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勉強会

 次の日、登校していつものように席に着くが、珍しくジルが隣に来ることはなかった。一人で授業を受けることができて安心している半面、なんだか不思議な感覚だった。静かすぎる、と言えばいいか。



 昼食の時間になり、教室を出ようとすると、背後から声をかけられた。知らない女子の声だ。



「ねぇ、クロードくん……だっけ?」


「そうだが。何だ?」



 振り向くと、薄茶色のポニーテールをした小柄な女子が、俺のことを見上げるようにして見ていた。



「ジルは? 今日はいないの?」


「ジルか? 知らんな。いつもならその辺りに座っているはずだが」


「うーん。そっか……じゃあその、丁度いいや。クロードくん、ついてきてくれない?」


「今から昼食なんだが」


「いいから、来てって!」



 リリーはそう言って、スタスタと歩き出した。が、俺が無視して別の扉から出ようとすると、また彼女に止められた。



「ふ、普通このまま着いてくるよね!? この流れ」


「そうだったか」


「うん! 今度こそちゃんと着いてきてもらえる?」


「昼食……」



 俺は渋々彼女についていくことにした。


 彼女は建物を出て、どこかへ向かいながら淡々と自己紹介をする。



「私はリリー。ジルとは知り合いだよ」


「リリー? あぁ、シーナ先生から聞いたぞ。俺を探してたって」


「そう。ジルに勉強を教えてあげてほしいって頼もうと思ってたの」


「え? 嫌なんだが」



 リリーは立ち止まって、俺の方を見た。



「お願い! このままだとジル、点数が足りなくて退学になっちゃうから!」


「……それは自業自得じゃないのか?」


「いや、その。彼だって頑張ってる訳だし、それに君とジルは友達なんでしょ? 友達が退学になるのは嫌でしょ?」


「友達……?」



 ジルは、友達なのか? 難しいな。俺がヤツに自らの意思で関わりにいったことなど一度もない。しかし、今日……ふとジルが来なくなってから少し、寂しいような気持ちになった。ような?



「クロードくんは勉強が得意なんでしょ? 成績もトップだし」


「得意ではない。特に座学はな」


「いやでも、確実に私とかジルよりは出来るわけじゃん?」


「というか、何故そんなにジルのためにやってあげるのかが気になるな」


「えっ……! それは」



 リリーは目を逸らし、頬を赤らめた。



「もしかしてリリーは、ジルの────」


「えっ!」


「友達なのか?」


「あぁ、そういう!? ま、まぁそうなるかな? 向こうがどう思っているかはわからないけどね」



 そういうことか。リリーはジルのことを友達だと思っているから退学もしてほしくないわけだ。


 しかし、それと俺が勉強を教えるのは別の話だ。



「まぁ、勉強を教えてもらうなら他をあたってもらおうか」



 そう言って俺が立ち去ろうとすると、リリーに呼び止められた。



「待って! このまま、着いてきてくれたら気が変わるかもよ?」


「うーん、まぁそこまで言うなら」


「ありがとう! じゃあ、行こう」



 俺がリリーの後についてしばらく歩くと、校内にある日時計のある広場まで来ていた。そして、その脇にあるベンチに、ジルが腰掛けていた。やがて、こちらの存在に気づくと露骨に嫌そうな顔をした。


 リリーはジルの元へ駆け寄って、少しだけ強めに言った。



「ジル、なんで今日は授業サボったの!」


「まぁ……めんどくさかったから、かなぁ」


「そんなんじゃ本当に退学になっちゃうよ?」


「まぁ、それはそれで」


「それはそれでじゃないでしょ、こっちは心配してるんだけど!」


「……クロードはなんで連れてきたんだよ?」



 急に話題を振られて少し驚いた。



「クロードくんはね、ジルに勉強を教えてあげる要員なわけ。仲いいってのは知ってるよ」


「うーん? まぁ確かに仲はいいけどさ」



 仲はいいんだ、俺たちって。



「だから授業もサボっちゃダメだし、放課後はクロードくんと勉強会ね。ついでに私も教えてもらお」


「勉強会か。まぁクロードが教えてくれるならいいか」



 勝手に話が進んでるな……? 俺は慌てて話に割り込んだ。



「教えるとは言ってないが?」



 すると、リリーは「ええっ!」と言ってこちらを見てきた。さっきもそう言ったはずだが……。



「クロードくん! お願い、ジルに……あわよくば私に勉強教えてくれない? ほら、今日の昼ごはん奢るしさ!」


「いや、やめておくよ。俺も放課後はやることがあるんだ」



 ネルと会う約束をしているからな。それを断ってまで勉強会をするほどお人好しじゃないからな。うん? お魔獣好しか。


 すると、ジルがそっと挙手した。



「なぁ、クロード。ちょっといいか?」


「なんだ?」


「あぁ、その前に……リリーは席を外してくれるか?」



 リリーは少し困惑した様子だったが、渋々承諾した。そして、少し離れたところにあるベンチに行って、俺達とは反対の方を向いて座った。


 それを確認したジルは、小声で言った。



「リリーはさ、俺の幼馴染なんだけど」


「あぁ。それで?」


「まぁ、それで……多分俺、アイツのことが好きなんだよな」


「あぁ、そうなのか」


「そうなのかって……随分と軽いな。まぁいいや、それでさ。アイツと離ればなれになるのは嫌だから、やっぱり退学はしたくないんだよ」


「そうか」



 確かにジルの気持ちも伝わったが、俺は放課後やることがある。それに、俺は別に勉強が得意ではない……俺はしばらく考えてから、一つの落としどころを見つけた。



「じゃあ、ネルも誘って四人で勉強会ならどうだ?」


「え、いいのか?」


「俺よりネルのほうが勉強は得意だし、教えるのも上手いからな」


「助かるよ……! クロード、絶対に今度昼食を奢ってやる」


「それって一緒に食べる前提じゃないのか?」


「そりゃあそうだろ」



 ジルは立ち上がると、リリーに向かって大きな声を出した。



「リリー、話は終わったぞ!」


「わかった!」



 リリーはこちらに駆け寄ってきて「どうだった?」と聞いた。



「勉強会、してもいいってさ。ネルさんも一緒らしい」


「ネルさん? あぁ、あの」


「そう。勉強、得意らしいからな」



 俺はふと、なぜリリーがネルのことを知っているのかと疑問に思った。昨日の話を聞いている限り、ネルはリリーのことを知らないはずなのに。



 ……そうこうしているうちに、そろそろ次の授業が始まることを思い出した。昼食は……仕方ない。諦めよう。



「じゃあ、俺は授業に戻るが。ジルも来るだろ?」


「まぁ、午後からはちゃんと受けようかな」



 こうして、俺達は広場を後にした。

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