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侵入者

 広場に着くと、多くの不良たちがぐったりとして地面に座り込んでいた。恐らく、侵入者の闇魔法により戦意が喪失したのだろう。ここまで強大な魔法を使いこなすとは……。


 すると、地面に倒れていたレオが俺にか細い声で呼びかけた。


「クロード……来たのか」

「あぁ。それで、ネルと侵入者はどこに?」

「そこに……」


 レオが指さした先は、広場の中央。かつて何度も決闘を行った場所だ。怪しげな仮面を被った侵入者の姿と、その隣で怯えているネルの姿……怪我もなく無事ではあるが、侵入者は何をしでかすかわからない。見たところ丸腰だが、武器を隠し持っているかも。


 俺はゆっくりと仮面の侵入者に近づいて、問いかけた。


「侵入者、人質を解放しろ」

「……」


 すると、侵入者はネルの肩に置いていた手を離した。その表紙に、ネルがこちらへ駆け寄ってくる。そして、俺に勢いよく抱きつくと、か細い声で言った。


「逃げよう……クロード」

「ダメだ。侵入者を追い払うまで、この魔法学園すら安全とは言えない」

「でも……!」

「俺が、魔法学園を、勉強会組のみんなを……ネルを守る。だから安心してくれ」


 俺はそっとネルを抱きしめ返すと、彼女は安心したように言った。


「……クロード」


 そして、そっとネルから離れると侵入者の方を見た。仮面越しだから表情などはわからないが、どこか不気味な雰囲気を纏っていた。これが闇魔法の力か。


「何が目的から知らないが、俺が相手をしてやる。見たところ、相当な闇魔法の使い手のようだが」

「……」

「今すぐここから去れ! ここは俺の魔法学園だ!」


 俺は両手に火魔法を込めると、侵入者に向けて放った。奴がそれを闇魔法で相殺した瞬間、次の火魔法を放つ。俺は手から次々と火の玉を射出し、闇魔法の壁にぶつける。


 そして、ゆっくりと侵入者の方へ近づいた。火魔法はあくまで牽制だ。このまま接近戦に持ち込む!


 俺は最後の巨大な火の玉を放つと、それを自分の水魔法で打ち消した。すると、蒸気が舞い上がり、目の前が真っ白になった。この目隠し越しに接近するのが俺の作戦だ。


 白い煙の中を駆け出すと、目の前に突如、黒い棘のようなモノが現れた。俺はそれを回避して、また走り出す。この棘も恐らく、闇魔法の一種だろう。


「そこだ!」


 俺が人影に向かい火魔法を放った瞬間、目の前がパッと光って、熱波が全身に振り注いだ。思わず目を細める……奴が火魔法を使って、俺の魔法をかき消したようだ。


「ここから去れ!」


 俺は怯まなかった。そして、煙や炎の中を走り、やがて侵入者の姿が見えてきた。俺はそのまま、仮面に向かって勢いよく殴りかかり────。



 目が覚めると、目の前にはネルの姿があった。俺の顔を覗き込むと、安心したような表情を浮かべ、そのまま仰向けの俺に抱きついた。


「クロード! 無事でよかった! ……ありがとう、助けてくれて」

「ネル……侵入者は?」

「クロードが追い払ったんでしょ?」

「俺が……あぁ、そうだっけ?」


 俺は身体をそっと起こして辺りを見た。広場の真ん中で、多くの生徒や先生たちが俺のことを見ていた。どうしたんだ一体……そう思った瞬間、周囲から歓声が上がり、拍手の音が聞こえた。


「よくやったぞ、クロード!」


「ありがとう! 魔法学園を守ってくれて」


「魔獣だと聞いて驚いたが、もうお前は俺たちの仲間だ!」


「クロード、ありがとう」


「ありがとう」


 みんな、俺のことを讃えていた。俺はただ、ネルやみんなを守りたかっただけなんだがな……はぁ。疲れたよ。

 結局、あの侵入者は何だったのか。わからないが、ひとまずはこれで安心か。後はそうだ、マーシャとの約束だな。


 すると、丁度人混みの中からマーシャが姿を現した。そして、俺の方を見て小さく呟いた。


「魔獣反対委員会は今日で解散にするわ……だからもう、さっきの約束はなしだから」


 そう言って、また人混みに消えていった。


 俺はネルの温もりを感じながら、しばらく歓声を聞いていた。



 侵入者の騒動が一段落ついて、魔法学園がまた通常の授業を再開した頃。噂では、マーシャは自分の罪を自白して退学になったらしい。まぁ、魔道具開発部を脅したり、ボドイチの権利を悪用しようとした彼女の罪は消えはしないだろう。


 俺はいつも通りジルに教科書を見せながら授業を受け、そのまま放課後になった。


「クロード、教科書ありがとな。いやぁ、魔法学園を救った英雄から教科書を借りることができるなんて光栄だな」

「思ってもないことを言うな」

「いやいや、半分は本音だよ」


 ジルは笑って、俺の肩に手を置いた。


「で、クロードは今日勉強会参加するよな?」

「それなんだか……少し用事があって今日は参加できない。すまないな」

「なんだよ。ならまぁ、俺たちだけでやっとくけどさ。学イチも近いんだからほどほどにサボれよ?」

「サボりじゃない、用事だ」


 俺は立ち上がると、ジルに手を振って教室を出た。


 そして、そのまま真っ直ぐに保健室へと向かった。俺は、以前の侵入者との戦いから、ずっと引っかかっていることがあった。一度きりの強大な敵……人質を要求しておいて自ら解放するという矛盾。何かが変だ。


 俺はそっと保健室の扉をノックした。中から「どうぞ」という声が聞こえてくる。


 中では、いつも通りシーナ先生が椅子に座っていた。


「シーナ先生……」

「クロードですか。どうしかしましたか?」

「どうかしましたも何も、先日魔法学園を襲った仮面の侵入者って、シーナ先生だろ?」


 すると、シーナ先生はあっさりと答えた。


「そうですよ?」

「だよな……って、認めるのが早いな?」

「隠す必要もありませんからねぇ」

「侵入者を装い、シアと結託して魔獣である俺を〝英雄〟に仕立て上げることによって……命を守ってくれたんだろ」

「まぁ、大体合ってます」


 しかも、あの一件から、ネルのことを呪われていると言って避ける者はいなくなった。彼女が自ら、みんなのために人質を買って出たことで、もう一人の英雄と呼ばれているらしい。


「しかし、怪我人がいなかったとはいえ、魔法学園全体を巻き込んであんなことをするなんて……」

「それなら安心してください。あれは、校長が考えた魔法学園の危機に対する生徒や先生の反応を見るための〝訓練〟だったのです。もしも、本当に魔法学園に侵入者が現れた時に、皆がきちんと対処できるかの確認をしていました」


 そういうことだったのか。ならまぁよかった……のか?


「その、シーナ先生……俺は先生のことをずっと勘違いしていた。呪いのことを今まで俺に隠していたから」

「それはすみません。こちらも事情があるのですよ」

「だからその、信じようと思う。俺の記憶のことも」

「ええ。安心してください。〝その時〟が来たら、あなたは全てを知ることができますから」

「その時? 来るのか、そんな日が」

「はい。来ますよ。案外すぐかもしれませんね」


 シーナ先生は優しく微笑むと、立ち上がって棚から一枚の手紙を取り出した。


「そういえば、マーシャから手紙を預かっていたんですよ。読みますか?」

「マーシャから?」

「はい。彼女は今、故郷に帰って反省しているみたいです」

「そうか」


 俺は手紙を受け取ると、中を見た。そこには、ただ白い紙の真ん中に『ごめんなさい』とだけ書かれていた。


「彼女はどうやら、アランと同じく魔獣に大切な人を奪われた過去があるようなんです。だから、クロードの正体を魔眼を用いて見抜いたとき、つい魔が差したとのことでした」

「そうだったのか」

「全ての魔獣が凶暴であるとは限らないように、全ての人間が善人でいられるとは限らないのですよ」


 俺は彼女に本気で殺されそうになったが、恨んだり復讐したいという気持ちにはなれなかった。それどころか、彼女の境遇を気の毒にすら思えた。


「なぁ、シーナ先生」

「どうされましたか?」

「俺が今年の学イチを獲ったら、勉強会組を正式に部活にしたいと考えている。俺が卒業した後も、それが続いていくと嬉しい」

「ほう、それは中々楽しそうな提案ですね。最後の試験、応援してますよ」


 すると、シーナ先生が言った。


「そういえば、あの一件からアランとは会いましたか?」

「え? 会ってないな、そういえば」

「ですよね。少し心配です」

「確かになぁ。ずっと寮にいるのか」

「まぁ、ひとまず様子見ですね」

「そうだな」


 俺はシーナ先生にもう一度礼を言うと、保健室を後にした。

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