人間らしさと魔獣らしさ
今まで習った薬草学の分からないところ全てを聞き終えた頃、窓の外を見るとすっかりと暗くなっていた。
「ネル、もうすぐ閉館の時間じゃないか?」
「そっか。じゃあまた今度にしよっか」
「今聞きたいところは全部聞けた、ありがとう」
「どういたしましてだね」
ネルは教科書をパタンと閉じ、立ち上がった。
「寮まで一緒に帰るよね?」
「あぁ」
俺達は図書館を後にして、暗い道をランタンで照らしながらゆっくりと歩いた。この火は、この学園で習った炎魔法を使って灯している。
揺れるオレンジの火が足元を照らす。今日教えてもらったことを頭の中で復習しながら、それをただ見つめていた。
「ねぇ、クロード。薬草学じゃない科目も教えてあげられるかもしれないから……またいつでも誘ってね。その時はまた図書館行こ」
「そうだな」
成績や順位には、正直に言ってあまり興味がない。ましてやジルの言っていた学イチについては狙う必要すら感じていない。ただ、ネルと一緒に勉強している時間は、なんとなく……〝人間〟をしているなと思えた。
しかし、俺は何故人間になりたいと思ったのだろう。もう、少しも覚えていないし、思い出そうとしたこともない。そういえば、俺は魔獣だったな……つい忘れてしまいそうになる。
……腹、減ったな。
「クロード、なんだかぼーっとしてるけど大丈夫?」
「え? そうだったか」
「うん。考え事?」
「まぁそんなところだ」
「ふぅん?」
いや、彼女になら正直に言っておくか。
「その……俺はどうやら空腹らしい」
「お、一緒に夕飯食べる?」
「そうじゃなくてだな。人間的な空腹というより、血が欲しいというか」
「そっか。うん、そうだよね……しばらく我慢してたもんね」
ネルは驚いたり、怖がったりもせず、理解を示してくれた。やはり彼女は不思議だ。
「だから、夕飯はまた今度にしよう」
「じゃあ、この後は森に行くんだね」
「あぁ。すまないな」
「じゃあさ、私もついて行っていい?」
彼女の口から出た予想外の言葉に驚愕した。
「ついてきてどうするんだ? 別に、俺が餌を探し回って、それから食うだけだぞ」
「うん。でもほら、ちょっと〝魔獣なクロード〟が見てみたいな……なんて?」
「はぁ……よくわからないな」
「嫌だったらいいんだけどね」
俺はしばらく考えたが、承諾することにした。さっきネルに勉強を教えてもらったばかりなので、彼女の頼みを断るわけにもいかない。
「まぁ、ネルが望むなら……いいが」
「ほんと? やったぁ」
「けどな、その。あんまり見ないでくれよ。恥ずかしいから」
「分かってるって、大丈夫だから」
ネルは嬉しそうに笑っていた。
何がそんなに嬉しいのだろうか。俺は必死に考えたが、答えは出なかった。しかし、見られても何か損するわけじゃないしな……。
ご機嫌なネルを横目に、少しだけ気が重くなっている自分がいた。
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