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 湖に向かう途中、大きな荷物を持たされていた俺とアランだったが、彼は疲れたのか愚痴り始めた。



「レオとシオに交代させないか? この荷物重すぎるぞ」



 レオは笑いながら、荷物を受け取って言った。



「勉強ばっかしてるからだろ」


「なんだと!? 勉強せずに依頼ばっかり受けてる奴に言われたくない」


「ここでは経験が物を言う。今のうちに俺に媚を売っておくことだな」



 シオも俺の荷物持ちを交代してくれた。



「レオさんに友達ができて嬉しい」



 レオとアランは首を横に振って否定したが、シオはそれを無視して「僕も友達ほしいな」と言っていた。ここで「俺でよければ」と名乗り出るような気分ではなかったが。


 その光景を見ていたネルは申し訳なさそうに言った。



「ごめんね、みんな疲れたら私も荷物持つから」



 しかし、俺はそれを拒否した。恐らくみんな同じ気持ちだろう。



「メインヒーラーの体力は温存しておくべきだ。荷物くらいは戦闘組が持つ」


「め、メインヒーラー……?」


「そうだ。回復魔法を一番うまく使えるからな」


「私にできるかな?」


「ネル以外にできるやつがいない」


「そっか……!」



 ネルは少し嬉そうだった。勉強会が始まった時もそうだったが、彼女は自分の役割を持つことに憧れているように思う。それは、今まで散々な扱いを受けてきたからだろう。


 少し気の毒になった俺は、ネルの隣に立って言った。



「みんなお前を信頼しているからな」


「そうなの……?」


「あぁ。少なくとも俺はそうだ」


「ありがとう、優しいね。クロード」


「みんなもそう思うだろ?」



 すると、レオが言った。



「この中で一番成績が高くて、魔法の腕も良いと評判だ。背中を預けられるヒーラーって感じだな」



 ナイスだ。俺の考えをくみ取ってくれたみたいだ。また、シオもそれに同意した。



「怪我したらよろしく。しないけど」



 そして、アランは……小さく「以下同文だ」と言った。みんなから信頼されていると知ったネルは、少し照れくさそうだった。



「私、頑張るね」



 彼女は今まで、ずっと居場所がなかったのだろう。もしかするとあの日、俺に食べられたがっていたのはそれが理由なのかもしれない。でも、勉強会という居場所ができた。それに俺も……彼女の居場所になっていたら、いいな。



 そんなことを考えていると、例の湖に着いた。太陽の光がキラキラと反射する水面は、水平線となって森の方へと続いていた。空気すらも透き通った、心地のいい空間だった。ここに魔獣が潜んでいるとは思えないな。



 そして、例の小屋もすぐに見つかった。木製で、デッキが備え付けられた建物だった。



 正直、旅行みたいでワクワクしていた。魔法学園の生徒は、休みの日にこういった湖のほとりや海に行って釣りや泳ぎを楽しむと聞いたことがある。



 そして、俺達は小屋に入り、荷物を搬入すると、各々の部屋を割り当てたり設備の確認などをした。調理場が建物内にあるが、デッキで魚などを焼いたりできるグリルもあった。よって、今夜の夕飯はこれにしようと決めた。



 俺達はデッキで湖を眺めながら、しばしの休憩をすることにした。しかし、あまりにもみんながリラックスしているので、一応代表して作戦会議を始めることにした。



「作戦会議をしておく。夜になったら俺、レオ、シオ、アラン、ネルの順番で交代で眠って張り込むことにする。魔獣の討伐方法だが、俺とアランが遠距離で魔法を当てて牽制しつつ、レオとシオが接近戦に持ち込む」



 俺はネルの方を見て言った。



「もし怪我人が出たら治療できるよう、ネルは魔法をなるべく使わずに待機だ」


「わかった」



 そして、次にアランの方を見て言う。



「遠距離魔法は何が使える?」


「火、水、氷……ぐらいか」


「魔獣の苦手な魔法を見極めて当てるようにしろよ」


「言われなくてもわかってる」



 レオとシオに向かい、警告しておく。



「接近戦に持ち込む二人が一番危険だ。怪我する前に退散することも選択肢として用意しておくことだ」



 二人は強く頷いた。


 作戦会議も終わり、俺達はとうとうやることがなくなってしまった。そして、誰が言い出したわけでもなく、釣りの時間が始まった。経験者であるネルが竿の使い方を指導する。


 やがて、三つのチームに別れて、どのチームが沢山釣れるかの競争になった。



 そして、レオとシオのチームが真っ先にボートに乗り込む。どうやら湖の真ん中で釣るつもりだ。少々ずるい気がするが、まぁいい。


 アランチーム(一人なのにチーム?)は丁度いい岩を見つけ、そこから釣るようだ。



 出遅れた俺とネルのチームは湖のほとりを散策しながら丁度いい釣り場を探す。ネルはとても楽しそうだった。もちろん俺も、この状況を楽しんでいた。



「しかし、懐かしいな。ネルとこうして湖岸を歩くのは」


「……え? 私と?」


「あ……なんの話をしているんだ、俺は。今回が初めてだよな、湖に来たのは」


「そのはずだけど……」



 一体どうしたんだろう、俺は。懐かしい? ネルと湖岸を? そんな記憶は少しもないはずなのに。そもそも学園の近くに湖はないし……もしかすると疲れているのかもしれないな。



「ところでネル、できれば一番大きな魚を釣って他のチームを驚かせたいんだが……いい釣り場の見分け方はなんだ?」


「うーん、そうだね。勘かな?」


「勘?」


「そう。ビビっと来たら、そこがいい釣り場だよ」


「そうなのか……」


「信頼してない顔してるね? 大丈夫、ちゃんと釣れるから────ほら! あそことかどう?」



 ネルに言われた場所は、何故か俺が気に入らなかった。逆に、俺が反対方向を指差して言った。



「あっちがビビっときたぞ、俺は」


「じゃあそっちにしてみる?」


「あぁ。ダメだったら変えよう」



 そして、俺達は一チームに一つ用意された釣り竿に餌をつける。


 ネルがそれを湖に投げ入れて……しばらくすると、浮きがピクリと反応した。やはりここに魚がいるようだ。



「ネル、浮きが……!」


「待ってね、まだ食いついてないみたい。落ち着いて待つよ」


「おう、わかった」



 その瞬間、浮きがぐっと沈んで、ネルが竿を引き上げた。そして、水面から大きな魚が姿を現す。


 ネルが釣ったその魚は、俺の手のひらほどのサイズの大きな魚だった。その魚を片手に、ネルは渾身のドヤ顔を見せる。



「ここ、いい釣り場だよ……! クロードの勘と私の技術なら、優勝間違いなしだね!」


「勝ったな」


「えへへ、これで他のチームを圧倒しよう!」



 俺達は時間を忘れて、魚を釣り続けた。


 持ち帰るのが大変なほど釣った俺達は勝ちを確信していたが……その後、この釣り大会によって新たな事実が判明することになるとは思いもしなかった。

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