罠
罠
次の日になって、誰かにノックされた音で目を覚ました。外は明るくて、もう日が昇っていることがわかる。
昨日の一件の後、見張り班の中に俺は入れてもらえなかった。それよりも、身体を休めて頭を冷やせと言われた。
俺が扉を開けると、シオが朝食を持って立っていた。
「ネルさんじゃなくて悪かったね」
「何が?」
「君って自分の心にすら鈍感だよね。時々殴りたくなるよ」
「殴らないでくれ」
「はい、これ朝食」
シオからトレーを受け取ると、彼は言った。
「しばらく部屋で休むようにっていうレオさんの指示だから出ないでね。まぁ、勝手に一人で魔獣に立ち向かう大馬鹿者は危ないから閉じ込めとけって意味だと理解してる」
「……それは、すまん」
「昨日のネルさんの様子を見たら、心が痛むどころの騒ぎじゃないよ。ヒールとか、色々してくれたことに感謝するといいよ」
「後でもう一度伝えておく」
「じゃあ、僕はこれで。おかわりが欲しくなったら大声で僕のことを呼んで」
俺は「そんなことはしない、恥ずかしいからな」と言いたかったが、ひとまず飲み込んでおいた。
シオがその場を去ると、俺はベットの縁に座り、朝食を食べた。そして、昨日の反省点を踏まえつつ……例の魔獣の討伐方法について考える。
奴は、俺達の予想通り湖の中から現れた。なんのためかはわからないが、とにかく水から出る瞬間があることがわかった。それに、向かっていた方角は例の釣り場……つまり魔力溜まりを目指していた。
罠を仕掛ける作戦は続行しつつ、複数人で同時に魔法や剣術を叩き込むのがいいのではないか。そうでもしなければ、湖の中に逃げられてしまう。
色々と考えているうちに、朝食の入っていた皿は空になっていた。
その後も俺は〝自室にいなければならない〟ルールを律儀に守って、ベットでゴロゴロとしながら暇をしていたが、昼前になってノックの音が聞こえた。
扉を開けると、アランが立っていた。
「おいクロード、何をサボっている」
「何が?」
「罠を作るのを手伝え」
「でも、レオから部屋から出るなって言われてるらしいぞ」
「レオが手伝えと言っていた」
「ややこしい奴だな」
俺はアランについていき、デッキにまで出た。すると、作りかけの大型の罠がそこにはあった。複数のロープが骨組みと絡み合い、そこを魔獣が通った瞬間動きを制限する、古典的な罠である。俺が二人分くらいの大きさがあり、昨日の大型魔獣でも容易に捕まえられそうだ。
「よくここまで仕上げたな」
すると、罠の前に座り込んで作業をしていたレオが言った。
「だろ? 俺の最高傑作だ……まぁ、設計したのはネルとシオだが」
「で、ネルはどこへ?」
「村に戻って現状の報告と、食料の回収、それからお前に会う気まずさを緩和しに行ったよ」
「気まずい? 何故だ。お礼も言いたかったのに」
「昼には帰ってくるからその時言ってやれ……鈍感野郎」
何故俺はこんなにも責められているのだろうか……いや、まぁ当然か。迷惑をかけてしまったからな。むしろ、冗談で済ませてくれることに感謝しないといけないな。レオはその調子で続けた。
「あと、ヒントをやるよ。いくら回復魔法でも、溺れた人を助けることはできないんだ」
「そんなことは知っている。それがどうしたって言うんだ?」
「もういい、お前と話すのは疲れた……」
するとそこへ、丁度ネルが帰ってきた。両手には荷物を抱えている。そして、俺からわざとらしく目を逸らした。もしかして怒っているのか……? 無理もない、昨日はあんなにも手を煩わせたんだから。
「ネル、昨日はすまなかった」
「いいよ、気にしないで……」
彼女はぎこちなく返事をすると、顔を赤くしていた。やはり、昨日は大変だったのだろう。
ネルは食料を置くと、村長とのやりとりを報告し始めた。
「村長に昨日のことを伝えたところ、依頼をキャンセルすることも視野に入れてほしいとのことだったよ。既に怪我人が二人出ているからね、やっぱり学生には危ないんじゃないかって」
レオが作業したまま返事をした。
「舐めてもらっちゃ困るな。キャンセルなんかしないぞ」
「そう言うと思ったよ……みんなもそう?」
ネルの言葉に、俺もシオもアランも、深く頷いた。
「じゃあ、このまま依頼を続行する方針で行こう。これから、毎日この時間に村へ報告するよう約束したら、もし私が来なかったら救助隊をここへ送るってさ」
それにレオが反応する。
「手厚いな。どうやら当たりの依頼らしい。依頼主によっては、俺達のことなんかどうでもいいっていう態度の奴もいるからな」
シオが言っていた「どの依頼を受けるかどうかを決める時点で、もうクエストは始まっている」とは、こういうことでもあるのか。
こうして、全員が役割分担しながら、なんとか罠を完成させた。それを軽く解体してから全員で運搬し、もう一度例の釣り場へと搬入する。
俺達は、魔力溜まりのすぐ近くまで来ていた。アランが辺りを見渡しながら言う。
「ここが魔力溜まりか? 別に何もない場所なんだな」
みんな同じような反応をしていたが、俺だけは違った。全身をざわつかせる異様な空気と、やけに高ぶる胸……間違いなく、ここに何かがあると感じさせる。そんな場所だった。
それに、昨日よりもその力が大きくなっていると感じる。魔力溜まりは自然現象の一部と言われているが、その力が次第に大きくなったり、あるいは消滅することもある。
釣り人達が大物が釣れなくなったと感じた後、レオやシオ、アラン達が何も釣れなくなったことを考えると、この魔力溜まりの力は増加しているのがわかる。
俺達は、用意した罠を、魔力溜まりのほとりにセットすることにした。各パーツを木に括りつけ、中央には釣った魚の残りを置いた。
俺達の考察として、昨日夜になって大型の魔獣が湖から出てきた理由は、食事のためではないかと考えた。
魔力溜まり周辺に多くの魚が集まっていたので、あの魔獣もそれを食べるために地上に出たのではないか。ならば、この罠は効果的なはずだ。
しかし、俺達はあることを見落としていた……が、それに気づいた時にはもう、戦いは始まっていた。
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