ナイフ
目が覚めると、倉庫のような場所にいた。手足が椅子に拘束されており、何故だろう……魔法が使えないようだ。
ふと、足元を見ると、精巧な魔法陣が描かれていた。これのせいで魔法が使えないのだろう。これでは逃げ出すこともできないな。
周囲を見渡してみる。恐らく、魔法学園の使われていない倉庫といった感じだろうか。誰もいない。俺は大きくため息をついて、何故こんなことになったのかを考えていた。
すると、奥にある扉がガチャリと開いて、奥から何人かの生徒が部屋に入ってきた。先頭にはマーシャ、そして奥にいる何人かの知らない生徒たちの中には、アランの姿があった。
「アラン……?」
彼は俺と目を合わせると、顔をしかめた。
「クロード、見損なったよ」
「え?」
「俺はお前のことを尊敬していた。ずっと言わなかったが、間違いなくな……でも、こんなことがあっていいのか」
「待て、俺の言い分を────」
「うるさい! 魔獣が人間のフリをして喋るな!」
アランが声を荒らげて、俺に駆け寄って胸ぐらを掴む。それに抵抗することもできず、ただアランの言葉に耳を傾けていた。
「何故お前は……あの時のうのうと俺を飯に誘ったんだ! 何故お前は俺を助けた? 俺だけじゃない、故郷の村まで! 魔獣のくせに……!」
俺は黙って、彼から目を背けた。アランの気持ちは分かる。だからこそ、何も言い返せない。
「お前は魔獣である以前に、ただのクズだ!」
「アラン……すまなかった」
「すまなかっただと……?」
アランは俺の服を掴んでいた手を緩めると、その場に座り込んだ。その様子を見たマーシャが、アランに言う。
「安心するといいわ、新入り。いや、アランといったか。私のボドイチの権力はまだ残っている。だから明日、それを使ってクロードを公開処刑しようと思っているわ」
その言葉にアランはハッと顔を上げた。
「処刑……?」
「あら、処刑という言葉が引っかかったかしら? そうね、殺処分とでも言おうかしら。だって、彼は魔獣だものね」
「…………」
────その瞬間、地面が揺れるような轟音が響いたと思えば、魔法学園全体に響くほどの声が聞こえてきた。なんだこの声は……? しかも、驚くべきことにその声には聞き覚えがあった。間違いなく、それはシアのものだった。
『学園のみんな、聞いてくれ。今、私は学イチの権利を使って、魔法学園の中央にある塔の上に登って、声の振動を魔法で増幅し、それを鐘に伝わせてみんなに話しかけている』
すると、魔獣反対委員会の一人が呟いた。
「聞いたことがある……中央の塔には学園全体に声を響かせることができる魔道具があると」
さらに、シアの声が続いた。
『緊急事態だ。広場周辺で、正体不明の侵入者が確認されたらしい』
侵入者……? 外部の者が、あの強固な結界を破ったのか?
『その侵入者は仮面をしており、今も尚闇魔法を纏いながら学園内を闊歩している。生徒達は、すぐさま広場から離れたところに避難してほしい』
すると、一人の男が声を上げた。
「ここ、広場から相当近いぞ! 俺は避難する」
「待ちなさ────」
マーシャの呼びかけも虚しく、男は去っていった。
『現在広場では、先生方やレオ率いる不良集団が侵入者を取り押さえようとしているが、おそらくは時間稼ぎにしかならない……』
レオ・ファミリーが? しかも時間稼ぎにしかならないだと? 仮面の侵入者……よほどの実力者だな。しかし、一体何が目的なんだ。
すると、奥にいた女子生徒がハッとした。
「レオさんが!? 私も加勢しないと!」
そう言って、倉庫から出て行ってしまった。彼女もレオ・ファミリーの一員だったようだ。マーシャはそれを見て、大きなため息をつく。
「こんな時に侵入者……? クソ、何もかも上手くいかない!」
そして、シアの声色が変わった。
『速報が入った……仮面の侵入者が人質を要求し、それを一人の女子生徒が買って出たそうだ。その子の名前はネル。私の友人だ』
ネルが……!? 思わず身体が反応して、椅子がガタリと揺れる。アランも同じように、勢いよく顔を上げた。
『しかし、人質を取った今も、依然として仮面の侵入者は侵攻を進めている。レオ・ファミリーは闇魔法によってほとんど無力化されており、先生方も魔力切れを起こしている』
仮面の侵入者……そんなに強いのか。クソ、俺が拘束されていなければ! ネルは無事なのか? 誰か侵入者を止めてくれ!
『もう、侵入者を止められる可能性のある人物はたった一人になった……そう、学園で一番の魔法使いで、最強の魔獣。クロードだ!』
俺は突然名前を呼ばれて、目が覚めた。そうだ、俺ならそいつを止められるかもしれない。
『頼む、クロード! ネルや魔法学園のためにも、侵入者を追い払ってくれ!』
俺はかつてないほどの大声で叫んだ。
「アラン!」
「クソがぁ!」
アランは立ち上がると、ナイフを取り出して、俺の足元にある魔法陣に突き刺した────その瞬間、身体がフッと軽くなった。これで魔法が使える!
俺は手や足に巻かれていたロープを火魔法で焼いてほどくと、立ち上がった。アランは下を向いたまま、俺に言う。
「行け! クロード、絶対にネルさんを助けろ!」
「わかっている」
俺が走り出そうとした時、マーシャに呼び止められた。
「クロード!」
「なんだ?」
「全てが終わって、魔法学園と人質の安全が確保できたら……ここに戻ってきなさい」
「わかった。その時は煮るなり焼くなり好きにしろ」
だが、今はその時ではない。
何故なら、ネルが俺を待っているからだ。
俺は勢いよく、倉庫を飛び出して、広場へ向かった。
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