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寂しい気持ち

 あれから一月ほど経った日の放課後、ジルといつも通り雑談していると、教室の外から覗かれていることに気がついた。


 大きな魔女帽子がはみ出ており、すぐに誰かわかった。そう、魔道具開発部のコダマである。



 俺が手招きすると、ハッとしてすぐさま扉に隠れるが……しばらくして帽子で顔を隠しながら教室に入ってきた。


 それを見て、ジルが言う。



「クロードの知り合いか?」


「あぁ、魔道具開発部の部長らしい」


「へぇ、部長なのか」


「ちなみに、魔道具開発部は平等のため、メンバー全員が部長らしい」


「なんだそれ。意味あるのか?」


「知らない」



 すると、コダマが何か言いたそうにしていた。俺たちがそれを静かに待っていると、信じられないくらいの小声言った。



「あの……今日は部活があるから来てって、サヤちゃんが言ってたよ?」


「もしかして例のものが完成したのか?」


「……うん」



 あれからかなり待たされたが、確かに魔道具の開発というものは時間がかかりそうだ。呼ばれたということはついに実験までできる状態になったということか。


 すると、丁度そこにネルが現れた。



「クロード、ジルくん。今日は勉強会どうする? ……って、この人は?」


「あぁ、俺の知り合いだ。魔道具開発部の部長らしい」


「部長さんなんだね」


「そう。しかし、部長ではあるものの……いや、いい」


「?」



 そして、ジルがネルに言った。



「もちろん勉強会はやるぞ」


「だと思って、教科書を多めに持ってきたんだ。今日から新しいところにはいるからね」


「おう」



 勉強会か……仕方ないが、今回は魔道具優先だな。



「俺はやめておくよ。今日は部活動があるんだ」


「え? クロードは魔道具開発部に入ったの?」


「まぁ、今日からそうなるというか」


「そ、そっか。なら私も……ううん、なんでもないや」



 すると、そこへリリーとアランとユアがやってきた。みんなカバンから教科書を取り出して、今日の勉強会の予習をしているようだった。


 そして、リリーが言う。



「ネルさん、今日も勉強会やるよね?」


「うん、その予定だよ」


「よかった、もうやる気がすごかったんだから」



 すると、人が増えたからかコダマがよそよそしくなり始めたので、俺は立ち上がった。



「俺は部活があるから、また今度な」



 アランは首を傾げた。



「お前が部活? 勉強会を差し置いてか」


「まぁ、色々あってな」


「遊びふけって来年の学イチを逃さないようにしろよ」


「わかってるよ」



 俺はコダマの後についていき、部室へと向かった。


 その道中、コダマに聞いてみた。



「結局、魔道具は完成したのか?」


「ええっ!?」


「えっ?」


「……ご、ごめん。話しかけられると思ってなかったから」


「それはすまない」


「いいよ、大事な部長になる人だから」



 コダマは魔道具についての説明をしてくれた。



「今回みんなが作った魔道具は、呪いを魔力ごと吸い取る道具らしい……私は携わってないけど」


「魔力を吸い取る?」


「そう。呪いも魔力の一種だから、死なない程度に魔力を吸い取って呪いの効果を薄めるってこと」


「なんだか不安だな……」



 すると、コダマが言った。



「クロードくんは魔力が多い人?」


「まぁ、人よりは多んじゃないか」


「……」


「何か問題でも?」


「ううん……大丈夫。多分」



 そうこうしているうちに、魔道具開発部の部室までたどり着いた。中に入ると、やはり狭くて散らかったあまり心地良いとは言えない空間だった。それに、部室の真ん中には仰々しい魔法陣が書かれている。


 大抵の魔道具には魔法陣が書かれており、それによってモノや空間に魔力を封じ込めると習ったことがある。



 部屋の端に立っていたサヤとニアは、ドヤ顔でこちらを見てきた。これは相当自信があるみたいだな。


 サヤは魔法陣を指さして言う。



「これが例の魔道具だ。この部活史上最高傑作と言えるだろう」


「ほう?」


「制作費は金貨五枚。これはあとで受け取る」


「計十五枚か……」


「そうだ。でも、失われた記憶の価値はその何倍、何十倍にもなるだろう」


「それはそうだが」



 これでレオに勝った時の報酬が、すべて消えるな……少しもったいない気もするが、こういう時に使わなくていつ使うんだ。



「で、早速やるのか?」


「その前に注意事項がある。自身の記憶が戻るということは、それだけ身体に負担がかかる。気を確かに持て。後そうだな────」



 すると、コダマが珍しく大きな声で割り込んできた。大きな声とは言っても、一般人にとっての普通の声量だが。



「あのっ! 実験の前に、ご飯でも食べない?」



 サヤは首を傾げた。



「なぜ食事なんかを? 腹でも減ってるのか?」


「うーん、それもあるし……ほら、景気づけ?」


「ま、腹が減っていると魔力の扱いにも集中できないって言うしな。で、食堂に行くのか?」


「もう作ってあるよ……温めたら食べれる」


「用意周到だな?」



 何故かはわからないが、みんなでコダマの手料理を食べることになった。部室にある薬草などを調合するための釜を使って料理を温め、部室の椅子に座って食べる……一体何の時間なんだ? まぁ、丁度腹は減っていたが……。



 メニューはシチューだった。最近ネルと食べたんだがな……なんて思いながら、コダマに用意してもらったので嫌がるわけにもいかず、黙って食べ始めた。


 しかし、独特な具材だな。



「なんだか変わったシチューだが」



 すると、ニアが言った。



「そうかな? これこそがシチュー! って感じの味だけど」


「そうか……?」



 俺たちは一旦シチューを食べ進めて、英気を養った。そしてふと、サヤが言う。



「クロード、これ〝温かいシチュー〟だよね」


「そうだが」


「実は、シーナ先生の言葉を盗み聞きしてたんだ。それで、ヒントとしてこの言葉を聞いたんだが……もしかして今日の実験と何か関係が!」



 すると、コダマが言った。



「具材が余ってたから……この間部員で野菜スープを作ったでしょ?」


「あ、そうだっけか」


「ごめんね、ややこしくて……」



 しかし、これでサヤがあの時盗み聞きしていたことが判明したな。全く、困ったやつだな。それに気づくシーナ先生もすごいな。



 全員がシチューを食べ終わり、今度こそ実験が始まろうとしていた。


 今回の魔道具は、道具とは名ばかりで、この部室の床に描かれた魔法陣こそが本体である。俺は指示された通りに魔法陣の上に立ち、何も考えないよう努力した。そうすることによって、体内にある魔力の働きが弱まるらしい。



 そして、ニアが特殊な呪文を唱えると、魔法陣が強い光を放った。青白いそれは、多くの魔力を含んでいた。



 俺はそっと目を閉じて、足元に意識を集中させる。


 この実験では、俺の魔力を一度、底が尽きるまで魔法陣に吸い上げてもらうことから始まる。魔力が空になった俺に、すぐさま三人で魔力を注いでもとに戻す……といった無謀な挑戦である。



 しかし、試してみないことには何も進まない。俺は覚悟を決めて、ニアに言った。



「ニア、始めてくれ」


「わかった」



 その瞬間、閉じた瞼越しにでもわかるほどの大きな光が目の前を覆い尽くした。そして、全身の力がフッと抜ける感覚があり……そして耳鳴りがし始める。



 俺は途端に眠くなり、立っているのがやっとの状態になった。やがて、意識が朦朧としてくる────。




 ……あれ? 実験はどうなった?



「サヤ、ニア……コダマ。終わったのか?」



 俺はそっと目を開けるが……そこは部室ではなかった。足元には草が生い茂っており、目の前には一本の木があった。空は青く、空気のきれいな、どこか懐かしい空間であった。



「おい、サヤ……どこだ、ここ?」



 サヤたちはどこへ行ってしまったんだ? ……というか、サヤって誰のことだ。そもそも俺はここで何をしていたんだっけ。


 俺は辺りを見渡して、水車のある小さな村があることに気がついた。そうだ、あそこを目指していたんだ。



 ゆっくりとその村に近づくと、畑仕事をしている村人を発見した。向こうはまだ、こちらに気づいていないようだ。



 俺が話しかけようと一本踏み出すと、村人がこちらに気づいて……そして、驚いた様子で後退りする。



「ま、魔獣だ……! なぜこんなところに?」



 魔獣だと……? 俺は人間だぞ。そう、クロードという名前だってあるじゃないか。でも、なんで名前があるんだ?



 村人は大声を出して、俺から走って逃げた。



「大きな魔獣が出たぞ! みんな隠れろ!」



 たちまち他の村人たちも、俺から離れていき、やがて村は静かになった。みんな俺を避けるし、みんな俺を怖がる……何故だろう。



 俺は何故か寂しい気持ちになった。



 でも、人間は違う生き物だ。俺のような魔獣とは別の……。



 じゃあなんで彼女は、俺のことを嫌いにならなかったんだ?



 彼女は……ネルは人間なのに。

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