再確認
俺はその村を離れて、歩き慣れた森で一人でいた。風で木々が揺れ、葉が音を立てる。聞き慣れすぎて飽きていると思っていたが、今日はなんだか新鮮に感じる。
腹減ったな……何か食べるものはないか。
俺は急ぎ足で森を駆け回り、獲物を探した。やがて、湖のほとりにある小屋に差し掛かった。ここは人間が支配する空間だ。近寄るわけにはいかない……。
しかし、腹は減っている。俺は渋々、小屋の方へと近づいて、小型の魔獣の一匹くらいは住み着いていないかと探してみることにした。
────突然、背後から大きな音がしたかと思えば、火魔法の球が飛んできて、俺の体をかすめてすぐ近くの地面に着弾した。
熱い……なんだ、人間か? 俺は振り返ることもせず、すぐさま森へ逃げようとした……しかし、二発目の火魔法が俺の身体に直撃し、激痛と共に俺は地面を転げ回る。
熱い、痛い……俺は自身の身体に纏わりついた火を消すために、湖の方へ走った。
そして、迷わず水の中に飛び込む……。
そして……それで、なんだっけ? 俺はその後、どうなったんだ?
……実験はどうなった? そうだ、俺は実験をしていたはずだ。失った〝クロード〟の記憶を、俺の記憶を取り戻すために!
「っ!」
俺は勢いよく体を起こし、目を開けた。手元にある布団の感触……ここは? 医務室だよな?
ハッとして横を見ると、そこにはネルの姿があった。そして俺の顔を見るなり、目をうるうるとさせながら言った。
「クロード! 目を覚ましたんだね!」
「あぁ……えっと、何故気を失っていたんだっけ?」
「魔道具開発部で怪しげな実験をして、それから倒れたって聞いたよ……? 無事でよかった」
「あぁ、そうだったか」
すると、ネルが部屋の奥にいたシーナ先生に言った。
「先生! クロードが!」
「やっと目を覚ましたんですね。全く」
「よかったですよ……ほんと」
シーナ先生がこちらに来て、事情を説明してくれた。
「クロード、あなたは半日ほど眠っていました。今は深夜……というか早朝です」
「そうだったのか」
「はい。例の魔道具は構造が甘く、クロードの膨大な魔力に耐えきれずに壊れ、結果クロードの身体に大きな負荷を与えてしまったわけです」
「ほう……」
「その後、クロードが直前に接種した〝魔力を抑制する薬草〟がどうにか魔力の暴走を抑えたので死なずに済みました。ラッキーですね」
「死なずにって……死にそうだったのか?」
「まぁ、可能性はありますね」
俺はその薬草のおかげで命拾いしたわけか。
「で、その薬草ってのに心当たりがないんだが?」
「どうやらコダマが、実験が失敗した時用にシチューに仕込んでいたらしいですよ」
「ほう? じゃあそのおかげで助かったのか」
「クロードが命拾いした理由にはもう一つあります。ネルが私を呼びに来てくれたんです」
「ネルが?」
「そうです」
俺がネルの方を見ると、彼女は恥ずかしそうに笑った。
「その……クロードが最近ちょっとね、冷たいというか。だから居ても立ってもいられなくなって、勉強会を中断して魔道具開発部の見学に行ってみたんだよ」
「ほう」
「そしたら、部員の人たちが焦りながら倒れているクロードをヒールしようとしてて……私はシーナ先生を呼ぶことしかできなくって」
「で、呼びに行ってくれたのか? ……ありがとう。迷惑をかけたな」
すると、シーナ先生が強めの口調で言った。
「ネルとコダマがいなければ死んでましたよ?」
「それは……悪かった」
「私じゃなくて二人に謝りましょうね……あと、魔道具開発部はしばらく部費が減額、クロードは明日校長に謝罪することになっています」
「校長に?」
「そうです。命に関わる問題ですので、正式に校長に事情を、自分の口から説明してください」
「……わかった」
校長か。普段は会いたくても会えない存在と言われているが……どんな人なのだろう。とんでもなく怖い人とか厳しい人ならば、退学もあり得るのか? それだけは絶対に嫌だな……。
そしてふと、部員たちがいないことに気がついた。
「あの、先生。サヤとニア、それからコダマは?」
「寮に帰って寝るように言いました。明日の授業に影響が出ますから。ネルにもそう言ったのですが、クロードが起きるまでここにいるといって聞かなくて……」
「それは……申し訳ないことをした」
ネルは「大丈夫だよ、無事でよかった」と言っていたが、流石に気の毒にも程がある。心の中で強く反省した。
その後、シーナ先生が大きなあくびをしたので俺たちは寮に変えることにした。俺は明日の授業は受けずに朝から校長のところへ行くわけだが、ネルはずっと寝ずに俺が起きるのを待っていたのか……申し訳ない。
寮までの道中で、ネルに謝った。
「ネル、ごめん。こんな時間まで起きさせてしまって」
「いいよ、本に集中してたら朝だったってこともよくあるし」
「それに……最近の俺が冷たいって言ってたよな?」
「それは、うん。気にしないでいいよ」
「いや、ちょっと心当たりがあるんだ。ネルを誘ったのに魔道具開発部に一人で行ったり、勉強会を断ったり……よく考えれば、それってちょっと冷たいかもなって」
「うーん。冷たくはないんだけど、ちょっと寂しかった……かも」
すると、ネルが続けた。
「でも、シーナ先生とか魔道具開発部の人たちから聞いたんだけど、クロードは昔の記憶がないんだよね?」
「そうだ……聞いたのか?」
「シーナ先生に『仕方ないから説明します、他言無用ですが……』っていって教えてもらったよ。その記憶を取り戻そうとして魔道具開発部を頼ったんだよね?」
「そうだな」
「それなら納得できるよ。冷たいってのは私の勘違いだったみたいだから、ほんとに気にしないでね」
俺はそれを否定した。
「いや、しばらく反省しそうだ」
「そうなの?」
「あぁ。俺とってネルは大切だ……それこそ、過去の記憶よりも」
「そ、それは言い過ぎじゃない?」
「そんなことはない」
ネルは驚いていたが、同じく俺も驚いていた。自分の中で、いかにネルが大切な存在かを、言葉にすることによって再確認できた。




