賑やか
次の勉強会の日、みんなで図書館に集まってしばらくした頃、シアがやってきた。そして、恐る恐る、俺やネルの方を見て目線で訴えた。ネルは「そこに座って」と空いてる席を指差した。
俺は一応、みんなに伝えておいた。
「今日から勉強会組にシアが加わる」
すると、みんな「ふぅん」といったリアクションをして、勉強会が再開した。シアは恐らく、自分が参加することを拒否されないか心配だったのだろう。安堵の表情を浮かべていた。この勉強会は、別に積極的にメンバーを増やす気はないが、誰かの紹介でなら加入できるという謎のルールが出来上がっていた。
先日、ジルが知らない生徒に「勉強会組に入れてくれ」と頼まれたらしい。もちろん、断ったらしいが。勉強会というものが、良くも悪くも有名になってしまったのは、絶対に成績トップ四人と自称最強の不良が参加しているからだろうな。
しかし、その名の通りただの勉強会なので、友達ですらない人を積極的に参加させるようなことは、きっとこれからもしないだろうな。シアはラッキーということで。
すると、しばらく授業を進めていたネルだったが、思い出したように言った。
「あ、自己紹介やる?」
そして、全員がいつものように軽い自己紹介をした。成績も性格も、何もかもがバラバラな八人だったが、勉強への熱意はほどほどにある。そこが勉強会組の良いところだよな。
しかし、これからメンバーが増えることはあるのだろうか。
自己紹介を終えた頃、シオが口を開いた。
「もうすぐ学園祭だね」
そのひと言で、みんなハッとした様子だった。学園祭は、主に数日間の準備期間を経て、一日だけ開催される学園最大の行事である。もちろん、期間中は放課後も忙しくなるので勉強会の開催は困難になる。
すると、レオが続けた。
「例年通り、クラスごとに出し物をするんだよな? この中でクラスが一緒なのは……俺とシオ。それから、クロードとジル。ネルとリリー、アランくらいか」
すると、シアが申し訳なさそうに言った。
「一応、私も君と同じクラスなんだけど」
「え、そうだったか?」
「不登校なものでね……」
ネルとリリーとアランは同じクラスだったのか。他のクラスのことなんてあまり知ろうとしたことがなかったな。
俺はつぶやいた。
「俺もネルと同じクラスがよかったな」
ネルは「そうだね」と言って目を逸らした……何かまずいことでも言ってしまったか? 前回のこともあるから、気をつけないとな。
ネル先生が教科書を閉じたことをきっかけに、勉強会は中断され、学園祭についての話で持ちきりになった。勉強への熱意はどこへ行ったのか。しかし、試験はもう終わっている。誰も勉強を再開しようとは言い出さないまま夜になってしまった。
結局図書館の閉館まで学園祭の話をし、その後俺とネル、ジルとリリーは食堂へ。他のメンバーは解散することとなった。
食堂までの道のりで、ジルが言った。
「リリーってさ、勉強会の創設者だよな」
「えっ? うーん、まぁ。そうなるかな?」
「ありがとな」
「え! 私はただ、ジルが勉強できるような環境を作りたかっただけで」
「それも含めてありがとう」
リリーは照れくさそうにして、すぐさま話題を逸らした。
「あの、学園祭の話に戻るけど! 去年まではみんなどうだったの?」
まず、その質問にはジルが答えた。
「俺はそうだな、別に大した思い出はないな」
次に、ネルが答える。
「私はね……一人だったかな。だから、その。当日もベンチで本とか読んでた気がする」
俺はそれに対し、少し気の毒になった。きっと、彼女も学園祭を満喫したかったはずだ……しかし、今年は大丈夫だろう。
「まぁ、今年は俺がいるから」
「そうだね! クロードがいるもんね。嬉しいな」
「俺は去年、何してたかな? ご飯が美味しかったのは覚えているが」
「クロードらしいね」
俺らしい……のか? まぁ、確かに食事は好きだが。
すると、リリーが言った。
「今年の学園祭は、去年とは一味違うところがあるらしいよ」
「どんな?」
俺の質問に対し、彼女は首を横に振る。
「さぁ。噂でそう聞いただけだから」
「ほう。みんな、そういう噂話が好きだからな」
人間の変わったところだな。
去年までの学園祭か。確かに、今思うと本当に楽しんでいたのかわからないな。誰かと一緒ってわけでもなかったし。
あの日、ネルと出会ってから急激に色々なことが起こったな。もちろん大変なこともあったが……俺の学園生活が楽しくなったように思う。
「なぁ、ネル」
「どうしたの?」
「ありがとう」
「えっ! 私何かしたっけ?」
「色々な。だからありがとう」
照れくさそうにしながら、はてなマークを浮かべるネルと、それを見ながらニヤニヤするジルとリリー。
今年の学園祭も楽しみだな。それが終わったらまたクエストにも行きたいし……やることは山積みだな。
俺の帰り道は、いつの間にか賑やかになっていた。




