正気に戻れ!
翌日、シオが決闘のために広場に向かったと聞いて、その近くの茂みに隠れて様子を伺うことにした。集まったのは俺とレオ、それから協力者であるサヤだった。
彼女は耳を澄ませて、広場で何が起こっているのかを説明する。
「決闘は……まだ始まってないみたいだね。相手が遅れているみたい。まだ広場にはシオが一人だね」
「わかった。動きがあったら教えてくれ」
すると、レオがサヤを訝しんでいた。
「あの、悪いが……この獣人は当てになるのか? 適当なことを言っていても気づかないぞ」
「私を信用してないのか? なら、情報屋らしく誰もしらないような情報を言い当ててみせよう……そうだな」
「なんだよ?」
「……いや、やめておこう。君のプライバシーに関わるからな」
「なんだよそれ!」
レオがあまりにも大きな声を出すので、俺は『声のボリュームを下げろ』とジェスチャーした。
「レオ、彼女は信頼できる……かどうかはわからないが、れっきとした情報屋だ」
「そうなのか?」
「あぁ。間違いない……まぁ、変人ではあるが」
「変人?」
すると、その話を遮るようにサヤが言った。
「来た! 決闘の相手だ……一、二、三、四……複数人いる!」
「複数人? やはりか」
「今にも決闘が始まりそうだ。決闘委員会の委員長もいる……一対一の決闘を今から何度も行う、だって。シオも了承した」
「それはつまり、シオが倒れるまで戦わされるってことだよな? それに本人が了承した以上、加勢するのも難しい気が……」
すると、レオが言った。
「シオはそれを望んでたんだろうよ。いわゆる復讐ってやつだな」
「……いや。しかし、何かあったら止めに入ろう。決闘委員会がいるとはいえ、何が起こるかわからない」
「そうだな」
俺たちはしばらくの間、サヤの言葉に耳を傾けていた。今広場で起きている現状を、淡々と説明する。
「今、一人目との戦闘が始まった。相手が魔法を使って……よく聞こえないな。あ! 相手の悲鳴が聞こえる」
「勝ったのか?」
「多分……次の対戦相手だね。依然として、シオは魔法を使わないみたい」
「アイツ、魔法が使えないんだ。使いすぎると体内の魔力が暴走してしまうらしい」
すると、レオがハッとした。
「そ、そうだったのか?」
「逆に知らなかったのか?」
「本人が教えてくれなかったからな……」
「俺が届けた薬草はそれを抑制するためのものだ」
「何? 俺は『味が好きだからいっぱい食べてる』と聞いていたが」
「なんだそれ……」
すると、サヤが言う。
「もう三人目が倒れたよ。シオって強い人なんだな……あ! 相手が武器を持ち出した」
「なんだって!?」
「えっと……決闘委員会の人が止めに入って、それを邪魔している生徒もいる」
「まずいな……レオ! 止めに入るぞ」
彼は立ち上がり、俺よりも先に広場の方へ走り出した。
俺はサヤに向かい「ここで待っていろ」と指示し、レオの後について行った。まずいな……こうなる気はしていたんだが。
すると、広場から魔法の轟音が鳴り響いた……誰かが大きな魔法を使ったんだ。ならば、急いで止めないと怪我人が大勢、いや死人すら出るぞ。
広場に着くと、黒い煙が漂っており、中の様子が見えなかった。レオが煙の中に入り「シオ!」と叫ぶ。すると、数秒後にまた轟音が響き渡り……煙が魔法の爆風によって晴れた────。
そこには、魔法に巻き込まれたレオと、その奥には何人もの覆面をした不良が倒れている……唯一立っているのは、シオだった。しかし、なんだか様子がおかしい。
「シオ! どうした?」
俺が聞くと、シオはこちらを見た。その瞬間、大きな魔力の殺気を感じた……彼は間違いなく、体内の魔力が暴走し錯乱状態になっている。これはまずいな……。
俺がシオに向かい一歩踏み出すと、彼の手からいくつもの火の球が飛んできた。俺はそれを回避しつつ、なんとか接近戦に持ち込む。シオ相手に火魔法を使うわけにもいかないので、闇魔法で拘束を狙う……。
しかし、次々と飛んでくる火の球をいなしきれず、俺の足元に着弾した。俺はその拍子に地面に倒れる……シオが魔法を使えないなんて嘘だ。アイツは魔法を使いこなしすぎるほどの魔力を持っている。それこそ、暴走してしまうくらい。
俺は足をヒールし、再び立ち上がる。
そして、シオに向かい闇魔法を放つ。シオも対抗して、俺に闇魔法をぶつけてきた。お互いがお互いを拘束し合い、少しでも気を抜けば相手の魔力に押し負けるといった状態になった。
俺はそのまま、シオに言う。
「シオ! 昨日渡した薬草はどうした!」
「……」
「決闘のときに魔法を使えるように、あえて食べなかった……ってことだろうな。シオ! 目を覚ませ!」
俺はぐっと魔力を込めながらシオに説得するが、彼は聞く耳を持たないどころか返事をしない。俺がこれ以上魔力を込めれば、シオが怪我するかもしれない。俺はもどかしい気持ちのまま、その場を動けずにいた。
すると、視線の端でレオがフラフラと立ち上がって、シオに近づいていくのが見える。
「レオ、危険だぞ」
「危険じゃねぇ……シオをそんな風に扱うな」
「だが……」
「大丈夫だ、俺に任せとけって」
そう言っているものの、レオの足取りは重く、今にも倒れそうな状態だった。しかし今は、彼を信じるしか方法がないのかもしれない。俺はせめてシオがレオに攻撃できないよう、魔力を込め続けた。
シオの目の前に立ったレオは言った。
「いつだっけか……お前を仲間に入れるため、決闘をしたよな」
「……」
「あの時、お前は加減してたってことか? そんなに魔法が使えるなんて聞いてねぇよ」
「……」
シオはレオの方を見た。
「けどな、シオ。俺はお前が仲間になってくれてよかったと思ってるよ。それに、感謝もしてる」
「……」
「だから……正気に戻れ!」
その瞬間、彼がシオの頬を強く殴りつけた……が、その拳には一切力が入っておらず、シオもそれに動じる様子はなかった。
しかしその時、確かに身体が自由になった。俺を拘束していた闇魔法が解けたようだ。
すると、丁度背後から声が聞こえた。ナイスタイミングだ、ニア。
「クロード! シオはどうなった?」
「魔力が暴走を起こしているが、今はなんとか落ち着いているようだ。薬草あるか?」
「あるよ、食べてもらおう」
ニアは拘束されたままのシオに駆け寄り、薬草を手渡した。俺が恐る恐る闇魔法を解くと、シオはそれを受け取り、口に運んだ。
そして、食べ終わったところでシオの全身の力が抜け、そのまま倒れ込んだ。それをニアが支え、言う。
「なんでこんなに無茶を……」
俺はふと、覆面の不良達がいなくなっていることに気がついた。してやられたな……覆面のせいで追跡しようがないし。シオは戦い損だったってことか……?
同じくそれに気づいたレオも、悔しそうにしていた。
「あいつら逃げやがったか……だがクロード、助かったぞ」
「あぁ。シオがもう少し本気を出していたら俺も危なかったかもしれない」
「しかし魔力の暴走か……シオがどんなクエストに行っても頑なに魔法を使わなかったのはそういうことか」
敵には逃げられ、シオは気を失っており、レオも疲弊している。ニアは今にも泣き出しそうな顔をしていた……結局、シオをこの決闘に送り出したのは正解だったのだろうか。
この戦いで得たものなど一つもない。ただ、多くの怪我人だけが残った……覆面の不良集団、彼らは一体何が目的でこんなことを?
俺が途方に暮れていると、サヤが目の前に現れた。彼女はなんだか嬉しそうな表情を浮かべている。
「サヤ?」
「クロード、喜べ! 覆面の不良集団のリーダーを突き止めたかもしれない!」
「なんだって?」
「私の聞き耳を舐めないでいただきたい。あいつらがコソコソと逃げていく中、決まってある人物の名前を呼んでいたんだ。恐らくそいつこそがリーダーだろう」
「ほう……で、その人物とは?」
「テンという名前の、前回の学イチで十位だった人物だ」
サヤから聞いた言葉に、少しだけ覚えがあった。
「テン……聞いたことあるな。確か先日、勉強会組に入れないかと聞かれた気がする。今思えば、あれはシオやレオと接触するためだったのか」
「そうかもな。しかし、だからといってテン本人を問い詰めたり、脅しに行くのは違う気がする」
「そうだな」
「ここで情報屋の出番だな」
サヤは獣耳を震わせて、強く言った。
「何がなんでも、アイツらの悪事を暴いてやろう!」




