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引き剥がす

 魔法学園に着くと、たった数日間離れていただけなのに、少し懐かしい気持ちになった。森を離れ、人間界に溶け込むようになった俺にとって、ここが〝家〟と呼べる場所になったという証なのかもしれない。



 その後、授業を受けるために解散し、教室に入る。すると、いつもの席に座っていたジルと目が合った。俺が彼の横に座ると、少し焦った様子で話しかけてくる。



「なぁ、クロード……知ってるか?」


「久しぶりだな。で、何を?」


「やっぱ知らないよな。前回の試験で、シアが一位になって学イチの権利を得ただろ? それで、その使い道を決めたんだ」


「ほう、よかったじゃないか」


「よくない! その使い道ってのが……『クロードと公式に決闘をさせてくれ』というものなんだ! しかも、恐らく明日には決行される」



 俺と決闘……? 何故だ。面識もなければ、二位でもない俺と決闘だと? しかも明日なのか。クエストから帰ってきたばかりなのに。



「何故俺と決闘なんか」


「それがな、どうやら彼女はネルさんのことを気に入ったらしいんだよ……〝例の噂〟と関係があるとかなんとか。それで、ネルさんと仲がいいお前を引き剥がそうっていう考えらしい」


「い、意味がわからない……そんなことで決闘を仕掛けてきたのか」


「そうだよな、俺もそう思う」



 ネルと俺を引き剥がす……か。つまり、決闘に負ければ、何らかの方法で俺とネルの関係が壊れる可能性があるということか。待てよ、それって俺にとって不利すぎる決闘じゃないか? 万が一負けたらどうするんだ?


 色々な考えがよぎった俺に、追撃を食らわすようにジルが言った。



「今回の決闘に拒否権はないと思ったほうがいい……それに、沢山の生徒たちがこのことを噂して、当日は観戦しようなんて話しているんだ」


「そんな大事になったのか?」


「大勢の前で決闘させられるぞ、お前」



 ジルは俺と同じくらい不安そうだった。久しぶりだ、この心臓がうるさいという感覚は。大型の魔獣と対面した時ですらそんなことはなかったのに……。



「なぁ、ジル。シアって強いか?」


「さぁな。だが、不登校なのに学園で一番成績が良いだけあって、魔法の実力は相当あると見た」


「そうだよな」


「絶対負けるなよ、お前。ネルさんを悲しませないためにも」


「あぁ、勝つよ」



 そう言いつつ、やはり不安は抜けなかった。俺はネルのこととなると、こんな風になってしまうのか。何故だろう。やはり、魔獣である俺のことを知っている、唯一の生徒だからだろうか。それとも、今まで沢山〝人間のこと〟を教えてくれたからだろうか。勉強会組の先生を担当しているからか。



 答えはわからないまま、授業が始まった。しかし、案の定内容は頭に入って来ず、集中できなかった。


 俺はどうすればいいのだろうか。シアという人物のエゴで、ネルとの関係を絶たれてしまうかも……そう思うだけで怖くなる。



 放課後、俺とジルがいつものようにみんなを待っていると、まずリリーの姿が見えた。彼女は俺と目を合わせると、慌てて駆け寄ってきた。



「クロードくん、話は聞いた?」


「あぁ、明日の決闘のことだろ」


「そう。だからその、今日の勉強会はひとまずやめておこうか。明日は万全の状態で挑んでもらいたいし」


「助かるよ」


「だから、絶対に勝ってね? ネルさんのために」


「ネルのため……?」



 俺のためならまだしも、ネルのためか。彼女としてはやはり俺が負けると残念なのか? 難しいな。


 すると、今度はレオとシオがやってきて、俺に言った。



「勝てよ」



 俺は不安になりながらも、その言葉に頷いた。みんな、俺が勝つことを望んでいるんだ。きっと明日の決闘は、勉強会組の存続にすら関わるんだろうな……。


 ならば、なおさら勝たないと。



 すると、遅れてネルが現れた。その途端、全員が静かになって俺と彼女の方を交互に見た。俺たちが何を言うのか気になってるみたいだ。


 まず口を開いたのはネルのほうだった。



「明日の話……聞いたよね?」


「あぁ」



 少しだけ、彼女の口調はぎこちないように思えた。



「できれば、勝ってほしいかな……なんて」


「あぁ」


「いやその……絶対に勝ってほしい、かな?」


「もちろんだ」



 彼女の目を見ていると、さらに不安になってきた。今後、こうして目を合わせることもできなくなると思うと……さらに不安になった。



 しばらく無言の状態が続き、教室は静かになった。俺は頭の中で、何度もシミュレーションした。勝った瞬間と、負けた瞬間を、交互に何度も。



 すると、その思考を遮るようにアランの声が聞こえた。どうやら、いつの間にか教室にやってきていたみたいだ。



「クロード!」


「……どうした? アラン」


「色々調べてきたから聞け。まず、シアは水魔法を得意とする魔法使いらしい。剣や格闘の腕は人並み以下だとよ。まぁ噂だが」


「ほう?」


「今回の学イチを獲った理由も、あまりにも強大な水魔法で広範囲に雨を降らせることができたかららしい。つまり、お前と同じく魔力量で勝負しているわけだ。火魔法と相性が悪いのも気にかかるな」


「確かに……そうだよな」



 すると、アランは少し嫌そうな顔をした。



「お前がそんな弱々しい返事をするとは思わなかったぞ」


「そうか?」


「『シアなどという奴には負けない』とか、かっこつけて言ってくれよ」



 アランによる俺の声真似は、驚くほど似ていなかったが、少しハッとした。確かに俺は、いつもそう言って勝ってきたじゃないか。今回もそのはずだ。そうでありたい。


 そして、アランは俺の方を指さした。



「今回、魔力量が多いほうが勝つとみた。今日の夕飯はバカみたいに食えよ」


「そうするよ、ありがとう」


「勝ってから奢られてやってもいいぞ」


「……まぁ、そうだな。奢ってやるから楽しみにしとけ」



 俺はネルの方を見て、今度は少し自信を持って言った。



「俺は勝つから、安心しろ」


「……! うん! 頑張ってね、クロード」


「あぁ」



 その後、俺達は〝決闘に勝つための作戦会議〟と称して、食堂に集まってみんなで夕食をとった。ただ俺が決闘をするだけなのに、勉強会のみんなは色々と考えてくれていた。


 決闘に勝つ方法やシアについて考察したり、俺を鼓舞してくれたり……。



 俺には、知らないうちにいい仲間ができていたんだな。みんな大切な勉強会組で、みんな大切な友達だ。



 だからこそ、明日は負けられない。

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