表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/116

郵便屋

 その日の放課後、俺は魔道具開発部に来ていた。昨日の件で謝罪を……特にコダマには感謝を伝えないといけない。


 俺は部室に入ると、昨日の数倍は散らかった空間で驚いた。俺に気がついたサヤは、何故か嬉しそうに言う。



「お、クロードだ。丁度、昨日の実験が何故失敗したのかを検証していたんだ」


「それで、何かわかったのか?」


「さっぱりだ。これだから魔道具はやめられないよ」


「そうか……」



 俺はひとまず、コダマに謝罪することにした。



「コダマ、すまなかったな……」


「いや、私は大丈夫だよ! ただその、みんなの実験が失敗するかもとは言いにくくて……仕方なく料理に混ぜたんだ。ごめんね、あの薬草、苦かったでしょ?」


「確かに不思議な味だったな……でも助かった。ありがとう」


「どういたしまして。私としては部員というか部長が増えると嬉しいんだけど……?」



 隣にいたニアがそれに同意する。



「そうだよね。クロードもぜひ! この機会に魔道具開発部に入ろう」


「俺は少し反省したから、入部するかはわからない……それこそ、弟を誘ったらいいんじゃないか?」


「シオねぇ。誘ったことはないけど絶対に入らないだろうな。例のレオ・ファミリーが部活みたいなものだろうし、勉強会にも参加してるからさ」


「勉強会……有名になったものだな」


「まぁね。みんな入りたがってるよ」


「そんなに大層なものでもないんだがな」



 すると、ニアが思い出したように言った。



「そういえば最近シオに会ってないな」


「そうなのか? 確かに俺も見ていない気がするぞ」


「勉強会とかにも来てないの?」


「あぁ」


「ふーん……なんでだろうね」



 そしてニアは、しばらく考えたあと言った。



「クロード、私の代わりに様子を見に行ってあげてくれない? 私が行くと大体嫌そうな顔されるから」


「俺がか……? まぁ、この後は暇だし見に行くくらいならいいが。もしかして、例の不良集団の噂が気になってるのか?」


「クロードもその話知ってるんだ。まぁ、そういうことだよね。姉として心配でさ」


「なるほどな。じゃあ、この後旧・薬草学棟に顔を出してみるよ」


「ありがとう、よろしくね」



 すると、横で話を聞いていたコダマが言った。



「そうだ。シオくんにこれを届けてくれない?」



 コダマは薬草の束を俺に手渡した。



「これは?」


「魔力を抑制する薬草……クロードくんに実験の前に食べてもらったものと同じだよ」


「何故これをシオに?」


「うーんとね、どう説明したらいいかな……」



 すると、ニアが代わりに説明してくれた。



「シオは生まれながらにして変わった呪いに苦しめられていてね……魔法を使ったりすると体内の魔力が暴走するらしいんだ」


「だからアイツは滅多に魔法を使わないのか……」


「そう。その薬草は、その症状を緩和するために定期的に食べてもらってるんだ」


「そうか……わかった」



 俺は薬草を鞄にいれると、魔道具開発部の部室から出た。そして、そのまま旧・薬草学棟まで向かう。


 丁度、ここからは遠くない位置にある。しかし、ネルと行って以来だな。




 旧・薬草学棟は相変わらずボロボロだった。使われていない建物に勝手に入り浸っているだけだから、掃除も行き届いていないんだろうな。レオ・ファミリーのメンバーが熱心に掃除や片付けをしている姿なんか思い浮かばないしな。


 俺は正面にある扉ではなく、その右にある穴から建物に入ろうとした。その瞬間、男に呼び止められた。



「おい! 誰だお前!」


「……は?」


「これ以上先に進んだらお前も無事で済まないぞ! さぁ、立ち去れ!」


「シオに用があって来たんだが?」


「こんな時にか!? ……ってお前、もしかしてクロードか? あの有名な」


「そうだ。で、シオに物を届けに来たんだ」


「そ、そうだったか。すまない、通れ」



 俺は薬草学棟の中へ入ることが許された。しかし、随分と警戒心が強いんだな。例の不良集団とも関係がありそうだ。


 俺は、以前シオがいた部屋まで行き、扉を以前のように蹴り破ろうと思っていたが……既に扉は外されていた。



 部屋の中を覗くと、神妙な顔つきのシオがいた。



「シオ?」


「……? あぁ、クロードか」


「クロード郵便が来たぞ」


「いいね、それ……」


「なんだか元気がないな?」


「僕はいつもこんなテンションでしょ」


「まぁ、そうだが」



 シオは椅子に座ったまま俯いていた。ふと、その視線の先を見ると、彼が大切にしていた観葉植物の鉢が割れており、植物も枯れていた。



「シオ、この植物たちは……?」


「〝何者か〟が夜の間に侵入してきたらしくてね。この建物全体が荒らされてたみたい」


「何者か……ね」


「大体見当はつくよね。はぁ……せっかく大事に育てたのにな」



 シオは珍しく落ち込んでいる様子だった。こんなにも弱っている彼を見たのは初めてかもしれない。普段はあんなにも冷静なのに。



 俺はかける言葉もなく、ただ黙ることしかできなかった。それにしても、例の不良集団とやらは随分幼稚なことをするな。レオ・ファミリーがいかに善良かがよくわかる。



 すると丁度そこにレオがやってきた。



「おう、クロードか」


「レオか。例の不良集団とやらにしてやられたみたいだが」


「あぁ、そうだな。全く、許せねぇよな。直接やり合う勇気もないくせに」


「確かに。不良集団という割には随分せこい真似をするな」



 すると、レオが悔しそうに言った。



「せこいと言えば、アイツら悪さをする時は決まって覆面をしているらしい。だから、先生達も対処しきれないんだよな」


「そうだったのか」


「生徒たちからは『覆面』と呼ばれて、恐れられているとか。カツアゲされた奴もいたらしい」



 この学園の平穏を乱すような真似はしないでほしいんだがな……。


 俺はここでの静かな生活(思い返せばそうでもない)が好きだからな。たかが不良集団にそれを邪魔されるなんて……正直許せないな。



 すると、シオが植木鉢の方へ駆け寄ると……そのしたから紙を取り出した。レオは不思議そうにそれを見る。



「なんだその紙?」


「さぁ……読んでみるね」


「おう」


「『明日の放課後、広場で決闘を行う。参加していいのはシオ一人のみ。観戦者がいた場合中止となり、別日に行うこととする』だってさ?」


「はぁ!?」



 レオは声を荒らげる。


 どうやら、例の不良集団はシオに恨みがあるようだな。シオは首を傾げながら言った。



「一対一で僕に勝つつもりなのかなぁ」



 するとレオが首を横に振った。



「罠だろ、確実に」


「罠だったとして、相手の不良が複数人現れたとしよう。そこで、例えばレオさんが決闘に加わったとすれば、レオさんは退学もしくはペナルティだね。でも相手は覆面しているからバレない」


「なんだと? なら俺たちも覆面するか」


「根本的な解決にはならないね」



 そこで俺は、名案を思いついた。



「シオが全員倒せばいい。順番に決闘してな」


「僕もそう思ってた。奇遇だね」



 すると、レオが口を挟んだ。



「おかしいだろ。シオ一人対複数人だぞ? 明らかに危険だ」


「レオさんは僕を信じることができないってこと?」


「そうとは言ってないが……うーん」



 俺はしばらく考えてから、聞いてみた。



「なぁレオ、シオって強いのか?」


「強いな……相当強い。レオ・ファミリーが作られた当時、一匹狼と名高いシオを絶対に仲間に入れると決めていたんだ」


「ほう」


「それで、決闘をして俺が勝ったら仲間に加わると約束した……結果、ギリギリ俺が勝利したというわけだ」


「なるほどな」



 俺はそれを聞いた上で、改めて思った。



「やっぱり、シオを信じて一人で行かせるのはどうだ?」


「ぐ……心配だが、そうするしかないのか」


「仕方ないことだろう」



 レオは不服そうだったが、俺には考えがあった。とある〝協力者〟に頼んで、シオを遠くから見守ることができるかもしれない。何かあれば助けに入ることもできるだろう。


 しかし、そのことはシオには言わないでおく。彼にもプライドがあるだろうからな。ただでさえ自分の大切な植物を荒らされたんだ。本当は怒りたい気分だろう。


 ならば一人で、決闘という形で復讐しにいくのはきっとシオの望みだ。



 証拠に、シオの声色は少し嬉しそうだった。



「ありがとうクロード。正直、一人で行きたい気分だった」


「そうだろ」


「本当、助かるよ」



 レオもなんとか納得させることができたし、俺はこの後また魔道具開発部に顔を出そう。そこで、サヤに協力してもらえないか頼んでみよう。


 彼女の聴力ならば、シオを遠くから見守ることができる。何か危険なことがあったらすぐに駆けつければいい。



 ……そういえば、俺はクロード郵便だったな。例の物を渡さなければ。



「なぁ、シオ。コダマからこれを預かっている」



 俺は鞄から薬草を取り出して、シオに手渡した。すると、彼はしばらくそれを凝視していた。



「……シオ?」


「あぁ、届けてくれてありがとう。助かるよ」


「そもそも俺がここに来たのはニアに『様子を見に行ってくれ』と頼まれたからだ。彼女らにも感謝することだな」


「お姉ちゃんが……?」


「そうだ」


「あの人心配性だからなぁ」



 俺は旧・薬草学棟を後にし、また魔道具開発部の部室へと向かった。行ったり来たりしているな……本当に郵便屋みたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ