不良集団
次の日、俺は教室には行かず、校長室に行くことになった。どうやら忙しくてこの時間しか空いていないらしい。そんなに多忙なら謝罪は時間がかかるので無し! とかにしてくれないだろうか。
それに、校長室の場所がどこだったかすら曖昧である。頭の中で反省の内容を考えながらゆっくりと歩いた。
そして、職員室の隣にある豪華な小屋を発見した。看板には「校長室 用事がある人以外は立ち入りを禁ずる」と書かれている。
俺は恐る恐る扉をノックして、返事を待つ。
その瞬間、背後から話しかけられた。
「こんにちは」
振り返ると、背の高い女性が立っていた。強い魔力をヒリヒリと感じ、ただ者ではないなと思わせる……彼女こそが、この学園の校長だ先輩の卒業式か何かの挨拶で見たことがある気がする。
「校長か? その……」
「中で話しましょうか。どうぞ、入ってください」
「あぁ……」
校長室は、何かの結界が張られているのか、魔力で埋め尽くされていた。豪華な装飾のされた机に、座り心地の良さそうな椅子……そして、その背後には沢山の本が敷き詰められていた。
校長はその椅子に腰掛けると、俺を見て言った。
「あなたがクロードですね。噂には聞いています」
「そうか。別に大した人間じゃないんだが」
「毎年好成績で、例の〝勉強会組〟を束ねるリーダー的存在だとか」
「いやその、多分リーダーとかではないんだが」
「それに、その正体が魔獣であるとか」
「それは……」
知っていたのか? 今回呼ばれたのはその件で……とか?
「魔獣がこの魔法学園に潜んでいるなんて……」
「……」
「なんだか面白いですね」
「は?」
「だって魔獣ですよ? それが、人間として暮らしているなんて不思議で興味深いことだとは思いませんか?」
「はぁ」
退学や処刑まで想定していたので、どっと疲れてしまった。まぁ、肯定的な意見でよかった。
「あ、引き続き生徒には危害を加えないようにしてくださいね」
「わかった」
今のところ、人間を食べたいと思ったことはないな……ネル以外は。でもあの件に関しては、ネルが夜の森にいたのがいけないわけで……と心の中で言い訳をした。
「で、本題なんですが」
「その件については俺も反省している……魔道具開発部のみんなに無理言ったのも俺だから、もし罰があるとすれば俺だけにしてくれないか?」
「あぁ、なんだかそんな話をシーナ先生から聞いたような」
「え?」
「今回は別件ですよ? 以前からシーナ先生にクロードと面談できるように頼んでおいたんです」
別件だと?
「じゃあシーナ先生が謝罪のために校長室に行けと言ったのは……」
「シーナ先生お得意の策略ですね。おそらく、反省を促すためにそれっぽいことを言ったのでしょう」
「そ、そうだったのか……はめられた」
「そもそも、謝罪するなら私じゃなくて顧問のネム先生あたりが妥当じゃないですか」
それもそうだな。シーナ先生特有の人をもて遊ぶ感じ。悔しいな……。
「しかし、よくシーナ先生の意図がわかったな?」
「彼女は私の昔からの友人ですから、考えることくらいわかりますよ」
「そうだったのか」
すごいな、あの人。校長と友人なのか。
「それで、本題はなんだ?」
「質問です。クロードの学費や生活費はどこから出ていますか?」
「……た、確かに」
「なぜあなたは魔獣なのに、魔法学園でのんびりと暮らせているのでしょう」
前に一度、そのことについて考えたことがあったな。結果、結論は出なかったが。
「……わからない」
「とある人物からの支援があるからです」
「とある人物? ソイツが、俺に金を用意しているのか」
「そうなりますね。その人物は、とある村の村長です。クロードの過去に関することなので、村やその人の名前は伏せておきますね」
「村長が……? なんでまた」
「さぁ。それはその方にしかわかりません」
変わった人なんだな……しかし、俺はその人のことを本当は知っているのか? けど、当時の記憶がないだけなのか。だとすれば……。
「その人は俺の正体が魔獣であることを知ってて支援しているのか?」
「はい、もちろん」
俺はますます混乱した。
「なんだかよくわからないな……まぁ、支援してもらっている分には助かっているが」
「その人はクロードの近況を知りたがっていました。なので、私が伝えておきますね。元気にやってますって」
「あぁ。まぁ昨日死にかけたが」
「無茶なことはしないでくださいね」
そして、校長は「では、今日のところはこの辺で」と言って立ち上がる。
俺が校長室を出ようと扉に手をかけると、校長が言った。
「そういえばクロード、最近学園内で不良集団が悪さをしているって噂です」
「不良集団? レオ・ファミリーか?」
「いえ、彼らみたいに他人に危害を加えない人たちではなく……もっと悪質なものです。我々は急いで対処しようとしていますが、一応クロードも気をつけてくださいね」
「わかった」
不良か……まぁ、俺には無縁な存在だな。なんて思いながら、俺は校長室を後にした。




