せめて
俺は旧・薬草学棟の裏……といっても少し離れてはいるが、そこにシーナ先生と集まった。そして、手頃な使われていないクローゼットを見つけると、それを指さした。
「シーナ先生、ここに隠れることってできるか?」
「先生をこんな汚い場所に隠してはいけないものですよ? 知ってました?」
「仕方ないだろ……そこは許してくれ」
「はいはい。クロードは人使いが荒いですねぇ」
そう言ってシーナ先生はクロードの中へ入った。
「居心地はどうだ? 外の声は聞こえるか?」
「意外と快適ですね。魔法学園をクビになったらここに住もうと思います」
「よかったな、家が見つかって」
すると、足元に石が転がってきた。これは、サヤからの「もうすぐテンが来る」という合図だ。
「シーナ先生、もうすぐだから静かに」
「はいはい……」
しばらく空を見て待っていると、テンが現れた。前回会ったときと比べて少しやつれているか……。
「クロード、情報屋から聞いた。僕を勉強会組に入れたいってな……」
「ん……? あぁ、そうだ。」
「しかし残念だが、僕はもう勉強会には興味がないんだ」
「そうか、残念だな」
「それだけか? 僕は忙しいから帰るぞ」
俺は慌てて引き留めた。この、勉強会組に入れたいという話は、恐らくサヤが適当に作った口実だろう。
「テン、待ってくれ。その、覆面の不良集団について知ってるか?」
「知ってはいるが……学園中で話題だからな。それがどうした?」
「いやその、お前がその不良集団のリーダーなんじゃないかって思って」
「はは……冗談だろう? 成績が十位だったこの僕に、不良なんかをやる理由はない。そうだろ?」
「……」
「そんなくだらないことで僕を呼ばないでくれ。もう帰るからな!」
テンが振り返ろうとした瞬間、俺はカバンから例の薬草を取り出した。
「待て! テン、これに見覚えは────」
「それをどこで手に入れた!?」
「これは……」
「よ、よこせ!」
テンが俺から薬草を奪おうとするので、慌てて手を引いた。
「よこせクロード! 金なら払う! 金貨十枚でどうだ!」
「何故これがいるんだ?」
「丁度切らしてたんだよ、次のが育つのに何ヶ月かかることか」
「お前まさか……自分でこれを使ったのか?」
「何が悪いんだ! とにかくそれを────」
テンが服の中に仕込んでいたナイフを振りかざし、俺の目の前に刃が突き立てられた……しかしその瞬間、テンの動きは止まった。
見ると、クローゼットから出てきたシーナ先生が、闇魔法をかけていたようだった。その表情は悲しみに満ちていた。
「まさか、学園内の生徒が違法の薬草を接種していたとは……信じられないです」
すると、テンが怒りのあまり声を荒らげる。
「クロード! 俺を騙したな!? 最初からこのために呼んだのか」
「悪いな」
「ぐっ……」
テンはしばらくもがいていたが、シーナ先生の魔法はそれを許さなかった。
「しかし何故お前はシオを恨んでいたんだ? 勉強会に入ろうとしたり、あえて一人で決闘を挑ませたり、旧・薬草学棟の植物を荒らしたり……」
「コダマという人物を知っているか……?」
「コダマ? あぁ、知っているが」
テンは観念したのか少し落ち着いて、そのままの体勢で言った。
「彼女とは薬草学の研究でよく一緒になった……次第に仲良くなり、僕はコダマのことが好きになった」
「それで?」
「ある日、聞いてみたんだ。『何故そんなに熱心に薬草を研究しているんだ?』って。そしたら、彼女は言ったんだ。『私には好きな人がいる。シオという名の彼は、呪いのせいで苦しめられている。だから、私がなんとかしてあげたい』とな」
「……」
「その時俺は、何を思ったのか……彼女に認めてもらうために違法の薬草を製造して、自分で接種したんだ。実技成績はぐんと上がって、とうとう成績十位まで上り詰めた……なのに、コダマは俺になんか見向きもしなかった」
テンは涙を流しながら言った。
「これは、世界で一番くだらない復讐劇だ……俺はシオという男を恨んでいが、本当に嫌いだったのはコダマに相手にされない自分なんだよ……」
「テン、確かにお前の気持ちはわかる。だが、一度道を踏み外した以上、然るべき罰が与えられるだろう」
「退学だろうな……その後は監獄行きかもな」
「……」
すると、シーナ先生が言った。
「クロード、この後は私たちに任せてください。職員室へ行って、応援の先生を一人呼んできてくれると助かります」
「わかった」
「その後はゆっくり休むように」
俺が職員室へ向かおうとすると、テンの声が聞こえてきた。
「なぁクロード……恋っていうのは、呪いにそっくりだよな」
「……」
「そうだろ? 同じく呪われた身として、せめて道を踏み外すようなことはしないでくれ」
俺はその言葉を胸に刻みながら、倉庫を去った。




