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魔獣

 やがて、サヤの言った通り、正式にマーシャに決闘を申し込まれた。そしてついに、決闘の当日となった。


 この決闘についての噂話はすぐに広がり、学園中の生徒が広場に集まっていた。勉強会組のみんなも、決闘を見届けようと駆けつけてくれた。

 サヤによると、九割の人間が、俺が勝つと予想しているらしい。


 広場に俺が到着すると、人だかりの真ん中に、マーシャと決闘委員会の委員長が立っていた。俺がその場にたどり着く頃には、周囲は静まり返っており、俺たちの会話に耳を傾けていた。


「マーシャ、会うのは二度目か。何故俺に決闘なんか挑んだ?」

「それについては、きっとあなたも察しているわよね?」

「……」


 しばらくの間、沈黙が訪れた。そして、委員長が言う。


「何を賭けますか?」

「俺はそうだな……〝マーシャが俺たちの邪魔をしない権利〟を」


 マーシャは腕を組むと、小さく言った。


「私は、〝クロードを魔獣反対委員会の管理化に置くという権利〟を」


 それを聞いて、周囲がざわついた。「何故クロードを?」「そもそも魔獣反対委員会ってなんだ?」などと、各々が考察を始めた。

 しかし、俺は心の中で少し焦っていた。この決闘に負ければ……俺の学園生活は終わる。


 すると、マーシャが言った。


「みなさん、決闘の前に聞いてくれませんか!」


 辺りが静まり、その場にいる全員が彼女の声に耳を傾けた。


「実は、この学園には〝生徒のフリをした魔獣〟が潜んでいます!」


 俺は何も言い出せず、ただ黙るしかなかった。


「その魔獣を追い払うために、私は魔獣反対委員会を設立したのです! そう、このクロードを魔法学園から追放するために!」


 その瞬間、彼女が指を鳴らした。すると、人混みに潜んでいた複数人の生徒が、俺の方へと駆け寄ってきた。

 そして、俺に向かい大きな布をかぶせる────。


 そして、俺は魔獣の姿になった。


 クロードではなく、魔獣の姿に。


 周囲の音が一気に流れ込んでくる。

 四方八方から、悲鳴が聞こえてきた……魔獣である俺を見て、怯えている。恐れている。驚いている。


「おい、アイツ魔獣だったのか!?」


「魔獣……魔法学園に? 結界はどうなってる?」


 やめろ、俺は……。


「俺たちはずっと魔獣と生活していたのか」


「魔獣、本物か?」


 違う、俺はただ……。


「魔獣だ!」


「魔獣……」


 違う、俺は人間に……人間になりたかっただけなのに。


 次々と聞こえてくる人々の声に、俺は思わず耳をふさいだ。しかし、消えない。音が、胸を締め付ける痛みが、不安が、恐怖が消えない。


 俺は嵌められたんだ。


 俺は、ずっと守ってきた自分の立場を今、奪われたんだ。


 ……ネル。ごめんな。


 俺は魔獣反対委員会のメンバーと思われる生徒に拘束されると、麻酔の薬草を食べさせられた。


 意識が遠のく。目の前にいるマーシャは俺を見下ろしながら、小さく言った。


「そのマント、本当に役に立ったのね……」

「この魔道具は……サヤのものじゃ?」

「魔道具開発部を人質に取って脅したら、渡してくれたのよ」

「……」


 すると、マーシャが俺の顔を覗き込んで、強く言った。


「魔獣がのうのうと学園生活を送っているなんて、馬鹿げてるわ……」


 その言葉を境に、俺は意識を失った。

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