他の人の部屋に入ったことなくて、クロードが初めてだったから緊張してて」



 そうだったのか。言われてみれば俺も自分の部屋以外は入ったことがないな。特に用事もないし、入る必要がないといったほうが正しいか。



「まぁ、今は緊張しているかもしれないがそのうち慣れるだろ」


「そうだね! な、慣れるために何回もお邪魔させてね」


「あぁ、そうしてくれ」



 俺たちは、そのまま男子寮へと向かった。





 俺たちは部屋に集まって、温かい飲み物を用意した。そして、前回と同じくベッドの縁に座る。


 まずは俺が、アランの故郷であったことを話した。



 まず、村を救うために、ネム先生に魔道具を用意してもらったことを話した。その後、村に行くと予定より早くにスタンピードが起きたことや、それを俺たちでなんとかしたこと……ネルは、それを熱心に聞いていた。



「というわけで、なんとか村を救うことができたんだよな」


「すごいね……! 村を救うなんて、すごすぎるよ!」


「まぁ、大したことはしていないが……」


「いやいや、なんだか感動しちゃった」


「そうか?」



 ネルは目を輝かせながら沢山褒めてくれた。そんなに言われると嬉しくなるな……。



「そっか、私が暇すぎてぼーっとしている間にみんなはそんなことをしていたんだね」


「暇だったのか?」


「まぁね……やることもないし、本もなかったからね」


「ネルって結構本好きだよな」


「まぁね、でもクロードも図書館に入り浸ってたってシーナ先生から聞いたよ」



 入り浸っていた……まぁ、そうか。あれは呪いについて調べていたから仕方ないんだがな。しかし、本が好きなのは間違いじゃない。



「で、結局故郷はどうだった? 楽しめたのか?」


「うん、懐かしい気持ちになってよかったよ。ディアンタさんも歓迎してくれたし……でも」


「でも?」


「やっぱりちょっとだけ気まずかったな」


「そうなのか?」



 ネルは俯いて、小さく言った。



「私、魔法学園に来る日にね、ディアンタさんと喧嘩したんだ。理由は少しも覚えてないけど」


「そうなのか」


「喧嘩って言っても、私が一方的に怒ってた気がするけど」


「ネルも怒ることあるんだな」


「あるよ! 私だって人間だから」



 ネルは出会ったときから、ずっと俺に優しくしてくれたから、怒っている姿なんて想像できないな。



「でも、そのディアンタって人はそれについて気にしてなかったんだろ?」


「それはまぁ、そうだけど……」


「ならいいんじゃないか、気にしなくても」


「うん、そうかも。ありがとね」



 ネルは完全には納得できていないようだった。色々事情があるのだろう。


 そして俺は、例の魔道具について思い出した。渡すなら今しかないな。



「なぁ、ネル……その、これを見てくれ」


「うん?」



 俺はオルゴールを取り出して、ネルに渡した。



「この箱は?」


「これはオルゴールと言う魔道具だ。そっと魔力を込めてみてくれ」


「うん。やってみるね」



 ネルが箱に手をかざすと、曲が流れ始めた。綺麗で心地よい、素敵な曲だった。いくつも種類がある中で、全部の音を聴いたうえでこれを選んだのだ。



「すごいね、これ! おもしろい!」


「そうだろ」


「魔道具ってこんなこともできるんだね」


「……それで、その。それはネルへのプレゼントなんだ。この間のお返しでさ」


「えっ!? 私に? いいの?」


「もちろん、ネルのために選んだんだ」



 ネルがハッとした瞬間、魔力を込めていた手が止まり、それと同時に部屋が静かになる。彼女は俺の目を見て、少し大げさなくらい嬉しそうにしていた。



「ありがとう、クロード! 嬉しい! 大切にするね」


「よかった……『なにこれ、いらない』とか言われたら普通に落ち込んでいたぞ」


「そんなこと言わないよ! だってこれ、素敵だし、何よりクロードが選んでくれたんだから!」



 そういえば、誰かが「お前が選んだものが正解」とか言ってたような……そういうことだったのか。


 とにかく、ネルが喜んでくれたのは嬉しいな……こっちまでなにか貰ったような気持ちになる。これが、ネルの言っていた「プレゼントはね、あげる側ももらう側も両方幸せになるんだよ」という言葉の正体か。



 すると、ネルがカバンを漁り始めた。そして、その中からあるものを取り出して俺に渡す。



「これ、故郷のお土産。クロードにあげるね」


「ありがとう。これは……ペンダントか?」


「そう。なんだかこれに無性に惹かれてさ。なんでだろうね」



 そのペンダントの形には見覚えがあった。俺が何故か、昔から持っていたペンダントにそっくりだったのだ。以前、それを見たネルは呪いの症状が出ていた……これは、ネルの故郷で売られているものだということか。


 じゃあ何故俺が似たようなペンダントを持っているんだ?



 いや、そういうのは考えるだけ無駄か。



「ありがとう、ネル。嬉しいよ」


「ほんと? よかった! これ、私の故郷では定番のお土産なんだ」


「そうなのか。いいな、これ」



 何にせよ、ネルから何かが貰えただけで嬉しい。俺はそのペンダントを試しにつけてみた。なんだか温かい気持ちになるな。



 俺たちはその後も、思い出を語り合ったり、この先の長期休みに何をするかを考えたりしながら過ごした。


 しばらく会えなかっただけなのに、やはり俺はネルが恋しかった。それだけ、自分の中で彼女の存在が特別になっていたんだと自覚し始めるきっかけにもなった。



 長期休みはまだ三分の一ほどある。色々なことをしたいな。

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