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約束だよ!

「観念しろ、魔王!」


「勇者よ、俺の負けだ!」



 昼の部最後の捨て台詞を吐いて、俺は舞台袖に戻った。そして、はぁと大きなため息をつく。それを見たジルがニヤニヤしながら言った。



「ネルさんが観客席にいて緊張したか?」


「……そりゃあするだろ」


「ネルさん、楽しそうに見てたぜ。よかったな」


「まぁ、それはいいことだな」



 ジルに煽られたので、俺も、煽り返すことにした。



「で、リリーのメイド姿は見に行ったのか?」


「……ちゃんと行ったよ。まさかメイド喫茶をやるとはな」


「知ってるぞ、メイドっていうのは大きな家とかに使える人のことだろ?」


「まぁそうだけど、そんなドヤ顔されても」


「さっきアランに教えてもらったんだ」



 ジルはため息をついた。



「メイド姿のリリーを見れたのはいいが、他の人にもああやって接客してると思うとなぁ」


「あ、それ俺も思ったんだよな。とある生徒がネルの接客を気に入ってファンになった話を聞いた時になんとも言えない気持ちになったぞ」


「おお! クロードが成長している!」


「?」


「それはな、嫉妬ってやつだよ」



 嫉妬……? そうだったのか。嫉妬というものをあまり知らないし、実感したこともないからよく分からないが。まぁ、ジルがそう言うならそうなのかもな。



「クロードはこの後ネルさんと合流するんだろ?」


「そうだな」



 ジルは何故か満足そうにしていた。


 その後、部屋が暗転し劇が終了した。俺は観客席にいたネルのところへ向かい、まずは感想を聞くことにした。



「ネル、どうだった?」


「あ、クロード! いい演技だったし衣装もかっこよかったよ。劇も楽しかった」


「それはよかった……しかし、ネルに見られていると思うと緊張したぞ」


「クロードも緊張するんだね?」



 俺はどんなヤツだと思われているんだ……? まぁとにかく、いい反応でよかったよ。これであんまりだったなんて言われたら、夜の部は集中できないところだったぞ。


 で、この後は、夜の部までの間ネルと周るのか。



「なぁネル」


「どうしたの?」


「一緒に周る相手は俺で良かったのか? 勉強会組は沢山いるのに」


「えっ! もちろんクロードで良い……というか、クロードと一緒がよくて」


「そうか。俺もそうだ」



 ネルは満足そうな笑顔を見せてくれた。正直俺はずっと心配だった。ネルが俺に気を遣って一緒に周ろうと言っている説や、とりあえず流れでそうなったから説など……様々な不安が少しだけ、頭の片隅にあったのだ。


 でも、彼女の表情を見てちゃんとわかった。俺はネルと一緒がいいし、ネルもそう思ってくれているはずだ。




 その後、俺たちは魔法学園を隅から隅まで周って、遊び尽くした。


 色々なものを食べて、色々な体験をして……去年までの俺は、こんな風に学園祭を堪能するなんてことは考えられなかった。誰かと一緒に楽しむ学園祭は、今までの何倍も楽しく感じられた。



 やがて、日が暮れて学園中のランタンが灯り始めた頃……ネルが一つの店を指差した。



「ねぇ、クロード。お昼からずっとあれを食べたいってずっと言おうとしてたんだよね」


「あぁ……いや、でもそろそろ劇の夜の部に行かないといけないかもしれない」


「そっか……うーん」


「じゃあ、夜の部が終わってから行こう。花火まで少し時間があるから、しばらくは空いてるだろ」


「そうだね! 約束だよ!」



 嬉しそうなネルとは裏腹に、俺は少し心配だった。そう、魔獣としての空腹が限界まで来ているのだ。このまま放置しておけば、きっと大変なことになる。しかし、ネルとの約束や夜の部への出演も絶対だ……マズいな。



 俺は一度ネルと別れ、自分のクラスに帰った。そして、劇の役目を待ちながらずっと落ち着かない状態が続いていた。そんな俺を見て、ジルが問いかける。



「どうした、クロード? 腹でも痛いのか?」


「違うな。ただ、その……緊張しているんだ」


「ほう、クロードが緊張するとはな。でも、ネルさんは見に来ないんだろ?」


「まぁ、そうだが……そうそう、俺に演技を教えてくれたユアとアランが見に来ると言っていたからな」


「あー、そういうことか」



 ジルはそれを信じてくれた様子だった。これは、ユアとアランに助けられたな。しかし、花火まで我慢できそうにない……魔王の登場シーンが終わり次第、すぐに森に行って食事しなければ。その後、すぐにネルと合流してあの店に行く……できるのか?



 そういえば、ネルとの待ち合わせ場所……決めてなかったな。



「おい、魔王! 出てこい!」



 奥から、俺の出番の合図になる台詞が聞こえた。俺は慌ててステージに上がり、少々焦りながら演技をした。もう、空腹で頭が真っ白だった……上手く演じられているのか、ミスはしていないだろうか。もう、何もわからない。



「観念しろ、魔王!」


「勇者よ、俺の負けだ!」



 俺は舞台袖に戻ると、ジルに行った。



「なぁ、ジル……やっぱり腹が痛いから行ってくる」


「おう、片付けは裏方に任せろ」



 俺は急いで教室を出ると、森のほうへ全速力で走った。腹が減っているせいで、嗅覚や聴覚が敏感になっていた。通りすがりの生徒が話していることや、食べているものすらわかるほどに……。



「この後花火があるから、そろそろ店が閉まるよ」



 とある生徒の声にハッとした。このままだと、ネルとの約束を破ることになってしまう。俺はひたすら走り続け、やっと森にたどり着いた。



 よし、今から急いで食事をすれば間に合う……! 俺は魔獣の姿になり、森を駆け抜けた。

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