色々
その後、俺はユアに演技の基礎について教えてもらった。最初は彼女も気まずそうにしていたが、次第によそよそしさは無くなった。
教えてもらった演技についてのコツは、すぐに実践できそうなものばかりだった。
身ぶりは大げさすぎるくらい大げさにやったほうがいいことや、観客のことを常に意識するなど……演劇部ならではの視点で学ぶことができた。
別に、一際いい演技をして目を引こうなどとは思わないが、これは聞けてよかったな。
一通り教わった後、俺は彼女に礼を言った。
「ありがとう、ユア。色々教えてくれて」
「うん、私も力になれて嬉しいよ」
すると、隣でずっと話を聞いていたアランも、ユアに感謝していた。
「ユア、演技のことが聞けて俺も楽しかった。また聞かせてくれ」
「うん! また誘ってよ」
そう言って彼女は、空のトレーを持って立ち上がった。そして、そのまま食堂を去っていく。俺とアランは話に集中していたので、まだ食べ終わっていなかった。
残された俺たちは、しばらく無言で食べ進めていたが、アランが口を開いた。
「なぁ、クロード」
「なんだ?」
「ユアってさ、今もお前のことが好きだと思うか?」
「どういう質問だよ」
「まぁ、なんとなく」
そんなこと聞かれてもな。ただでさえ人間の感情について疎い俺に、相手がどう思っているかを察する能力なんてない。
「さぁな。ただ、俺はユアのことを、今のところ何とも思っていない」
「そうだよな」
「それが聞きたかったのか?」
「いや……特に深い理由はない」
ほう、なんだかよそよそしいが、本人が深い理由はないと言っているのだからそうなのか。
「そういえば、アランのクラスは何をするんだ? ネルやリリーと同じクラスなんだろ」
「あぁ、そうだ。まぁ、その……何をやるかは伏せておくことになっている」
「そうなのか? まぁ、当日のお楽しみってやつか」
「ただ、そうだな。楽しみにしておくといいさ。ネルのために、また顔を出してやってくれ」
「ネルのため?」
「そうだ。俺は何一つ出番がない分、ネルやリリーあたりは忙しくなるんじゃないか」
ほう、一体何をするのだろう。楽しみになってきたな。ネルが何かをするのなら、行かなくては。
「で、その出し物では何か食べられるのか?」
「あぁ、食えるよ」
「ほう、それはいいな」
「お前食べるの好きだよな。よく人を食事に誘うし」
「みんな好きだろ? 食べるの」
「まぁそれはそうなんだが」
こうして、俺とアランは雑談をしながら昼食の残りを食べ進めた。
学園祭まで後十日ほど。それまでに台本を覚えなきゃいけないのか……しかし、意外にも裏方組のほうが大変そうにしていた。今日もジルは昼食抜きだからな。他の勉強会組は、クラスで出すものの試食があるとかそういうパターンかもな。
そして、早く当日になればいいなと思った。何かを楽しみに待つ、俺にしては珍しい感情だな。
◇
学園祭の準備が着々と進む中、俺はとうとう台本を丸暗記し、何も見ずにスラスラと台詞を言えるようになった。実際に他の役の生徒と一緒に練習したり、裏方を手伝ったりと、授業がなくても充実した日々を送っていた。
ジルは相変わらず、舞台のセットや小道具作りに励んでおり、たまに昼食を抜いていた。
そして、学園祭の前日になった。全員がクラスに集まって、当日の流れを実行委員長から説明された。
「明日は、朝の部、昼の部、夜の部の三回に分けて劇を開催します。その際、役者と一部の裏方は教室に集まってもらいます。それ以外の時間は自由とし、各自好きに周ってもらいます」
そこで、ジルが俺に耳打ちした。
「お前はネルさんと周るんだろ?」
「あぁ、そうなっているな」
「頑張れよ」
「何を?」
「色々だよ」
俺はジルの曖昧な返事になんとなく不満だったので、同じことを言い返してやることにした。
「そういうお前こそ、リリーと一緒だろ? だから頑張れよ」
「何をだよ!」
「色々」
ジルは俺の華麗なるカウンターにより、少しダメージを受けている様子だった。それに満足したので、再度実行委員長の言葉に耳を傾ける。
「また、今年の学園祭は新たな試みとして、夜になると生徒達全員の魔法を使った花火大会が行われます。火魔法の応用のやり方がわからない人は、詳しい人か私に聞いてください」
ジルは、案の定俺の方を見て「あとでやり方を教えてくれ」みたいな顔をした。なので俺は「嫌だ、自分でなんとかしろ」と目線で合図したのだが、それはジルに伝わらなかったらしい。その証拠に、満足そうな顔をしてまた教壇の方を見た。
「では明日、学園祭をみんなで盛り上げて行きましょう! 質問がある人はこの後私のところへ来てください。では、解散」
学園祭の準備期間が終了し、とうとう明日が本番というところまで来た。各クラスで最後の打ち合わせなどを終えた勉強会組が、ちらほらと俺の教室に集まってきた。
明日のスケジュールでは、一度勉強会組全員で集まって、その後各自で約束していた人と周ることになっている。
俺はネルと、ジルはリリーと、レオやシオはレオ・ファミリーのみんなと周ることになっているらしい。アランとシアはどうするのだろう。そこで、丁度やってきたアランに訊いてみることにした。
「なぁアラン。明日はお前一人なのか?」
「同情的なヤツか? 俺は何人かに誘われた結果、ユアと周ることにしたよ」
「そうか。もし一人なら誘ってやろうと思ったのに」
「お前は何が何でもネルと二人きりになるよう努力しろよ。じゃないと俺が怒るぞ」
……出た。この理不尽に怒られる宣言。ネルに関連することで、いつも俺は怒られそうになるんだよな。
すると、丁度シアが来たので訊いてみることにした。
「シア、お前は当日どうするんだ?」
「さぁ? 寝てるんじゃない?」
「勿体ないだろ。せめて何か食えよ」
「じゃあ、そうしようかな。後は寮の部屋に籠もって本でも読むかも」
すると、そばで話を聞いていたレオが言った。
「レオ・ファミリーは暇なやつを大募集しているぞ」
隣でシオがコクコクと頷く。シアは慌ててそれを否定した。
「私は暇じゃないよ! だから誘われる義理はない」
「なんだと? 勉強会組では俺のほうが先輩だぞ。断る権利なんてないが?」
「えっ……? まぁ、そんなに言うなら一緒に周ろうかな?」
「ほう、レオ・ファミリーに加入する気になったか。学園一位の生徒か参加するなんて心強いな」
シアはぎこちなく返事をした。
「レオ・ファミリーには入らないし、学園一位も別にその……たまたま獲れただけだって。たださ、そんなに言うなら学園祭の日だけは一緒に周ってあげるよ」
「素直じゃないな。お前だって学園祭を楽しみたいんだろ?」
「べ、別に……」
シアの台詞と表情があまりにも一致しないので、俺は笑ってしまった。
「お前ら、仲良くなったんだな」
シアは首を横に振るが、反対にレオは首を縦に振った。これで、当日勉強会組の中で暇になる人はいないだろうな。
そして、明日のためにと勉強会は開催せずに、今日は解散することになった。
ネルと明日の予定について話しながら帰り、寮の前に着いた。これで今日は解散になるな。そう考えていたところ、別れ際にネルが、少し躊躇いながら言った。
「あの、クロード」
「どうした?」
「明日の午前中はさ、私はクラスの出し物があるから一緒には周れないんだけど……よかったらさ、うちのクラスに来てくれない?」
「あぁ、アランが言っていたやつか。内容は知らないが楽しみにしてたんだよ。絶対に行くからな」
「えっ! いやぁ、その……あまり期待しないでね?」
ネルは顔を赤くして、また目を合わせてくれなくなった。彼女はたまにこういうモードに入るときがある。何故だろう? 明日やることに関係があるのだろうか。
「逆に、俺のクラスの劇はその……どうせ出演時間も少ないから来なくていいからな」
「いや! 私はそれを楽しみにしてたから行くよ! クロードが嫌がっても見に行くから」
「まぁ、そこまで言うなら……?」
そんなに楽しみにするほどのことなのだろうか。もしかすると劇の類が好きなのかもな。
そして、ネルとは別れ、俺は男子寮の自分の部屋に戻った。その日は疲れていたので、きっとぐっすり眠れると思っていたのだが……何故かソワソワして寝付けなかった。おかしいな……それに、魔獣として少し腹が減っている気がする。それについては、また明日の夜でいいか。




