決闘
次の日の放課後。ネルはさらに別の用事があるとかで、俺は先に帰ることになった。丁度いいので、俺は例の広場に行ってみた。すると、一人の男を連れてレオがやってきた。恐らく、ソイツが決闘委員会の人間だろう。
その場が一瞬静まり返り、風の音が聞こえた。
「逃げなかったか、クロード」
「レオだっけか。今日から最強を自称できなくなるから覚悟しておけよ」
「言っとけ」
レオは連れてきた男に言った。
「委員長、俺は『クロードが学イチを手に入れた場合、俺に譲渡する』という権利を賭ける」
「かしこまりました」
委員長と呼ばれるスラッとした青年は軽く会釈して、次に俺のほうを見た。恐らく決闘委員会の偉い人物なのだろう。それくらいしか分からないが。
「あなたは何を賭けます?」
「『レオがネルに謝る』権利だ」
「かしこまりました」
委員長はまた会釈して、俺とレオの中心に立った。そして、制服の胸ポケットから紙を取り出すと、それを読み上げ始めた。
「これは、決闘です。殺し合いではありません。審判である私が勝敗を決め、それを拒否することは許されません。また、いかなる場合でも、賭けた権利を放棄することは許されず……」
長い説明が終わり、ついに決闘が始まろうとしていた。緊張はしていない。ただ、血が昂っているのを感じる。魔法も授業や試験以外ではあまり使う機会がないからな。少し楽しみだ。
対面するレオも笑みを浮かべていた。きっと、同じ気持ちなのだろう。
委員長が手を天高く掲げ、勢いよく振り下ろした。
「始めっ!」
その瞬間、レオはこちらに向かい真っ直ぐに走ってきた。そして、拳を突き上げ、俺の顔面に振りかざす。魔法ではなく、己のフィジカルで勝負するつもりらしい。
俺はそのパンチをもろに喰らい、頬には激痛が走った。なるほど、確かに強いな。
俺はすぐさま体勢を立て直し、殴られた頬をヒールした。すると、次は腹部に蹴りが飛んでくる。それもまた凄まじい威力だ。
俺がそれをヒールすると、今度は別のパンチが飛んでくる。俺はそれをヒールし、次のパンチをすぐさまヒールした。
「どうしたクロード! 受け身でいいのか!」
レオの放つ攻撃を、俺は全て受け、その度にヒールした。何度でも受け、何度でも回復する。それを繰り返して、ひたすら耐え続けた。
レオの表情は曇り始め、段々息切れしている様子だった。
「ハァ、ハァ……クソ! 反撃でもしてみたらどうだ!」
「生憎、ネルに言われているんだ。暴力はダメってな。だから、お前のスタミナが尽きるまで殴られてやる」
「なんだと!?」
「俺の魔力はそうそう切れないぞ。さぁ、殴ってこい」
レオは挑発に応じ、また攻撃を再開した。しかし、徐々にその威力は落ち、スピードもキレもなくなっていった。
「ハァ、ハァ……」
「どうした。終わりか?」
「クソ……」
レオは弱々しいパンチを繰り出すが、もうヒールもしなくていいほどの威力しかなかった。
「レオ、お前の負けだ。降参でもしたらどうだ?」
「いや……俺は負けてねぇ!」
「そんなヒョロヒョロなパンチで今から俺に勝てるとでも?」
「うるさい! 俺は最強なんだ!」
レオは俺に殴りかかろうとするも、力が抜けて倒れそうになっていた。俺は彼の身体を支え、審判である委員長の方を見た。
「結果、クロードの勝利!」
委員長のその言葉で、レオは完全に負けを悟ったようだった。
「クソ……」
そして、ヨロヨロと立ち上がると俺に言った。
「……ネルのところへ案内しろ」
「今日、彼女は用事があるらしい。明日の放課後、俺の教室まで来い」
「……」
無傷だが、心がボロボロになったであろうレオは、俯いたままその場を去っていった。委員長も、いつの間にか居なくなっていた。
広場はすっかりと夕暮れの朱に染まっていた。伸びた日時計の影が、もうすぐ日が暮れることを知らせる。
「腹減ったな……」
俺は独り言をこぼして、森の方へと向かった。




