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埒が明かない

 次の日、黙々と授業を受けていた俺だったが、終始誰かからの視線を感じるようになった。何故だろう、それをプレッシャーに感じたのか俺の緊張はさらに加速した。


 すべての授業が終わった放課後、俺は日時計のある広場へと向かった。ジルやネル、それから他の勉強会組もそれについてきた。俺の決闘を見届けてくれるらしい。



 そして、広場に着くと、円形に人だかりができていた。沢山の生徒たちが、俺とシアの決闘を見届けようと集まっているらしい。これは……少し厄介だな。


 それに、他人の決闘なんか見て何が楽しいんだ? 俺の到着とともに、生徒たちの視線がこちらに集まる。俺は思わず目をそらし、ジルに愚痴を吐いた。



「物好きな奴らだな」


「金貨を賭けてる奴らもいるらしいぜ。俺調べだが、シア予想が七割、クロード予想が三割ってとこかな」


「……」



 人間……特にこの学校の生徒は、常に刺激に飢えているらしい。だからこそ、学園で一番目と三番目に成績が高い者の決闘はちょうど良く楽しめそうだと感じたのだろう。


 俺としては、色々と不服なんだがな。



 俺が前へ歩くと、人混みが割れ、道ができた。そしてその先には、一人の生徒が立っていた。ボサボサの髪をして、眠そうな目をした……しかし何か、強大な魔力を感じる不思議な人物だった。



「お前がシアか?」


「君がクロードだね」



 ざわついていた生徒たちが静かになり、俺とシアは向かい合って互いの目を見る。俺は彼女に質問を投げかけた。



「二つ、質問していいか?」


「二つだけでいいの? どうぞ」


「まず、何故ネルと俺を引き剥がそうとした?」


「あぁ、それはね。〝呪われた子〟なんていうおもしろそうな人がいるって聞いてね、興味を持ったんだ。それに最も邪魔だったのが君ってわけ」


「それだけか?」


「あぁ、何事も〝おもしろみ〟がないとね」



 俺は少し強い口調で言い返した。



「そんなくだらない噂話に〝おもしろみ〟を感じるとは、随分と程度の低い人間なんだな」


「ほう?」


「安心した。どうやら今日は勝てそうだ」


「いいね、おもしろくなってきた」



 シアはニヤリと笑った。反対に、俺は彼女に嫌悪感を示した。



「次の質問だ。何故わざわざ決闘の時間を設けたんだ? 俺がネルに近づけないようにするだけなら、直接それを頼めばよかったのに」


「そんなことに学イチを使ってもおもしろくないから、かな」


「はぁ」


「一度決闘をすることで、ロマンチックになるでしょ? 私にとってこれはボス戦なんだよ。ネルという報酬を賭けたね」



 俺は頷くと「じゃあ、やろう」と言う。すると、彼女は人混みの中から決闘委員会の委員長を呼んだ。委員長は、交互に何を賭けるかを聞いてきた。



「私は〝クロードがネルに近づかない〟という権利を」


「俺は〝以降、シアが俺達を面倒事に巻き込まない〟という権利を」



 委員長は手を上げて、例の文言を読み上げた。



「これは、決闘です。殺し合いではありません。審判である私が勝敗を決────」



 委員長が読み終わる前に、シアは手に魔力を込めて、大きな水弾を放ってきた。それをギリギリで回避した委員長は、慌てて「始め!」と言った。


 その水弾は回避したものの、着弾した先の石畳は壊れてヒビが入っていた。これは、なるべく当たらない方が良いな。



 俺は両手に二つ、火の球を作り、連続で放った。当然のようにシアはそれを回避し、今度は彼女が同じように水の球を放ってくる。



 いくつもの火魔法や水魔法が飛び交い、地面にはボコボコと穴ができていた。観戦していた生徒たちも距離を取り、巻き添えを食らわないようにする。



 シアは手を止めて、俺に言った。



「これじゃあ埒が明かないよね」


「奇遇だな、俺もそう思っていた」


「第二ラウンドはもっと豪華にいこう」



 シアは両手を上げて、大きな水の球を作り出した。俺も同じように、魔力を込めて火の球を作り出す。相手よりも大きく、相手よりも強く……!


 お互いがそう考えたのか、どんどんと込める魔力量が増えていき、それによって球もどんどん大きくなっていく。生徒たちは嫌な予感がしたのか、俺達からどんどんと離れていく。



「どうした、クロード! 学園三位の実力はそんなもの?」


「怪我しても自分で治せよ。一位ならな」


「おもしろくなってきた! 第三ラウンドはもうないから、ここで決着をつけよう」



 二人はどんどん魔力を込めて、やがてはそれが制御しきれないほどまで来ていた。炎の熱さが全身をヒリつかせる……これで勝ってやる!



 俺達は、周囲のことも魔法学園の建物のことも考えてはいなかった。怪我人が出るとか、危険だとか……そんなことはもうどうでもいい。


 奴よりも大きな球を作り、ぶつけてやる────。



「クロード!」


「シア!」



 彼女が手を振り下ろし、俺も同じように手を振り下ろす。



 その瞬間、放たれた水の球と火の球がぶつかったと思えば、耳をつんざくほどの轟音を立て、まばゆい閃光に視界を奪われた……かと思えば、突然辺りが静かになった。



 俺が恐る恐る目を開けると、先ほどまであったはずの水も火も、その場から消えていた。代わりに、俺とシアの間には、白衣のポケットに手を入れたシーナ先生が立っていた。そして、珍しく怒りの表情を浮かべている。



「シアにクロード……ちょっと説教するので来てください」



 俺達はシーナ先生の元へ駆け寄り、身構えた。シアも、先ほどまでの笑顔は消え、緊張した様子だった。



「あの、先生……俺は決闘に巻き込まれただけで」


「言い訳は聞きません。私が闇魔法を使って相殺しなければ、先ほどの戦闘で怪我人が出ていました。それを治療するのは誰だと思っているんです? それに、決闘は殺し合いではありません。自分達でも制御しきれないような魔力を込めてはいけませんからね」



 シーナ先生はいつにも増して怖かった。



「シア、学イチの権利はあなたに返します。今回の決闘は引き分けで、今後クロードに決闘を挑むのは禁止とします」


「……はい」


「今、〝おもしろくない〟と思いましたね? あなたのエゴのせいで決闘させられたクロード、心配になったネル、それから怪我させられそうになった沢山の生徒がいるんですよ?」


「すみません」



 そして、シーナ先生がこっちを見た。心臓がドキッとして、俺は萎縮する。



「クロード、あなたはもう少し優秀な生徒だと思っていました。くだらない決闘に正面から挑んで、周囲の生徒のことも考えず挑発に乗って……」


「すまない」


「私が止めに入ってなかったら、この広場はしばらく封鎖されていたでしょうね……いや、この様子だともう既にダメですかね」



 シーナ先生はボロボロになった床を見て言った。



「シアとクロードは、金貨三枚ずつを、床の修理代として払ってもらいます……それから、そうですね。明日二人でこの広場の掃除でもしてもらいましょうか」



 俺達は絶対に嫌だと思っていたが、そうは言えなかった。



 やがて、シーナ先生がその場を去った後も、しばらく俺達は固まっていた。周りの生徒たちもちらほらと解散し始め、心配そうな表情をしたネルが遠くに見えた。


 俺はシアのほうを見て言う。



「明日の放課後、サボるなよ」


「わかってるよ」


「じゃあ、俺は帰るから」



 俺が観戦していた勉強会組の方へ歩き出すと、後ろからシアの声が聞こえた。



「クロード、正直君に興味が湧いている。シーナ先生が止めなければ、あの決闘に私は負けていた……気がする」


「だからなんだよ?」


「〝呪われた子〟ネルもいいが、私に唯一勝てるクロードという存在がおもしろくて仕方ないってことだね」


「あぁ、そう」


「またね、クロード」



 俺は心の中で「それは面倒だな」とつぶやいて、その場を去った。


 ネルは色々あって心配そうにしていたが、ひとまず決闘が無効になって安心している様子だった。彼女の安心した表情を見ると、怒られたことも、決闘したこともどうでもよくなってくる……不思議な人間だな、ネルは。



「なぁ、ネル」


「どうしたの?」


「どうやら俺は、決闘が無効になって安心してるみたいなんだ」


「そうなの? それはその……嬉しいな」


「ネルと一緒に帰れない生活なんて、もう考えられない」


「……! そうだね、私もそう!」



 ネルは嬉しそうに笑った。



 それだ、その顔が見たくて俺は……って、何を考えているんだ? 何故こんなにも、俺は安心しているんだろう。



 これもまた人間らしさ、なのか?

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