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贈り物

 俺がレオとシアに「アランの故郷を助けるのを手伝ってほしい」と頼むと、二人は快諾してくれた。この二人ならそう言うと思っていたがな。


 一応のためリリーにも声をかけてみると、彼女も参加したいとのことだった。ジルがいなくて暇なのと、勉強会組のためにできることがあるならやりたいとのことだった。




 俺が昼頃、医務室に行くと、既にアラン、レオ、シア、リリーの姿があった。みんな俺を見て「遅いぞ」といった顔をした。



 そして、ネム先生の目の前には魔法陣の描かれた大きな紙が置かれていた。



「先生、それは?」


「もう他の人には説明したんだけど、これは完成した魔道具で、魔力溜まりの中央に置くことによって魔力の暴走を抑制するっていうものだよ」


「ほう」


「一枚しかないから大事に扱ってね」


「わかった……ということは、俺たちは魔獣が大量に潜んでいる森に潜入しなきないけないってことか」



 魔力溜まりか。いい思い出がないな。



「そう。だからお友達を呼んできてもらったの。私もついていくから、危険ではないと思うよ」


「それは頼もしいな。で、医務室はどうするんだ?」


「別の先生を手配してあるから大丈夫」


「用意周到だな」



 すると、アランが言った。



「みんな、今日の夕方には出発なんだが……行けるか?」



 その場にいた全員がコクコクと頷く。すると、リリーが挙手した。



「アランの故郷までどのくらいかかるの?」


「半日もあれば着くな」


「半日!?」


「すまん、遠いんだ」


「が、頑張って酔わないようにしなきゃ」



 そして、俺たちは一度解散し、夕方に再集合することになった。俺は普段使っているカバンの中に、着替えや食料などをできるだけ多く詰め込んだ。どのくらいの日数がかかるかも分からないので、備えあれば憂いなしだ。




 そして、俺達六人は馬車に乗り込み、アランの故郷へと向かった馬車を何度か乗り換えたり、途中の街で休憩したりしながら半日かけて移動する。


 みんな暇になったのか、〝恋バナ〟とやらを始めた。



 リリーがアランに向かい問いただす。



「アランくんは好きな人とかいるの?」


「はぁ……? 俺は、別に、いない」


「その反応は、いるってことでいい?」


「そんなの聞いてどうするんだよ……」


「そんなのを聞くのが恋バナでしょう」


「逆にお前はどうなんだよ?」



 すると、リリーは目を逸らして言った。



「……そんなの聞いてどうするのさ」


「さっきまでと言ってることが真逆なんだがな?」


「そ、そんなことよりシアさんは? シアさんはどうなの?」



 すると、シアが言った。



「私? いやぁ。いないかな。強いて言うならクロードはおもしろいなって思うよ」



 俺がおもしろいってか? 前から思っていたが、彼女の〝おもしろい〟の基準がよくわからないな。俺ほど普通の人間はいないというのに。なぜなら、普通の人間を装って生活しているからな。


 すると、リリーがレオの方を見た。



「レオくんは好きな人いるの?」


「全員に聞いていくのか……それ。いねぇよ」


「なーんだ。つまらないなぁ」


「つまらなくねぇだろ。そういうもんだよ」


「あ、そうだ! ネム先生は?」



 すると、ネム先生は優しい笑みを浮かべた。



「いそうに見えるかなぁ?」


「いや、見えないかもです……」


「いやぁ、恋バナっていいね。ワクワクするよねぇ」


「そうなんですよ、楽しくてついやっちゃう」



 俺は「クロードくんは?」と聞かれるのを今か今かと待ち続けて、どう回答しようか考えていた。そもそも好きな人というのは基準が曖昧じゃないか? それで言うと、勉強会組のことはみんな好きだぞ? そういうことじゃないのか。



 ……しかし、リリーは俺にその質問を投げかけてくるようなことはしなかった。俺はとうとう、その件について自分から触れてしまった。



「俺には……聞かないのか?」


「あ、うん。クロードの好きな人は知ってるから」


「知ってる? 一体誰のことだ……」


「そのセリフを聞いて一番悲しみそうな人だよ……自分で考えてね」


「うーん……」



 みんな冷たい目でこっちを見てきた。こういった話題の時の勉強会組は、本当に怖い人たちに見えてしまう。俺って何か悪いことしたのか……?


 すると、リリーがおかしな提案をした。



「ねぇ、この後ゲームをしてさ、負けた人が好きな人に贈り物をするっていう遊びしない?」


「しない」



 真っ先に答えたのはアランだった。



「なんで!? 楽しそうでしょ?」


「いや、そういうのはさ……ちゃんとした理由で贈らないと意味がないだろ」


「でも、これがきっかけで仲が深まったらそれはそれで良くない? 相手も贈られて嫌な気持ちはしないだろうし」


「でもなぁ」



 すると、レオが言った。



「俺はやってもいいぜ。何せ好きな人がいねぇからな」



 それにシアが返答する。



「お前が負けたら、寮で閉じ込められているシオにお見舞いがてら何かをプレゼントすればいい」


「はぁ? それだと趣旨が変わってこないか?」


「まぁ、そうだけど」


「後、ネム先生が負けた場合はどうするんだよ?」



 ネム先生は苦笑いした。



「私もやるんだ……ま、私が負けたら仲良しのシーナに本でも買ってあげることにしようかな」



 やるんだ……というかシーナ先生とは仲がいいんだな。


 しかし、俺はどうしよう。好きな人に贈り物か……いや、まだ負けるとは限らないしな。ゲームの内容にもよるだろうし。


 すると、リリーが天を指さして言った。



「この、私たちの頭上を飛んでいる魔獣、定期的に鳴いてるでしょ?」



 見上げると、大きな翼を持った魔獣が空を飛んでいた。あの魔獣は魚などを主食とした、人間にとって無害な生き物だ。



 そして、リリーが続ける。



「今からこの石を、好きなタイミングで隣の人に渡していいことにしよう。それで、あの魔獣が鳴いたタイミングで石を持っていた人の負けね」



 つまり、完全に運ということだな。みんな、ここまで来たならやるしかないといった表情になっている。ここで俺が「やめておこう」と言い出せる空気でもなかったので、渋々乗ることにした。



 そして、リリーが石を持って「はじめっ!」と言って隣にいたレオにそれを渡す。レオはアランに、アランはシアにそれを渡し……とうとう俺の番が回ってきた。



 俺はその石を受け取り、ネム先生に渡そうとした瞬間……頭上から魔獣の甲高い鳴き声が聞こえてきた。



 しばしの間時間が止まり、自分が負けたことを認識する。すると、リリーが言った。



「お、思ったより早く終わっちゃったね……というわけで、クロードくんの負け!」


「俺の負けか……あんまり悔しくもないな」


「そうでしょう。おかげで贈り物できるもんね」



 すると、シアが意地悪な顔をして俺に聞く。



「で、クロードは誰にプレゼントをするつもりなんだい?」


「誰に……か」



 俺は頭の中で、勉強会のメンバーを思い浮かべた。とりあえずジルは絶対に違うな……うーん。


 そういえば、この間ネルにマフラーをもらったな。これは、お返しの機会として丁度いいのではないか。



「まぁ……ネルかな」


「おおっ!」



 シアは目を丸くして、アランとレオは頷き、リリーは拍手をした。一体どういう反応なんだ……?


 リリーが言う。



「流石はクロードくん! 成長したね!」



 レオやアランも満足そうだった。



 ……よくわからないが、まぁ贈る相手はネルが適任だろう。いつも世話になっているし、一番仲が良いと言っても過言ではないだろう。


 果たしてネルは俺に贈り物をされて喜ぶのだろうか? それに、何を渡すのが正解なのだろうか。俺は色々と心配になったので、みんなに聞いてみることにした。



「この間、ネルにマフラーを貰って、そのお返しも兼ねて今回は贈り物をしようと思うんだが……何がいいと思う?」



 すると、レオが言った。



「それはお前が考えるのがいいんじゃねぇのか? それが一番嬉しいだろ」


「そういうものか?」


「あぁ、そうだ」



 すると、アランが言った。



「俺の故郷の村にはいくつか店があるから、そこで選ぶのはどうだ?」


「そうか、確かに魔法学園の近くで手に入らないものなら喜ぶかもな」


「まぁ、正直お前が選んだものなら、たとえ何であれそれが正解な気もするがな」


「そうか」




 そうしている間にも、馬車はゆっくりと進み、日は沈もうとしていた。


 広々とした丘に差し掛かった頃、馬車が停止して野営の準備が始まろうとしていた。



 この辺りに街はおろか、小さな村すらないので、宿屋に泊まったりすることはできない……野営なんて初めてだな。まぁ、魔獣だった頃は毎日が野営のようなものだったが。



 寒くないようマフラーをつけて、焚き火の温もりに触れながら、ネルに何を贈るべきかをずっと考えていた。


 空を覆う星空に向かい、昇っては消えてゆく煙や火の粉……。



 彼女は、ちゃんと喜んでくれるのだろうか。

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