もう一つの故郷
食事処を出て、俺たちはゆっくりと魔法学園の方へと歩き出した。
長期休みの予定や、授業についての話をしながら歩く。
ふと、強い風が吹いて身体が震える。手がかじかんでいることに気づく。店に入る前より、寒さは酷くなっているな。
「クロード、やっぱり寒いんでしょ?」
「……火魔法でも使おうかな」
「街の中だからダメだよ……」
「ぐ……流石に寒すぎるな」
「そうだよね」
すると、ネルがとある店の前で立ち止まった。どうやら服屋みたいだ。
「あの、クロード。この店で買い物してきていい?」
「もちろん。じゃあ、俺は隣の店を見てきていいか?」
「わかった。じゃあ見終わったらここで合流しよう」
そして、ネルは服屋に、俺は隣にあった魔道具の店に入った。その店は大変興味深いものばかり置いてあったが、実用的ではなかった。それに、値段も高い。
しかし、何故かまた来ようと思えるいい店だった。俺のお気に入りは、魔力を込めると音楽が流れる小さな箱だ。どんな仕組みなのだろう。
店を出て、待ち合わせ場所でしばらくぼーっとしていると、ネルが戻ってきた。手には、細くて長い布を持っている。
「ネル、それは?」
「これはね、マフラーだよ」
「お、いいじゃないか」
「うん……その、これさ……」
ネルは少し言い淀んでいた。
「これ、クロードへのプレゼントなんだけど……」
「え? いいのか?」
「うん。寒そうだったから……」
「本当に? 俺に……?」
俺はそのマフラーを受け取ると、なんだか胸が締め付けられる感覚を覚えた。嬉しい……素直にそう思った。丁度寒かったからというのもあるが、それ以上にネルから何かを貰えたことが、何よりも嬉しかった。
「ネル、ありがとう……! 嬉しいよ」
「ほんと? よかった!」
「本当にありがとう。なんだか、今……すごく幸せだ」
「そ、そうなの!? でも……私も同じだよ」
「贈った側なのに?」
「プレゼントはね、あげる側ももらう側も両方幸せになるんだよ」
そうか……なら、俺もまたネルに何か贈ろう。
俺は早速、マフラーをつけてみることにした。これで次から出かけるときも安心だな……しかし、何故かネルはくすりと笑った。
「ど、どうした?」
「ごめん、クロード……巻き方教えてあげる」
「間違っていたか……?」
どうやら俺の巻き方ではいけないらしい。ネルは一度自分のマフラーを巻き直しながら説明してくれたが、よくわからなかった。これって巻き方とかあるんだな。
「もうネルが巻いてくれ」
「えっ、いいの……?」
「あぁ」
俺は屈んで、ネルにマフラーを渡した。ネルは、顔を赤くしながらそっと巻いてくれた。やはりネルも寒いんだな。
俺はマフラーの温かさを感じ、なんだか安心した。
「ありがとう」
「どういたしまして! 似合ってるよ」
「そうか?」
俺たちはまた、魔法学園に向かって歩き出した。ふと見上げると、僅かだが雪が降り始めていた。
「ネル、雪だ」
「ほんとだね! 綺麗だなぁ」
「ネルの故郷にも雪は降るのか?」
「うん……それはそれは、大量にね」
「大変だな」
「雪を溶かすために火魔法を使いすぎて倒れそうになったこともあるよ」
「……き、気をつけてくれよ?」
「まぁ、あのときは小さかったから魔力量も少なかったんだと思う」
すると、ネルが立ち止まって俯いた。
「クロード……私ね、故郷に帰りたくないんだ」
「何故だ?」
「確かにディアンタさんは優しいし、村のみんなは歓迎してくれると思うよ。でも、きっと魔法学園で私が〝呪われている〟っていう扱いを受けていることも知ってるはずなんだ」
「それで帰りたくないと」
「そうだね。私は弱いから……そんな風に思われながら過ごすのは多分耐えられないよ」
俺は「なら一緒に魔法学園にいよう」と言いたいところだったが、それはきっと間違っている。ネルに必要なのは、故郷に帰るための勇気だ。
「なぁ、ネル。俺、思うんだ」
「何を?」
「人間というのは不思議な生き物だってな。信ぴょう性のない噂話なんかでお互いを傷つけたり、その輪を広げてしまったり」
「そうだよね……」
「でも、俺は人間が好きだ。だってそれ以上にお互いを助け合ったり、高め合ったりできる生き物だろ?」
「うん、そうかも」
「だから、村に帰っても堂々としていればいいさ。少なくとも、魔法学園で待っている俺は味方でいるから」
「クロード……ありがとう! なんか、勇気出てきたかも!」
ネルはまた歩き出した。俺もそれに続いて、一歩を踏み出す。
彼女は振り返り、笑顔を見せてくれた。
「クロードが人間のことを好きなように、私もクロードのことが好きだよ……あ、その! 他意はないからね! 変な意味とかじゃないから! あくまで人間代表ってことね?」
「あぁ。ありがとな」
「ううん、私の方こそ勇気をくれてありがとう。また、故郷のお土産を用意するからね」
「それは楽しみだ」
俺たちは雪道の中を、転ばないようゆっくりと歩いて、もう一つの故郷である魔法学園を目指した。




