有名な不良
次の日の放課後になった。ジルが隣で教科書を片付けながら、教室の入口の方を見る。そして、驚いたような顔をして俺に耳打ちしてきた。
「なぁ、クロード。教室の外にいるアイツ、この学園で有名な不良だよ。なんでこのクラスに来たんだ……?」
見ると、外にはレオがいてこっちを見ていた。どうやら約束はちゃんと守るタイプらしい。
「有名なのかアイツ」
「バカ! 声がデカいって! ……逆の出口から静かに退散しようぜ」
「その必要はない」
俺がレオのところまで歩いていくと、ジルは「やめとけって」と言いながら少し距離を置いてついてきた。
「ネルはまだ来てないみたいだからもう少し待っておけ」
レオはこちらを見ると、不服そうに頷いた。
「あぁ」
すると、後ろからジルが小声で言った。
「知り合いだったのか?」
「まぁ、一昨日くらいから」
「クロード、お前って本当規格外だよな」
「そうか?」
レオは不満そうに言った。
「誰だソイツ?」
「俺の友達のジルだ」
「ほう? クロード・ファミリーってやつか」
「そんなダサいものじゃない。友達だ」
「なんだと? 昨日の続きでもやるか?」
「またお前が負けるからやめとけ」
レオは拳を震わせて、今にも殴りかかろうといった感じだったが……拳が飛んでくることはなかった。俺には敵わないと悟ったのか、それともここが教室だからだろうか。
すると、ようやくネルが現れた。いつものように俺たちに駆け寄ってくるが、レオの姿を見て顔をしかめていた。
「クロード、この人って……」
言いかけた瞬間、レオがネルに頭を下げた。その瞬間、教室中の視線がこちらに向いて、この空間が静かになるのがわかった。皆が何も言わない中、レオはネルに向かい謝罪した。
「ネル、すまなかった……お前が呪われているなんて言って」
俺は満足したので「それでいい」と言って頭を上げさせた。すると、顔を真っ赤にしたレオは、そそくさと何処かへ行ってしまった。彼にもプライドというものがあるのだろう。しかしまぁ、自業自得か。ネルに悪口を言った時点でお前の負けだったんだよ。
対して、ネルは唖然としていた。俺やジルの方を見て「事情を説明してくれ」と言わんばかりの顔をする。ジルも首を横に振って「俺は何も知らない」とアピールした。
よって、俺が説明することにした。
「俺は昨日レオと決闘した。賭けたのは『ネルに謝る』という権利だ」
「決闘したの!? 暴力はダメって言ったのに!」
「安心しろ。暴力はしていない。奴が一方的に殴ってきたのをヒールし続けて、スタミナが切れるまで耐えだけだ」
「殴られたの……? 抵抗もせずに?」
「あぁ、すごいだろ」
これはネルに褒められるかもしれない。俺としても、良い選択だったと思う。暴力もせずに決闘に勝つ。これで完璧だ。
「クロードが殴られていたって聞いてゾッとしたよ」
「そうか? でもヒールしたし……」
「そんな戦い方しないでよ。私は別に悪口を言われたところで気にしないから、だから決闘も受けなくて良かったと思う」
「そうか? でも俺が勝った」
「勝ち負けじゃなくて、クロードが危険な目に遭う方が嫌なの」
俺が助けを求めるようにジルの方を見ると、彼は首を横に振った。
「クロード、あのレオに勝ったのはすごいけど……それ以前にお前変だよ。ネルさんの言う通り、自ら危険に飛び込んでいくのは馬鹿げてる」
「……」
「ネルさんに心配かけた分、お前も謝ったらどうだ?」
俺はネルに小さく「すまん」と言った。少々不満ではあった。せっかく勝ったのに褒めてもくれないし、俺が間違っていると言われるし……でも、俺にはわかる。ネルもジルも、俺のことを心配してくれているんだな。
「次からは気をつけるよ」
そう言うと、二人は満足そうに頷いた。




