表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/57

第四話「最初の一手」

第四話「最初の一手」


「なあ、俺の目がおかしくなったのかな?」


タケルが眉をひそめる。

不安はあるが、声はしっかりしている。

“揺らぎ”の中で、彼はまだ自分を保っていた。


「俺の目の前に、

**“でっかい胃薬”があるように見えるんだけど……」


その言葉に、アークMk‑Ⅱの空気が一瞬止まった。


「……は?」


ミカの声が裏返る。


アイルが首を傾げる。

「イガクスリ、オオキイノ、フツウダヨ?」


「普通じゃないからね!?

ていうか、なんで境界の“最初の試練”が胃薬なのよ!!」


ハルが計器を確認する。

「……反応は確かにある。

だが……形状が……“胃薬”としか認識できない……?」


調律者“達”が一斉に興奮し始める。


「境界が……こちらの“概念”を読み取って……!」

「最初の接触対象を……“胃薬”として具現化……!」

「これは……これは……!」


「ロマンダネ!!」

アイルが満面の笑みで叫ぶ。


「ロマンじゃない!!」

ミカが即ツッコミを入れる。


ハカセは腕を組んで、満足げに頷いた。

「ふむ……境界は“恐怖”ではなく、

こちら側の“必要性”を優先したようじゃの」


「必要性って何!?

誰が巨大胃薬必要としてるのよ!!」


タケルが小さく手を挙げる。

「……俺、ちょっと欲しいかも」


「欲しがるな!!」


ミカの叫びが、境界の揺らぎを一瞬だけ押し返した。


だがその瞬間――

巨大な胃薬の“影”が、ゆっくりと動いた。


「……動いたよね?」

タケルが青ざめる。


「うむ。動いたのう」

ハカセがあっさり認める。


「なんでそんな落ち着いてるのよ!!」


境界の“最初の試練”。

それは恐怖でも敵意でもなく――

**こちら側の“概念”をそのまま具現化した存在**。


だが、だからこそ危険だった。


“誰の前に立っているか”が揺らぐこの場所で、

“誰の必要”を反映したのかすら分からない。


巨大胃薬は、ゆっくりとこちらへ向き直った。


---


境界は、まだ遊んでいる。

だがその遊びは、決して無害ではない。



「ふむ、まず、“スタート地点”には立てたかの。

ここからは“総力戦”じゃ。

もちろん、“わしも含めて”、の」


ハカセが静かに前へ出る。

その背中は、さっきまでの“ふぉっふぉっふぉ”とは別物だった。


「ハカセって、戦えるの?」

ミカが半ば呆れ、半ば期待を込めて尋ねる。


「まあの。“そこいらの若いもんには”負けないくらいには、の」


そう言って、ハカセは――

**ファイティングポーズを取った。**


だが、その構えは奇妙だった。


拳法の構えにも見える。

古武術にも見える。

ボクシングにも、合気にも、剣術にも、柔術にも、

どこかしらの要素が混ざっている。


しかし、どれにも完全には当てはまらない。


「……なにその構え」

ミカが目を丸くする。


ハルが分析するように呟く。

「……いや、違う。

“どれでもない”のではなく――

**“全部ある”んだ。**」


調律者“達”が一斉に反応する。


「全流派の動作データ……!」

「境界干渉を受けて……最適化……!」

「いや、これは……“原型”……!」


アイルが無邪気に笑う。

「ハカセ、カッコイイ!」


ハカセは軽く首を回し、

まるで若者のように肩をほぐした。


「ふぉっふぉっふぉ。

わしはのう……“研究者”である前に、

“実践者”でもあるのじゃよ」


その瞬間、巨大胃薬の影が揺れた。

まるで“こちらの構え”に反応したかのように。


ミカが叫ぶ。

「ちょっと待って!?

なんで胃薬が戦闘態勢に入ってるのよ!!」


タケルが青ざめる。

「……俺の胃が痛くなってきた……」


「安心せいタケルくん。

“本物の胃薬”は、戦わん」

ハカセが笑う。


「いや、安心できるか!!」


境界の“最初の試練”。

それは、形を持たない問い。

視点を揺らがせる影。

そして――

**こちら側の“概念”を具現化した敵。**


ハカセが構えを深める。


「さて……

境界よ。

“最初の一手”、見せてもらおうかの」


紺色の揺らぎが、再び動き出した。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ