表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/57

第三話「”最初の”お客さん」

第三話 「”最初の”お客さん」


「オキャクサン、イッショニノル?」


アイルが無邪気に手を振る。

紺色の揺らぎの向こうで、何かが“こちらを見ている”気配がした。


「さすがに、それは“まだ”危険じゃのう」

ハカセが珍しく真面目な声を出す。


「……“いつか”安全になる未来が見えないんだけど」

ミカが震える声で言う。


「……ここは“ロマン”の見せ所だね!?」

調律者が胸を張る。


「「「「だね!!」」」」

調律者“達”と”ハルまで”ノリノリで返す。


「……待って……もう不安しかないんだけど……」


ミカの声は完全に涙目だった。


「安心して!“秘密兵器”を起動するから!!」

調律者が満面の笑みで宣言する。


「一つだけ、これだけは確実に言える……

それ、絶対に安心できないやつでしょ!?」


「ぽちっとな」


「ちょ、ま……!」


ミカの制止を聞く気など最初からない。

調律者の指が、迷いなく“それ”を押した。


アークMk‑Ⅱ内部の照明が一瞬だけ落ち、

次の瞬間――


**機体全体が、境界の揺らぎと“同調”を始めた。**


「……なにこれ……」

ミカが呆然と呟く。


「秘密兵器、“境界適応モード”起動。

境界との同期率……上昇中……!」

調律者A(本体)が興奮気味に読み上げる。


「境界の波形を……逆位相で……!

いや、これは……同調……いや、共鳴……!」

調律者Bが震える声で続ける。


「境界が……反応している……!

歓迎の意図、さらに増大……!」

調律者Cが目を輝かせる。


「……ねえ、なんで三人ともテンション上がってるの……?」

ミカが後ずさる。


「ふぉっふぉっふぉ。

境界が“こちらを認めた”ということじゃよ」

ハカセが満足げに頷く。


「……それ、喜んでいいの?」

ミカの声は震えていた。


「もちろんだよ!」

調律者が笑う。

「だって――“お客さん”が、もっと近くに来たから!」


その瞬間、アークMk‑Ⅱの外側。

紺色の揺らぎが、まるで“扉”のように左右へ割れた。


そして――

**何かが、姿を現した。**


---



目の前のそれは――なんだ?


いや、そもそも「目の前」とはどこだ?

誰の視界だ?

誰の“前”に、それは立っている?


境界の揺らぎが、視点を曖昧にしていく。

アークMk‑Ⅱの内部にいるはずなのに、

まるで自分が“どこから見ているのか”が分からなくなる。


「……誰の前?」

その問いが、どこからともなく響いた。


だが――

**その問いは、誰の問いだ?**


ミカが息を呑む。

「……今の、誰が言ったの?」


「境界じゃろうな」

ハカセが静かに答える。

さっきまでの軽さは消え、声に深い響きが宿っていた。


「最初の試練。

じゃが、“最初だから簡単”とは限らん。

むしろ――」


紺色の揺らぎが、ゆっくりと形を成し始める。


「すべてが揺らぐこの境界では、

**最初が一番“危うい”**」


調律者“達”が同時に息を呑む。


「……反応、変質」

「観測点が……複数化……!」

「いや、これは……“観測者の揺らぎ”……!」


アイルだけが、いつも通り首を傾げている。

「ミンナ、ドウシタノ?」


その無垢な声が、揺らぎの中で唯一の“固定点”として響く。


ミカは震える声で言う。

「……ねえ、あれ……“誰に向かって”出てきてるの?」


ハルが計器を見つめながら答える。

「……分からない。

観測者が揺らいでいる。

“誰が見ているか”が定まらない以上、

対象も定まらない」


「……つまり?」

ミカが喉を鳴らす。


ハカセがゆっくりと告げる。


「つまり――

**境界は“こちら側の誰か”を試しておるのではない。**

“こちら側そのもの”を試しておるのじゃ」


紺色の揺らぎが、ついに形を結んだ。


それは――

**誰かの影のようで、誰でもない。**

**誰かの姿のようで、誰の姿でもない。**


境界が問いかける。


「――あなたは、誰の“前”に立っている?」


アークMk‑Ⅱの内部に、

静寂が落ちた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ