嫌な空気
村の奥に見える森の方から、無数の魔獣の影がこちらに迫っていることに気がついた。それを見た村の戦士達は武器を捨て、一目散に逃げ出した。立ち向かおうとする俺達を見て止めるものもいた。
「おいお前ら! 逃げたほうがいいぞ! 知らないからな!」
無理もない。この魔獣の大群を前に、俺すらも逃げたいという気持ちが芽生えてしまったからな。こうしている間にも、魔獣たちの地響きがどんどん近づいている。
しかし、逃げるわけにはいかない。アランが既に魔獣の群れを避けつつ、魔力溜まりの方へ出発したのが見えたからだ。
ネム先生の指示で、みんな動き始めた。
「クロードは全力で広範囲の火魔法を魔獣達にぶつけて」
「わかった」
「シアはそれを水魔法で消火しつつ、魔獣たちの足を止めて」
「難しいこと言いますねぇ」
「レオははぐれた魔獣を倒して」
「おう」
「リリーは、あの監視塔に登って上から指示を出してほしい」
「わ、わかりました……!」
俺たちは配置について、アランが魔力溜まりにたどり着くまでの間、全力で魔獣を食い止めることになった。
まず、俺は複数の火の球を、連続で魔獣の群れに放った。それらは手前側にいた魔獣に着弾したものの、まだ魔獣は山ほどいる。
俺は魔力切れを恐れずに、ひたすら火の球を放ち続けた。続いて、シアが水魔法で足場を悪くし、魔獣たちの足を止める。
すると、後方からリリーの声が聞こえる。
「右前方にはぐれた魔獣が! 村の方に迫ってます」
それを聞いたレオは、大剣を構え指示された方へ走っていった。これで、はぐれた奴らはなんとかなりそうだな。
しかし、このままでは魔獣に押し切られる……そう思った瞬間、ネム先生が言った。
「全員、耳ふさいでね」
その瞬間、ネム先生は俺たちの前に立ち、手に持っていた二つの松明のような棒状の物を魔獣の群れに向かって投げた……と思えば、それは群れの正面の上空で大きな爆発を起こし、その轟音は耳を塞いでもうるさいと感じるほどだった。
これが魔道具……魔獣たちはあまりの大きな爆発に怯み、群れは一気に歩みを止めた。
その瞬間、一匹の魔獣が振り返った。その視線の先にあるのは、さっきまで奴らがいた森があった。次々と、魔獣たちは森の方を見て……やがてそちらに向かって歩き始めた。
群れは散り散りになり、村から遠ざかっていく……。
「アランの作戦が成功したということでいいか……?」
俺がネム先生に聞くと、彼女は頷いた。
「そうみたいだね。じゃあ、みんなでアランを迎えに行こうか」
すると、丁度森の奥からアランが歩いてきた。自力で帰って来れたのか……そう思っていたがなんだか様子がおかしい。息も荒く、歩いているのがやっとの様子だった。手には、ビリビリに破れた魔道具を持っている。
「ネム先生……まさか」
「……うん。恐らくだけど、途中で魔獣に魔道具を破壊されたアランは……魔力溜まりの魔力を自分で吸い上げることによって作戦を続行させたんだね」
「でも、人間がそんな一気に魔力を吸い上げたら……」
「暴走、したみたい」
その場がしんと静まり、嫌な空気が流れた。




