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大切な時間

 勉強会が終わり、暗くなった頃、各々が別れ、寮に帰ることになった。俺はいつもと同じく、ネルと二人きりになる。慣れたはずの、図書館から寮にかけての道だが、それが故に心地よい不思議な感覚を味わった。


 ふと、ネルが言う。



「ねぇ。レオくんとの一件で忘れてるかもだけど、そろそろ試験だね」


「あぁ、確かに。レオと決闘なんかしてる場合じゃなかったな……」


「そんなんだと、私が学イチとっちゃうよ?」


「負けてられないな」



 俺は帰ってすぐに予習でもしようと心に決めた。


 しかしながら、あの日ネルが「一緒に帰ろう」と言って俺を探し回ってくれなければ、この時間も無かった……それどころか、勉強会もなかったと思うと少し感慨深いな。


 願わくば、なるべくゆっくり歩いてこの時間を堪能したいとこだったが────そうはいかなかった。


 突然、背後から話しかけられたのだ。



「こんなところで出会えるとはな。五位、七位」



 俺が振り返ると、そこには背の高い細身の青年が立っていた。



「正確にはネルとクロードだっけか?」


「誰だお前?」


「知らないのか? ……自分より上位の相手は把握しておけよ、クロード。俺はアラン。前回六位を獲った者だ」


「ほう? 確か前にネルからお前の話を聞いたぞ。で、何の用だ」



 アランは腕を組んで、偉そうに言った。



「用なんてないさ。偶然ライバル二人がコソコソなにかをしていたから、声をかけてみただけだ」


「はぁ……ライバルねぇ」


「知ってるぞ、お前らが『勉強会』などというくだらない方法で俺を出し抜こうとしてるってな」


「……もしかしてそんな適当なことを言いにここまで来たのか?」



 俺はなんだか気が抜けて、アランと話している価値すらないように感じてしまった。俺が彼から視線を外して歩き始めると、ネルも後からついてきた。


 そして、背後から聞こえる言葉を半ば無視しながら進む。



「ネルにクロード! 学イチは俺が獲るから覚悟しておけよ!」



 俺は前を向いたまま、あえて聞こえるような声で呟いた。



「獲ってから言わないと後々恥ずかしいぞ」


「なんだと!? 今に見ておけ」



 しかし、彼が俺達を追ってくることはなかった。半分喧嘩を売られたようなものだが、あまり気にしないでおこう。あぁいうことを言う人間にろくな奴はいない。何より、勉強会のことを悪く言ったんだからな。



 しばらく歩いてから、男子寮と女子寮の分かれ道でネルが言う。



「変な人だったね、アランくんって……」


「そうだな。せっかくの大切な時間を邪魔されてしまった」


「た、大切な時間!?」



 ネルは大げさなリアクションを見せた。



「なんだ、違ったか?」


「ううん! 大切だよ! 私にとってはそう……でも、クロードも同じだったんだね。よかった」


「人間のことも勉強のことも、ネルに教えて欲しいことは沢山あるからな」


「そっか。私頑張るよ」



 ネルはなんだか嬉しそうにしていた。何がそんなに嬉しかったのかは不明ではあるが、彼女の機嫌が良いのとこっちまで嬉しくなる。人間は、どうやらそういう特性があるとは聞いていたが……実際になってみると不思議な感覚だ。



 そういえばあれから数日経つのに、腹が減ってないな……?

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