結果
試験の結果と総合成績が発表される日。今日は授業のない休日だが、皆成績発表を見るために学校へ向かっていた。
寮を出た俺は、建物の前で待ち合わせていたネルと合流した。
「おはよう、クロード。朝から会うのは初めてだね」
「そうだな……って、随分と眠そうだが」
ネルは大きくあくびをして、目をこすりながら答えた。
「昨日眠れなくってさ」
「何故だ? 雷でも鳴っていたか」
「違うよ! 今日の成績発表が心配だったの。学イチのチャンスもあと僅かだしさ」
「そうか。そう言われると俺も少し緊張してきたな」
「でしょ。それにクロードはアランくんとの勝負もあるんだから」
「確かに……」
勢いで受けてしまったアランとの決闘。今回の順位次第では、奴に何か命令される羽目になるのか。それは悔しいし、できれば避けたい。
「じゃあ、行こっか。掲示板のとこ」
「そうだな」
俺は、心地よい朝日が降り注ぐ魔法学園の道を、二人で早足で歩いた。俺が学イチをもし獲ることができたら、ネルはきっと助かるだろう。逆に、彼女が獲ったとしてもそれはそれで仕方ないと思える。
だが、アランにだけは負けたくない。俺は少しだけ鼓動が早まるのを感じた。
そして、人だかりができた掲示板の前までやってきた。それをかき分けて前へ進み、掲示されている順位を下から読んでいく。
四位、アラン。
三位、クロード。
二位、ネル。
一位、シア。
学イチの権利を手に入れたのは、不登校でまったく目をつけていなかったシアだった。確かに彼女は優秀過ぎる魔法使いだと聞いていたが、学校にほとんど行かずに学イチを獲得するとは……予想外だ。
完全に、俺かネルかアランのうち誰かがそれを得ると思っていた。
隣にいたネルの方を見ると、少し……いやとても残念そうにしていた。俺と目が合うと、苦笑いしてみせる。
「一位、獲れなかったよ」
「そうだな。まさかシアが一位になるとは」
「残念だね……次は来年かぁ」
「仕方ないな。ちゃんとネルは頑張ってたし」
「そうだね。うん、まぁ……仕方ないか」
そんなに残念そうにするなんて、一体学イチの権利をどうするつもりだったのだろう。聞きたくなったが、以前秘密だと言われてしまったので聞けなかった。
俺達は掲示板のある広場を後にすると、学園の道の脇にあるベンチで休憩することにした。
「そういえばジルとリリー、それからレオにシオも、みんな成績は悪くなかったよな」
「退学は回避できたみたいだね。それに、シオくんは結構順位も高かったよ」
「だから勉強会に参加しても植物の本ばかり読む余裕があるんだな。というかアイツはなんで参加しているんだ?」
「さ、さぁ……」
そういえば、試験のことばかり気にしていて忘れていたが、そろそろ学園祭か。
「ネル、学園祭が近づいているな」
「うん、そうみたいだね」
「やっぱり楽しみだったりするのか?」
「うーん……去年までの学園祭にいい思い出も悪い思い出もないな。その、誰とも一緒にまわったりできなかったし」
「なら、今年は俺とだな」
「えっ! いいの?」
「当然だろ」
人間のことを教えてくれると言ったのはネルのほうだろ。学園祭を通して、何か学ぶことがあるかもしれないからな。それに……ネルと一緒なら楽しめそうだ。
「嬉しいな……今年は楽しくなりそう」
「そうだな」
「えへへ……」
ネルは恥ずかしそうにして、すぐさま話題を変えた。
「と、とにかく! クロードはアランくんの決闘に勝ててよかったね」
「あぁ。安心したよ」
すると、遠くでとぼとぼと歩く人の影が見えた。それは、間違いなくアランだった。いつもの威勢はなく、ただ一人ゆっくりと歩いている。俺は思わず声を上げた。
「おい! アラン」
彼はこちらに気づくと、嫌そうな顔をしたが……決闘のことを思い出したのか、こちらに近づいてきた。
「なんだよ、クロード。俺をバカにするつもりか」
「そんなくだらないことで呼ぶわけがないだろう」
「決闘に勝ったから命令するのか」
「それはまぁ、そうだな。さて、何を命令しようか」
「くっ……」
アランは今にも泣き出しそうな表情をしていた。追い込まれた魔獣のように弱々しくて……何か意地悪な命令をしてやろうと思っていた気持ちも薄れてしまった。
「アラン、この後俺達は勉強会組で朝食をとるんだ」
「払えってか……? 俺は金なんか持ってないぞ」
「それは違う。つまり俺の命令は『一緒に朝ごはんを食べろ』ということだ」
「なっ……」
アランは動揺した様子だった。
ネルは隣でふふっと笑った。
「出た、クロードの『ごはんに誘う』攻撃だ!」
「なんだそれ」
「クロードの必殺技だよね」
「ないぞ、そんなの」
アランは複雑そうな表情を見せた。
「俺と食事なんてして楽しいわけないだろ……」
「それはお前次第だろ」
「断ることは……できないのか」
「それもお前次第だ。何せ、お前が決めた決闘のルールだからな」
「くっ……」
俺は立ち上がって、彼に合図した。
「約束を守る気があるならついてこい」
「クソっ……分かったよ!」
ネルは俺の後ろに、そしてさらにその後ろにアランがついてきた。ちゃんと約束を守る気はあるようだ。
しかし、何故俺は彼を食事に誘ったのだろうか。ネルの言う通り、俺はまるで得意技かのように彼を食事に誘った……そうか、気の毒だったんだな。あんなに強気で勝負に挑んできたアランが落ち込んでいる姿に、少し違和感を覚えたのかもしれない。
食堂へ向かうまでの間、アランは終始ソワソワしていた。いい気味だな。




