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ネム

 魔法学園の休日が終わり、いつも通り登校することになった。


 放課後、ジルは隣でずっと長期休みの話をしていた。そのくらい勉強が嫌いなんだな。なら逆によく勉強会としてやれているよ。



「なぁクロード、お前は長期休み暇なんだろ? 新しい趣味とか始めたらどうだ?」


「趣味? 例えばどんな?」


「そうだな。料理とか」


「まぁ、それもいいが……ネルより上手にできる自信がない」


「ネルさんの料理を食べたのか? ナイスだな。すごいぞクロード!」



 何故か褒められた。



「他に趣味か……そうだ、俺は今日魔道具開発部の見学に行くぞ」


「え、なんだその部活。面白いのか?」


「それはわからない。なにせまだ見学していないからな」


「じゃあ俺も行こうかな」


「いや、やめておけ」


「なんだよそれ。遠回しに誘ってたんじゃないのか」



 そんな妙な真似はしない。


 すると、そこへネルがやってきた。どうやらさっきの会話をを聞いている様子だった。



「え、ジルくんも誘ってあげたらいいのに。だって私も行くんだから」


「あぁ、それがさ。ネル……俺一人で行かせてくれないか?」


「え! でも誘ってきたのはクロードで……」


「それは、すまない」



 しかし、魔道具開発部に行って呪いについて話すのなら、そこにネルがいてはシーナ先生との約束が守れなくなる。


 ネルはしょんぼりしていたが、俺は謝ることしかできなかった。ジルも、その様子を見て不満そうだった。



「俺ならまだしも、ネルさんが行けない理由はなんだよ?」


「それはまぁ、色々だ」


「色々だと? 納得する理由を聞かせてくれよ」


「うーん……」


「……」



 ジルは少々怒ってるみたいだったが、都合のいい言い訳も思い浮かばず……結局あやふやにして終わった。しかし、これはあくまでネルのためでもある。仕方ないが、今回は見逃してほしい。



 ジルやネルを置いて、俺は職員室へと向かった。どうやらこの時間ならネム先生と会うことができるらしい。シーナ先生からは少々変わった人だと言われているので心配だ……。



 やがて、職員室へとたどり着いた。普段ここには用事がないので、入学してから本当に数えるくらいしか来ていない。


 俺は扉をノックしてから開けると、大きめの声で「ネム先生はいるか」と言って見渡した。


 すると、奥の方からのそのそと、眠そうな目をした獣人の先生が歩いてきた。歳は若い……シーナ先生と同じくらいだからだろうか。



「おはよう。君は?」


「俺はクロードだ」


「クロードかぁ。美味しそうな名前だね」


「……?」



 彼女は大きなあくびをすると、首を傾げた。



「で、何の用?」


「あぁ、それが……実は魔道具開発部に興味があって。見学がしたいなと思ったんだ」


「おお! 魔道具開発部に! 珍しいね、あんなに過疎ってるのに」


「過疎……」



 それって自分が顧問をしている部活に言うことか? 確かに、シーナ先生の言う通り変わった人だな。来ている白衣もダボダボだし。サイズが大きすぎて袖が余っているほどだ。



「なら、丁度この後活動があるから見学にきなよ。みんな手を叩いて喜ぶよ」


「手を……?」


「そう。なんならケーキとか食べちゃうかも」


「とにかく、みんなは歓迎してくれるってことでいいか?」


「そうだね。ぜひ入部も検討してよ」



 入部か……実際、入部したいから見学しに来たわけではないから少し申し訳ないな。しかし、事情を話せばきっと納得してくれるはずだ。


 しかし、こんな変わった部活に、本当に俺やネルの呪いに関する手がかりがあるのだろうか。呪いの研究をしているとはいえ、呪いそのものをコントロールすることが人間にできるのか?


 難しいな。呪いについては来年習う予定だから……本か何かで自習でもしておけばよかったか。



 俺はノリノリのネム先生に案内されて、部室のある塔まで来ていた。ここは、沢山の建物が密集しており、各部屋はそれぞれの部室として割り当てられている。探せばきっと、演劇部もあるはずだ。


 俺は、ネム先生に連れられて、建物の端の端にある小さな部屋に案内された。扉には、雑な文字で「魔道具開発部 勇敢な部員募集中」と書かれていた。なるほど、ネム先生が過疎っていると表現した理由がなんとなくわかる。



 先生がノックして部屋に入ると、そこには三人の女子生徒がいた。一人はサヤで、もう一人はフードを被った赤髪の生徒、そして大きな魔女帽子をかぶった生徒がいた。



 ネム先生が「見学したいっていう生徒を連れてきたよ」と言うと、全員の視線がこちらに向いた。そして、サヤが俺を指さして言う。



「あー! クロードだ、クロードがいる。魔道具に興味があったのか?」


「出たな変人」


「そうだ、私が変人であり魔道具開発部長のサヤだ」


「部長だったのか」


「この部活は平等のため、全員が部長になっている。クロードが入部すればお前も部長だ」


「なんだそれ」



 早速変なルールを知ってしまったな。あまりにも変だが、呪いのことを知れればそれでいいか。



 そして、自己紹介をすることになった。まずは俺が、名前やクラスと見学に来た理由を話した。



「……というわけで、俺は魔道具よりも呪いに興味があって来た」



 それに、ネム先生が聞き返す。



「呪い?」


「そうだ」


「ふーん。変わってるね。まぁ、私たちも人のことを言えないけどね」



 次にサヤが自己紹介をした。情報屋であることや、魔道具開発における設計を担当していることも言っていた。


 次に、黒いフードを被った生徒が自己紹介を始めた。



「私はニア。クロードのことはシオから聞いてるよ」


「シオから? 知り合いなのか?」


「知り合いも何も、シオは私の弟」


「ほう……似て、るのか?」


「よく言われるけど、ちゃんと血がつながった姉弟だよ」


「そうか。まぁ、よろしく」



 ニアは隣にいる魔女帽子の生徒に目線で「自己紹介したら?」と合図を送っていたが、彼女は帽子で顔を隠し、黙り込んでしまった。


 ニアは苦笑いして、代わりに事情を説明してくれた。



「彼女はコダマ。人見知りだから自己紹介はできないけど、優しくしてあげて。専門は薬草学だよ」


「わかった」



 俺は一応、帽子に向かって「よろしく」と言っておいた。


 そして、サヤが俺に問いかける。



「クロードはさっき、呪いに興味があるって言ってたよな?」


「あぁ、そうだ」


「それはなぜ?」



 ……これは、話していいのだろうか。シーナ先生は他言無用だと言っていた。いやしかし、シーナ先生が何か隠しているのが悪いよな。俺としては、自分の身体にかかっている呪いについて、そして消えた記憶について知りたくなるのも当然だろう。



「実は、俺は過去の記憶がないんだ。それは呪いによるものらしい」


「ほう? 私の予想通りだな」


「で、俺の過去に関する言葉や物を見た時、頭痛に見舞われて、やがてそのことを忘れる……そういう厄介なものなんだ」


「それはつらいな」



 すると、ニアが言った。



「それを魔道具で解決するのはどう?」


「ほう?」


「魔道具と呪いは密接な関係があってさ……モノに魔力が宿るという魔道具と、人に魔力が宿り悪影響を及ぼす呪いってのは仕組みが似てるんだよね」


「まぁ、確かに」


「魔道具が呪いを打ち消した例もあるんだ。ね、ネム先生?」



 すると、ネム先生は首を横に振った。



「魔道具で呪いを打ち消すという行為は結構リスクがあるんだよ? 記憶に関することなら尚更ね」


「で、でも……」


「ま、もともとクロードくんがそのつもりで来てるならやめといたほうがいいよってことだね」


「……」



 すると、ネム先生は翻って部室の扉に手をかけた。



「そろそろ別件があるから行くねー。みんな仲良くするんだよ?」



 三人が「はーい」と返事をしたのを見て、ネム先生は微笑んだ。そして、そのまま部屋を後にする。


 しばらくしてから、ニアが口を開いた。



「ネム先生はああ言ってるけどさ、私は諦めてないよ」



 すると、サヤがそれに同意する。



「自分の過去の記憶がないままなんて考えたらゾッとするからね。それに、クロードの昔話も聞きたい」



 コダマは相変わらず無言だった。



「……」



 俺はしばらく悩んでから、二人に言った。



「じゃあ、俺の記憶を取り戻す魔道具を作ってくれるか? 報酬は金貨十枚……とか?」



 するとサヤが言った。



「おお! 太っ腹だなぁ。あと、幽霊部員でもいいから入部もしてくれよ。それで学園からもらえる部費が増えたら魔道具の研究もはかどる」


「いいだろう。あまり顔は出せないかもしれないがな」


「たまには来てほしいけども」



 俺は、完成したら呼びに来て欲しいと約束し、その日は解散することになった。部活のメンバーは、その後すぐに開発に取り掛かったらしい。


 みんなが協力的で助かった。これで記憶が戻れば……俺が溺れたときに見た彼女の正体も分かるかもしれない。



 俺は楽しみな気持ちで一杯だった。

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