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午後の実技試験は順調だった。魔力量の多い俺からすれば、ここが一番の腕の見せどころである。張り切って取り組んだ結果、久々に疲れてしまった。
放課後、勉強会は三つに別れて解散した。ジルとリリーは購買へ、レオとシオは旧・薬草学棟へ、俺とネルは食堂へと向かう。
今日の試験の結果は、数日後に集計されて発表されるらしい。学校の中心にある掲示板に大々的に順位が掲載される。ジルは以前、その掲示を見て俺のこと知ったという。
ネルと、今日の試験について話しながら歩いて、食堂までたどり着いた。先ほどまで勉強会組で反省会をしていたので、夕飯を食べに来ていた人たちはほとんど帰ってしまったみたいだ。ゆえに食堂は、俺とネルの貸し切り状態だった。
ネルはメニュー表を見ながら小さく言った。
「このニガウリのソテーってメニュー、前に学イチを獲った人が頼んで生まれたんだよね」
「もう卒業しているらしいがな。人気があるから残っているらしい」
「学イチ、ずっと他人事みたいに思ってたけど、いざ狙うとなると緊張するよ」
「そうだな。今年獲るとすれば、俺か、ネルか、もしくはアラン……」
「あの人には獲られたくないね! 今日の昼も、なんだか勉強会の悪口みたいなことを言われちゃったし」
「そうだな」
ネルは、カウンターでニガウリのソテーを注文した。俺も、同じくそれを注文する。
「クロードがこれ頼むの珍しいね?」
「渋みがあって苦手なんだよな」
「でも食べるの?」
「あぁ、なんとなくな」
俺達は完成した料理を受け取ると、近くの席につき食事を始めた。しばらくしてから、ネルに聞いてみた。
「俺が学イチを獲ったら、悔しいか?」
「ううん……あ、いやぁ……悔しいは悔しいかもね。でも、今回は私も全力で取り組んだから負けないよ!」
「そうか。結果発表が楽しみだな」
すると、背後で食事の扉が開いた音がした。見ると、白衣を着たシーナ先生がやってきたところだった。
そうか、先生でも食堂は利用するもんな。俺は手を挙げてシーナ先生を呼んだ。こちらに気づいた彼女は、「注文したら行きます」とジェスチャーで合図して、カウンターへと向かった。
その後、俺達の席にやってきたシーナ先生もまた、ニガウリのソテーを頼んでいた。
「クロード、試験はいかがでしたか?」
「俺はまぁ、やれることはやった」
次に、彼女はネルの方を向いた。
「ネルはどうです?」
「私も頑張って取り組みました。これで二位以下でも悔いはありません」
「そうですか。みんな偉いですね、真面目に勉強していて」
「先生も学生の頃はそうだったんでしょう?」
シーナ先生は首を横に振った。
「クエストに明け暮れていました。何せ、学費を自分で稼がないといけなかったので……」
クエストか。今のところ受ける気はないが、いつかやるときが来るのだろうか。そういえば、シーナ先生は冒険者によくスカウトされていたと聞いたが、やはりそれぐらい魔法使いとして優秀だったのだろうか。
「シーナ先生は魔法の才能があったのか?」
「いいえ、才能は多分ありませんでした。でも、人一倍訓練しましたね」
「そうなのか」
「私にも師匠のような存在の人がいるんですが、彼女も努力家でした」
「そうか。それに比べて俺は、魔獣の魔力量に頼ってばかりだからな」
「そんなことはありませんよ」
シーナ先生は食事の手を止めると、俺に言った。
「生まれたての魔獣には、さほど魔力量がないのを知っていますか? そこは人間も同じですが……とにかく、魔獣は過酷な世界を生きるために狩りの仕方を学び、体内に魔力を蓄える術を学ぶんです」
「そうなのか」
「だからきっと、クロードも努力してきたのでしょう。というより、あなたがそれを一番よく知っているはずでは?」
「いや、その……最近、魔獣だった頃の記憶が消えていってるような気がするんだ」
「ほう? 魔獣としての記憶が?」
シーナ先生の表情が少し変わった。
「これって変なのか?」
「人間の姿になって人間の言語を話すようになった時点でクロードは相当変です。ま、他にも変化があった場合にはすぐ教えてくださいね」
「そうするよ」
すると、ネルがシーナ先生に質問した。
「それって、クロードが〝人間に近づいている〟と捉えることもできませんか?」
「確かに。そう言えなくもないですね。まぁ、私もその手の事象に詳しくないのでなんとも言えませんが……ただ、魔獣が人間になるという話は聞いたことがないのでね」
「そうですか。というか、シーナ先生はどうしてクロードの正体を知っていて、それを見守っているんですか?」
シーナ先生は「それは……」と言おうとして、やめた。そして、しばらく間をおいてから、意地悪そうに言う。
「安心してください。クロードのことを取ったりはしませんから」
「な、なんでそうなるんですか! 少し気になっただけです!」
「まぁ、いつか教えてあげますよ。それまでクロードも黙っていてくださいね」
何故話してはいけないのだろうか? まぁ、そんなこと言われなくてもシーナ先生と会ったときの記憶すらもほとんど覚えていないからな。気がつけば俺は学園で生活していて、彼女に正体を知られていたからな。
ネルは少し不満そうにしていたが、シーナ先生はそれ以上何も話さなかった。先にソテーを食べ終わった先生は、すぐさま食器を返却し、食堂を後にした。
シーナ先生は不思議な人だ。よく考えれば、何故魔獣である俺を気にかけてくれているのだろうか。




