実戦は初めて
野営のせいで疲れが取れないまま、次の日の昼過ぎにやっとアランの故郷の村に到着した。
馬車の料金はアランが全て負担してくれた。彼の故郷を助けるために協力している側だから当然といえば当然なのだが、アランはあまり金を持っていないので少し心配になる。
その村はのどかで、魔法学園よりも少し暖かい気候だった。村の中を横断する小川と、それに沿うように建てられた水車のある建物……初めて来たのに、どこか懐かしい雰囲気だった。
ここで近々スタンピードが起こるなんて、想像もつかない。
そして、アランに案内されて彼の義理の両親と会うことになった。本当の両親がどうなったかは、誰も訊かなかった。
そして、村の奥の奥、小高い丘の上にある一番大きな建物にたどり着いた。ここは集会所兼、村長の家らしい。それはつまり、アランの義理の親が村長ということになる。
中に入ると、中年の男性が出迎えてくれた。首からこの村の入り口にあったものと同じマークが刻印されたペンダントを下げている。
彼はアランの姿を見て驚いていた。
「アランじゃないか! 何故ここに? 手紙は送ったはずだ……危ないから帰ってくるなと」
「義父さん。ちゃんと手紙は読んだし、この村が危険なことも承知している。けど、何もせずに魔獣たちにこの村が襲われるのを待つのなんて無理だ」
「しかし、危険だぞ」
「頼もしい助っ人と、スタンピードを阻止するための魔道具がある。これでなんとか────」
「帰ってくれ」
「え?」
村長は強く言った。
「ここは危険だと手紙でも忠告した。学生たちが集まって何かしようとしても、それは恐らく無駄に命を落とすだけだ」
「俺たちは大丈夫だ、ネム先生もいるし」
「明日、村民全員でこの村を出ることになっている。その時にお前も魔法学園に帰れ」
「村を出るって……ここを捨てるってことか?」
「そうするしかなかろう」
「……っ」
アランは何か言い返そうとしていたが、村長は俺たちの方を見て言った。
「君たち、来たばかりですまないが、明日には帰ってもらう。今日の分の宿は手配しよう。馬車代も負担する」
すると、ネム先生が代表して答えた。
「ま、村長さんがそう言うなら仕方ないかもねー。せっかく作った魔道具が勿体ないけど、お言葉に甘えて明日には帰っちゃおうかな」
俺は先生に訊いた。
「本当に帰るのか? せっかく来たのに?」
「この村の方針は村長が決める。学生であり部外者の君たちがどうこうできることじゃないよ」
「それはまぁ、そうだが」
「残念なのは分かるけどね。危険なことではあるから」
ネム先生はそう言い切ると、振り返った。
「せめて、この村で買い物でもしておかなきゃだねぇ。クロードもネルへのお土産買わなくていいの?」
「……確かに」
俺はネム先生に続いて、集会所を後にした。同じく外に出てきたレオが言う。
「なんだか拍子抜けだな」
「仕方ないよな。確かに、スタンピードは危険なものだ。村長の言っていたことも理解できる」
「まぁ、アランを心配してのことだったろうしな……で、買い物だっけか」
「そうだ。お前もシオに何か買ってやったらどうだ? 寮にずっといて暇だろうから」
「……確かに。新しい観葉植物なら、あいつも喜ぶかもな」
────その瞬間、村の中央にある鐘が鳴らされた。その音は……酷く焦っているようだった。すると、一人の村人が走ってきて、集会所の中に入る。
俺とネム先生、レオも同じく集会所に入ってその村人の言葉に耳を傾ける。
「村長! 緊急の報告です!」
「なんだ?……まさか」
「狩人たちによると、魔物の群れがこちらに迫っているとのことです……それも大量に!」
「なんだって! 今すぐ村人たちを避難させろ! 訓練はしたはずだ」
「それが……皆パニック状態でして、必死に荷物を詰める者や諦める者など……とにかく大変な状況です」
「なら、私がみんなに直接避難指示をする!
お前は今すぐ逃げろ!」
「はいっ!」
そう言って、村長とその村人は集会所から飛び出していった。
残された俺たちは顔を合わせて、各々が視線で合図した。全員、考えていることは同じらしい。代表して、ネム先生が言う。
「スタンピードを阻止しよう。このままだと、被害者が出るよ……それも大量にね」
俺たちは強く頷いて、ネム先生の指示を聞いた。
「まず、クロードとレオ、シアが最前線で魔獣達を食い止める。リリーと私は後列でヒールと魔法、魔道具での援護……で、その間にアランは魔道具を持って魔力溜まりへ向かってほしい。使い方は昨日教えたでしょ?」
アランはそれに同意する。
「わかった。必ず成功させる」
「けどアラン、君はカッとなると周りが見えなくなるタイプだから……あくまで自分の身を優先で、怪我しそうになったらすぐに逃げてね」
「わかってるよ」
先生は俺やレオ、シアのほうを見て言った。
「で、君たち前線組は、常に私の指示に耳を傾けてね。作戦失敗の気配がしたら一目散に逃げるよ」
そして、次にリリーのほうを見る。
「リリー、実戦は初めて?」
「は、はい……」
「無理しなくていいからね。身の危険を感じたらすぐに退散すること」
「わかりました」
先生は獣耳を震わせると、強く言った。
「じゃあ、行こう!」
俺たちは集会所を飛び出して、魔獣の声のする方へと駆け出した。




