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繊細な作業

 アランに話しかけられてから数日経ったある日。実技の演習があるとのことで、魔法学園内にある大きなグラウンドにクラス全員が集まっていた。今日は俺の得意な火魔法を使った授業らしい。しかも、かなり重要な回だと先生が言っていた。


 こういったところで実力を発揮できれば、成績アップにもつながる。俺は張り切っていた。



 対して隣にいたジルは、不安そうにしている。



「なぁクロード、こんなことならお前に火魔法を教わっておけばよかったぜ」


「なんで教えてもらえる前提なんだ? というか授業で散々やっただろ」


「あのなぁ。授業で習ってもできない奴はできないの。それが俺ってわけ」


「なんで偉そうなんだよ……?」


「は? 偉くないんだが」



 ネルやリリーは別のクラスのため、演習は別の時間に行われるらしいが、まぁあの二人はうまくやるだろう。肝心のジルは、正直退学ギリギリなので今回の演習で活躍してほしいところではある。が、彼は魔法が(魔法も?)大の苦手なのである。



「ジル、始まるまでの間にコツを教えてやるよ」


「お、助かるぜ!」


「火魔法はその性質上、魔力を沢山消費するのは知ってるだろ?」


「知らん」


「そう、だから火魔法を使う時は少し大げさなくらい魔力を込めるのが正解なんだ」


「魔力量のバケモンらしいコツだな。まぁ、頑張ってみるよ」



 魔力量のバケモノね……まぁ、確かに魔獣ではあるから間違ってはいないな。ここで「魔法のコツは夜な夜な森に出向いて魔獣を狩ることです」なんて言えないが。


 ……ジルが俺の正体を知ったら、どう思われるだろう。少なくとも友達ではいられないだろうな。



「で、ジル。もう一つコツがあるんだが……とっておきのやつだ」


「ほう! なんだなんだ!」


「〝気合〟でなんとかなると思い込め」


「はぁ!? 根性論かよ。クロードらしくない」


「まぁ待て。魔力のコントロールは非常に繊細な作業だと聞いたことがあるだろ? その作業に集中するには安定した精神が必要になるわけだ」


「な、なるほど」



 そう、魔法とは体内に潜む魔力をコントロールして発動するものである。それをうまく操るには、テクニックや魔力量の他に、心の安定が必要不可欠なのである。こんな俺でも、試験や実技の前では深呼吸をするようにしているからな。



 やがて、先生の声が響いて、全生徒が静かになった。どうやら一人ずつ順番に、実技の軽いテストのようなものをするらしい。大股十五歩分ほど先にある金属製の鎧に、火魔法をうまく命中させる、といったものだ。


 森の中でネルを助けた時より簡単だ。しかし、クラスは騒然としていた。コントロールが難しいとされる火魔法をあんなに小さな的に当てるのは無謀なのではという声もあった。


 同様に、ジルも怖気付いているようだった。



「なぁクロード……今回はムリかも」


「諦めるのが早いぞ。リラックスしろ」


「リラックスねぇ。ふー、リラックス! 今日の夕飯について考えよう」


「そうだ。それでいい」



 そういえば、ジルは回復魔法を使いたくてこの学園に来たんだったな。魔法の操り方はすべて共通している部分があるから、こういった実技は真面目に取り組んでもらわないとな。


 しかし、回復魔法か。



「ジル、お前なんで回復魔法に惹かれたんだ?」


「日替わり定食にしようかな」


「聞いてるのか?」


「聞いてないが? というか、クロードは今日夕飯一緒に食うか?」


「聞けよ……まぁ食うが」



 今日は勉強会組で食堂にでも行こうか……とにかく、今は実技テストに集中しよう。



 先生が最初の生徒を名簿順に指名し、テストが始まった。皆緊張している様子で、最初に受けることになった生徒は、うまく火の球体を作ることができずに失敗していた。次々と失敗していく生徒たちの姿を見て、ますますジルは不安そうになった。



「なぁクロード、やっぱりムリかも……」


「俺も日替わり定食にするか」


「聞いてるのか?」


「聞いてないが。それより夕飯一緒に食うんだろ?」


「……そうだよな。夕飯、夕飯っと」



 ジルは基本的にバカなので(酷い言い様ではあるが事実だ)緊張してもすぐ立ち直れるはずだ。そこが彼の強みでもあるんだから、俺が引き出してやらないと。



 やがて、俺の番が回って来た。


 沢山の生徒に見守られる中、前に出て、配置につく。確かに、ここから見れば的となる鎧はかなり遠く感じる。しかし、相手が動かないだけマシだと思う。ここは一つ、成績のためにも派手にやってみよう。



「ではクロード、始めてください」



 先生の合図と同時に、俺は手に魔力を込めた。大量の魔力を火のエネルギーへと変化させ、それを球体状にする。その大きさは、他のどの生徒よりも大きく、そして熱く────。



 俺はその球を、的に向かい放った。高速で飛んでいったそれは、すぐさま着弾し、周囲に砂埃を巻き上げて爆散する。その拍子に爆音が轟いた。


 俺が自信満々で先生の方を見ると、少し嫌そうな顔をされた。



「クロード、頑張りすぎです」



 見ると、先生が設置した鎧の的は炎の熱により溶けてしまっていた。火魔法をぶつけても問題ないよう金属の的にしたらしいが、確かにこれは〝頑張りすぎ〟だ。だが、それくらいで丁度いい。これも、学イチに繋がる大切なアピールだからな。



 俺は列に戻り、先生が新しく的を用意する間、ジルに問いかけた。



「どうだ? できそうか」


「……聞こえてたか? お前が的を破壊した時歓声が上がってたぞ」


「そうだったか?」


「あんなの見せられると自信無くすぜ……」


「無くすなよ。さっき言ったコツと、安定した精神と、今日の夕飯を忘れるな」


「そうだな。日替わり定食、日替わり定食っと」



 ふと、視線を感じて見上げると、グラウンドに面した背の高い校舎のバルコニーに、アランの姿があった。どうやら俺の実技テストの様子を見ていたらしい。


 ジルもその存在に気づいて首をかしげる。



「誰だ、アイツ。ずっとクロードのこと見てるけど、ファン?」


「そんな馬鹿な。アイツはアランという、同じく学イチを狙ってる人間だ。というかお前が俺に教えてくれたんだったな。忘れたのか?」


「いや、名前と特徴だけ有名だから知ってたんだけど……確かにイケメンだな、アイツ」


「羨ましいか?」


「おう! 羨ましすぎてキレそうだぜ」



 そんな会話をしていると、今度はジルが先生によって指名された。彼は先ほどまでとは違い、緊張している様子だった。みんなの前に立って、余計にそう思ったらしい。


 ジルが振り返り、俺に目を合わせる……そこに、視線で「夕飯は日替わり定食」と合図を送ってやった。彼も「そうだよな」と頷いて、前を向いた。



「ではジル、始めてください」



 ジルは手のひらを天にかざし、しばらく動かないでいた。あまりにも何も起きないため、先生が「やめ」と言おうとした瞬間────ジルの頭上には、俺の出した火の球と同じくらい大きなものが出来上がっていた。彼は手を振りかざし、的に向かいそれを放つ。



 生徒達がざわめき、遠くの地面に火の球が着弾する。見ると、それは的に少しかすったぐらいで、直撃はしなかったようだ。


 しかし、先生や他の生徒達は関心している様子だった。ジルの普段の行動や試験のことを知っているからこそ、彼の放った火魔法の凄さが際立っている。



 俺が「言ったろ? コツをつかめばできるんだよ」と言った瞬間────ジルはその場に倒れ込んだ。皆がまた、ざわつき始める。俺は彼のもとに駆け寄り、様子を見た。彼は朦朧としながら「なんだこれ……眠い」と言っていた。この症状には覚えがある。



「先生……どうやらジルは魔力切れらしい」


「ほう、今ので使いすぎたんですね。ならばクロード、彼を医務室へ連れていってくれませんか?」


「わかった」



 俺がジルを、以前のネルのように持ち上げようとすると、彼はそれを拒否した。



「おい! バカ! やめろ、俺は歩いて行く!」


「そうか。急に元気になったが……大丈夫なのか?」


「いいか、そういうのはネルさんのために残しておけ」


「どういうことだ?」


「お前って本当規格外だよな……じゃあ行くか」


「あぁ」



 俺達はゆっくりと歩きながらシーナ先生のいる医務室へと歩き出した。


 ジルはかなり疲弊した様子だったが、少し誇らしげだった。俺も、同様に誇らしい気持ちで一杯だ。やればできるじゃないか。俺の教え方ももちろんだが、これは彼の努力が導いた結果でもある。



「なぁジル」


「なんだよ?」


「お前ずっと魔法の練習してきただろ?」


「……なんだよ?」


「あのサイズの火の球を作るのにどれだけの魔力が必要か、お前も知ってるだろ? 例え底をつきたとはいえ、努力してきたからこその魔力量じゃないか」


「……」



 ジルはよそ見をしながら言った。



「あんま褒めんなよ……照れるだろ」


「褒められたらちゃんと受け止めろ。この照れ屋め」


「はいはい、ありがとな」



 ジルは満足そうに頷いた。

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