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役割

 俺が授業の予習をしながら、開始の鐘が鳴るのを待っていると、いつものように隣の席にジルが座った。



「クロード、何してんだよ」


「何って……今日の分の予習だが? いつものことだろ」


「今日から学園祭の準備期間だろ? 授業はなしだ」


「あ、そうか。もうそんな時期とはな」



 今日も授業を受ける気でいたので少し拍子抜けだった。


 学園祭の準備か。まずクラスの出し物を決めるんだったか。劇以外ならなんでもいいな。もっとこう、楽なやつが良い。できれば食べ物が沢山食べられるやつが理想だな。




 そうこうしている間に担任の先生がやってきて、学園祭の準備が始まった。まずはこのクラスで何をするのかをアンケート調査することになった。全員がやりたいことを挙げていき、多数決を取るようだ。


 そして、とある生徒が劇を提案した瞬間、教室の空気が一変した。多くの生徒がそれに同意し、流れは完全にそちらへ……ちなみに、ジルもノリノリで劇に投票していた。コイツ……!



 結果として、このクラスでは劇をやることになった。一番嫌なのが来てしまった……もうこうなってしまった以上、なるべく楽な役目を受けられるかの勝負になってくる。できれば、当日は動きたくない。



 そして、劇の中でも誰が何を担当するのか決めることになった。一クラスの約二十人全員に、何かしらの担当が割り振られることになる。主な役職は二種類あり、実際に劇に出演する演者と、小道具や背景などを準備する裏方に分かれる。絶対に裏方を希望することにしよう。


 そっとジルに耳打ちする。



「俺は絶対に裏方を希望するが、お前はどうする?」


「俺も裏方希望だけどさ、お前は役者として出なよ」


「は? 嫌なんだが」


「もったいないぞ、せっかくの機会なんだから」


「じゃあお前も出ろよ」


「嫌だ」



 そして、とある生徒が実行委員長に選ばれて、先生の代わりに教室の前に立った。そして、まず大事な劇のテーマを決めることとなった。


 様々な意見が飛び交う中、実行委員長が鶴の一声でテーマを決定した。「とある冒険者が、攫われた村娘を助けるため魔王に立ち向かう」という、どこにでもありそうなストーリーとなった。


 詳しい脚本などは後日実行委員長が直々に書くそうだが、これで役者がどのキャラクターを演じればいいかを決めることができるようになった。まぁ、俺は裏方なので関係ないが……。



 主人公、村娘、それから冒険者仲間が何人か……その他の脇役など、順調に役者がが割り当てられていったのだが、魔王役を買って出る人がいなかった。


 学級委員長は困り果てて、メタいことを言い始めた。



「魔王役は最後にしか出番がないのでとても楽ですよ。誰かやりませんか」



 しかし、流れは変わらず……誰も魔王なんかやりたがらないんだな。まぁ敵役だしな。すると、とある生徒が言った。



「魔王の役ってなると、やっぱり強そうだったり、オーラがある人じゃないとねぇ」



 おいおい、そんなことを言ったら余計だれも立候補しなくなるんじゃないか? ……なんて考えていると、隣に座っていたジルが挙手した。お! お前が魔王か。いいんじゃないか、悪そうだし。バカ路線の魔王ということで。


 が、彼の口から飛び出したのはとんでもない言葉だった。



「うちのクロードがフリーだそ」


「は?」



 すると、教室のあちこちから納得する声が上がった。待て待て、みんななんで頷いているんだ? なんで「それだ」的な顔をしているんだ。



「いや待て、俺はやるとは言ってないぞ」



 しかし、学級委員長が黒板に書かれた魔王役の下にクロードと書いた。何を勝手に決めているんだ。流石の俺でも怒るぞ。


 しかし、クラス全体の空気に負けて、俺は魔王役を引き受けることになった。もうジルとは飯を食わないし、勉強も教えてやらないし、教科書も貸さないからな! 絶対だぞ! お前が悪いんだからな。




 無事役者が揃った俺たちのクラスは、裏方の役割をスムーズに決めて、その日の授業は終了した。放課後、ジルに話しかけられたが、俺はそれを無視した。



「なぁ、クロード。この後一緒に夕飯食うか?」


「……」


「……もしかして怒ってる?」



 すると、ちょうどそこにネルがやってきた。俺とジルの間に流れる空気を感じ取ったのか、彼女は首を傾げた。



「クロード、ジルくん。どうしたの?」



 それにはジルが答えた。



「あぁ、俺がクロードを劇の役者にしたことを怒ってるんだ」


「役者? クロードが劇に出るの?」


「そう。うちのクラスは劇になったんだ。内容はまだ言えないけどな」


「へぇ! クロードの演技か! 絶対見に行くね。もう、楽しみになってきた」



 あまりにもネルが楽しそうにするので、俺は少しだけ気が変わった。



「まぁ、ネルがそういうなら頑張ってもいいかな」



 すると、ジルは半笑いで言った。



「お前って本当そういうとこあるよな」


「どういうとこだよ?」


「そういうとこ」


「は? なんだよそれ」



 今日ほどジルのことをウザいと思った日はない気がする。



「とりあえずお前とはもう飯を食わない」


「えっ!」


「教科書も貸さないから」


「わ、わかったよ……俺が悪かったって!」



 そんな俺たちの会話を、ネルはなぜか微笑ましそうに眺めていた。



 こうして今年の学園祭には、ほんの少し重たい役割がのしかかることになった。

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