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人のいいところ

 街から帰ってくると、丁度クエストを終えたジル達と合流した。剣を持って、ボロボロになった服を着たジルの姿を見て、壮絶な戦いであったことを察した。



「ジル、お疲れ。クエストはどうだった?」


「あぁ、クエストなら一日で終わったよ」


「でももう三日経ってるぞ?」


「レオ達と森に行って山菜を採って遊んでたらさ、崖から転げ落ちてこのザマだよ。また服買いなおさなきゃ」


「あぁ、そういう……」



 そういえばコイツらはバカだった。それに、事前に簡単なクエストを選ぶという話は聞いていたからな。というか山菜を採る遊びってなんだ。そんなので二日も無駄にしたのか。


 その後、ジルからお土産の山菜をもらいつつ、アランやユアと別れ、ネルと二人きりになった。


 そしてふと、例の部活のことを思い出した。



「なぁネル」


「うん、どうしたの?」


「魔道具開発って知ってるか?」


「え、なにそれ。この学園の部活?」


「そうなんだが、どうやら魔道具や呪いについて研究している少々怪しげな部活らしいんだ」


「へぇ……なんだか怖いね」


「でも、少し興味があるんだよな」



 ネルは驚いたようにして、聞き返した。



「その部活に興味があるの? ……なんで?」


「そうだな……そう、魔道具というものが面白そうだなって」


「そうなんだ。意外だね」



 実際、魔道具が面白そうなどとは思わないがな……ただ、俺の呪いに関するヒントがあればいいなと思っただけだ。しかし、シーナ先生との約束でそのことは言えないからな。もどかしいよ。


 しかし、俺の過去に関する今あるヒントは、ネルと関連しているということぐらいだ。



「今度見学に行かないか? 一人だと心細くて」


「クロードが心細くなるのも珍しいね。私でよければ一緒に行くよ」


「いいのか? ありがとう」



 ネルは意外にもあっさりと快諾してくれた。よって、明日にでも魔道具開発部の顧問に接触しようと思う。顧問の先生の情報については、今日の夕方にでもシーナ先生に聞けばいいか。



 すると、ネルが少し躊躇いながら言った。



「ねぇ、クロード。今日の夕食なんだけどさ……私が魔道具開発部に行くときに随伴する代わりというか」


「なんだ?」


「その、食堂でじゃなくてさ……一緒にご飯作って食べない?」


「いいぞ」


「いいの!?」



 そんなに驚くことか? 料理を作って食べるだけだろ。



「でもほら、どっちかの寮に行くことになるでしょ? 食べるのも部屋になるし」


「でも、男子寮とか女子寮ってのは名ばかりで、みんなよく出入りしてるじゃないか」


「それはそうだけど……」


「俺の部屋だと嫌か?」


「ううん! むしろそれがいいとは思ってたんだけど……本当にいいのかなって」



 逆に断る理由がないんだがな。料理なんて久々だし、楽しそうじゃないか。



 ネルは嬉しそうだった。俺と料理することってそんなにハードルが高いのか? 少し残念というか……もっと気楽に色々誘ってくれたらいいのにな。



「なぁ、ネル」


「どうしたの?」


「俺としては、もっとネルと色々なことがしたい」


「え……!? そうなの?」


「あぁ。だからもっとこう、沢山誘ってくれ」


「わ、わかった! そうするね!」



 これでよし。


 ネルは何故か自分に自信が無いみたいだからな。こうでもしないと遊びに誘ってくれないかもしれない。後はそうだな……逆に、俺から誘ったりもしよう。



 その後、俺たちは食材を調達するために、購買の方へと向かった。購買は食材だけでなく、制服や教科書なども売っている。


 最近は用事がなくて行っていなかったが、非常に便利である。



 購買の大きな建物に入り、沢山の食材を前にしてネルが聞いてきた。



「まずはメニュー決めないとだね」


「そうだな。何がいい?」


「うーん……難しいね。逆にクロードは何か食べたいものある?」


「うーん……難しいな」


「だよね。あらかじめ考えておけばよかったかな」



 そしてふと、シーナ先生の言葉を思い出した。



「〝温かいシチュー〟?」


「お、シチュー? いいかもね」


「急に食べたくなった。じゃあ今夜のメニューはシチューということでいいか?」


「うん! そうと決まれば、早速具材を買わなきゃだね」



 こうして、俺たちはシチューの具材を買い、購買を後にした。


 荷物を重そうに抱えているネルを見て「代わろうか」と問いかけると、申し訳なさそうな顔をしていた。が、結局荷物は俺が持つことになった。力仕事は得意だから気を遣わずに任せてほしいものだ。


 それに、俺は料理が得意ではないので、今日の夕飯作りはほとんどネルに任せてしまうだろう。ならば、これくらいの役割は欲しい。



「ねぇ、クロード」


「なんだ?」


「この後男子寮に入るんだよね……」


「そうだな。嫌か?」


「嫌ではないよ? ただね、普段入らない場所だから緊張するなって」


「まぁ、禁止されているわけじゃないしな。ただ用事がなくて入っていないだけだから大丈夫だろ」



 俺たちはいつもは解散するはずの分かれ道を、一緒の方向へ曲がった。三階建て男子寮の二階に俺の部屋があり、共用の炊事場が各階にある。


 俺たちが男子寮に入ろうとすると、丁度仲の良さそうな手を繋いだ男女が建物から出てきた。



「ほら、女子だからって入ってはいけないことはないんだよ」


「そ、そうだね……」


「?」



 ネルはまだ緊張しているようだった。まぁ、仕方ないか。俺が女子寮に入れと言われたら、確かに緊張しそうだ。


 そして、一階にある共用スペースを抜けて階段を上がり、一度俺の部屋に鞄を置くことにした。いつもの歩き慣れた寮の廊下に、ネルがいる。不思議な感覚である。


 俺は鍵を開けて、部屋に入った。あいにく物が少ないので散らかったりはしていない。



「お、おじゃましまーす……」



 ネルがゆっくりと部屋に入り、しばらく立ち止まって見渡していた。



「本当にクロードの部屋だ……」


「別に普通の部屋だろ? とくに面白いものもないし広さも構造も他と同じだ」


「でもなんだか新鮮だよ」


「そうか?」



 一度荷物をベッドに置いてから、俺たちは食材を持って共用の炊事場へと移動した。他に先客がいないので貸し切り状態である。そもそも、食堂の存在のせいでわざわざ料理をする人は限られている。


 そして、まずは今日調達した野菜を切ることになった。包丁を二つ用意して、分担して切るのだが……俺が野菜と包丁を手にした途端、ネルがストップをかけた。



「待って! クロード。その持ち方だと危ないよ?」


「そうなのか?」


「うん、そう持つと指を切っちゃうかもしれない」


「以前切ったときはすぐにヒールした」


「でも危ないよ? ……というか既に切ってるんだ」



 そして、俺はネルに正しい持ち方を教わった。野菜を持つ左手は指を丸めて、猫のように持つのが正解らしい。知らなかったな。野菜の持ち方にも良し悪しがあるのか。


 俺は野菜を切りながら、ふとネルの手元を見た。俺の何倍も料理には慣れているといった手つきで、見ていて感動する。



「ネルは料理が得意なんだな」


「得意かどうかは分からないけど、昔から料理する機会は多かったかもね」


「手際が良くてかっこいいぞ」


「そ、そう?」



 ネルは褒められていないので、こういう時にぎこちない返事をしがちだ。しかし、そういう返事をされた時に、何故かもっと褒めたいという気持ちになる。


 人間とは、お互いの良いところを見つけて褒めるという不思議なコミュニケーションをとる生き物だ。だから俺も、もっと褒めていこうと思う。



「ネルは器用だよな」


「えっ!」


「頭もいいし」


「う、うん……?」


「私服もお洒落だったな」


「ど、どうしたの急に!」



 ネルは顔を赤くして料理の手を止めた……や、やりすぎたか?


 しかし、小さな声で「ありがと」と言われたのでやりすぎではないということがわかった。



 とにかく、これからも人のいいところに気づけるよう常に気を張っておこうと思う。

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