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勝ってね

 授業が始まった日。

 相変わらずジルは、隣の席でずっとゴネていた。休みやイベントが終わるたびに、コイツはいつもそんなテンションになる。しかし、今回ばかりは俺もその考えに同意した。勉強会組と過ごす休暇は楽しすぎた。


 放課後、ジルが俺に教科書を渡しながら小声で言った。


「なぁ、クロード。知っているか?」

「なんだよ」

「ボードゲーム部の部長、マーシャっていただろ?」


 そういえば、以前話しかけられたことがあったな。


「あぁ……で、ソイツがどうかしたのか?」

「それが、最近怪しげな団体を立ち上げたらしいんだ。『魔獣反対委員会』ってのをな」

「なんだそれ……」


 魔獣に反対? ここは学園だぞ。魔獣なんて反対してどうする。俺が言えたことじゃないが。


「まぁ、くだらない委員会だとは思うが……クロードは一応、気をつけたほうがいいぞ」

「わかった……」


 するとそこへ、丁度アランがやってきた。


「お前ら、魔獣反対委員会の話をしていたのか?」

「あぁ、まぁな」

「俺も丁度、気になっていたところなんだ」

「そういえばお前は魔獣が嫌いだったな」

「そうだ……魔獣の存在さえなければな、といつも思っている」


 そして、しばらく魔獣反対委員会について考察していると、そこへネルがやってきた。そして、アランに向かって言う。


「アランくん、ユアさんから聞いたよ。付き合ったって」

「あぁ、そうだ。お前らが手伝ってくれたおかげだよ」

「いやぁ、実はね。元々ユアさんから相談を受けていて、両思いかもなとは思ってたんだ」

「そうだったのか……なら、遠回りしちまったのかもな」


 すると、ジルが言った。


「一生遠回りしてるやつもいるから安心しろ」


 そんなやつもいるのか。


 ────すると、焦った様子のサヤが教室に入ってきたかと思えば、こちらに駆け寄ってきた。彼女がこんなに急いでいるのも珍しいな。


「クロード!」

「どうした? サヤ」

「それが、さっきある情報を手に入れたんだ……マーシャが、ボドイチの権利を使ってクロードに決闘を仕掛けようとしてるって!」

「……なに?」


 魔獣反対委員会の設立からの、俺に対する決闘の申し込み……まずいな。やはり正体がバレているのか。しかし、相手がボドイチの権利を使っているのであればこちらに拒否権はないし……。


 アランがこの場にいる以上、マーシャの真の目的について考察することはできなかったが、確かに怪しさを感じていた。

 もし負けたら、何か脅されるんじゃ……?


 すると、サヤがふぅとため息をついて言った。


「クロードが負けるはずはないと思うけど……一応報告しておいた。ひとまず、私は部室に戻るよ」

「あぁ、教えてくれてありがとう」


 サヤを見送った後、今度はジルが言った。


「今日は解散にするか? クロードもいつでも決闘を受けれるように休んどきなよ」

「そうか……まぁ、そのほうがいいのかもな」

「おう。ほんと、気をつけろよ。マーシャとかいうやつ、何考えるかわかんねぇから」

「わかってるよ。俺が負けるはずがない」


 結局、勉強会は開催されず、俺はネルと共に寮へ帰ることにした。いつも通りの帰り道だが、少しだけ重ための空気が流れていた。


「さっきジルくんから聞いたけど、マーシャさんは魔獣反対委員会ってのを設立したらしいね?」

「あぁ。だが、どういう団体なのかや、どういう活動をするのかは不明らしい。アランは気になっているみたいだが」

「魔獣反対かぁ……変だよね」


 ネルはやはり心配そうだった。今回の決闘は、確かに何か怪しい点があると思う。しかし、決闘にさえ負けなければいいんだ。俺は今まで負けたことなんて一度もない。


「ネル、約束しないか?」

「え?」

「俺がマーシャとの決闘で勝ったら、その……もう一度ハグしてほしい。肝試しのときみたいに」

「えぇっ! その、急だね……?」


 ネルはピタリとその場に立ち止まると、うつむいてしまった。


「嫌だったか……?」

「ううん。ただね、恥ずかしくって……」

「すまない」

「ううん。むしろその……勝ってね?」

「あぁ。わかってるよ」


 夕焼けの下、俺はネルの横顔をじっと見つめていた。赤く染まる頬に、チラリとこちらを見る視線、その瞬間、彼女と目が合う……。


 ネルは照れくさそうに笑うと、また「勝ってね?」と言った。俺が大きく頷くと、彼女はまた笑った。

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